軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2話 暗殺依頼についての弁明

ディアブロが再び魔人国王城へと呼び出しを受ける。

「…………」

今回、呼び出しを受けた理由を理解しているディアブロはいつも以上に硬い顔で、魔人国首都にある王城廊下を歩き続けていた。

向かった先は以前、派手に叱責を受けた時と同じ場所――執務室である。

ディアブロは扉の前に立ち止まり、軽く呼吸して覚悟を決め、震える指先を硬く握りノック。

暫くすると魔人種女性メイドが、少しだけ扉を開き、ノックした人物を確認する。

既に話が通っていたため、一度扉を閉められるが、数分後、再度開き、中へと案内された。

向かった先は、床に臥している国王の代わりに魔人国を采配するヴォロス第一王子の前だ。

まだ国王が亡くなっていないため即位していないが、実質、魔人国のトップである。

ヴォロス第一王子は、ディアブロが到着した事に気付くと書類仕事の手を止め笑顔を作った。

「良く顔を出せたなディアブロ。もしかしたら我の前に姿を現さずに国外に逃亡するやもと考え、追跡部隊の手筈も整えていたのだが。無駄になって本当によかった、よかった」

「ちゅ、忠実なる臣下であるミーが、ヴォロス様のお声がけを無視して逃げるなどありえませんよー」

ディアブロは冷や汗を浮かべつつ、媚びるように返答する。

以前、顔を合わせた際は、出会い頭に噴火した火山の如く『この裏切り者がぁぁぁぁぁぁぁあッ』と怒声を浴びせられた。

今回は怒声こそ無かったが、冷ややかな台詞、嫌味、顔は笑顔なのに一切笑っていない鋭い瞳がディアブロを射抜く。

彼が萎縮する姿に同情心など一切見せず、ヴォロスが軽く手を上げメイドを下げる。

執務室にヴォロス、ディアブロの2人だけだが残った。

……実際はヴォロスの護衛として死角に、護衛者が存在する。

ディアブロが暴れて取り押さえられない限り、彼が気付くことはないが……。

ヴォロスは書類仕事をしていた机に両肘を付け、顎を乗せる。

その姿勢で、和やかに問い出す。

「それでディアブロ……我が貴様を呼び出した用件、当然理解しているな?」

「はっ! もちろんですー! 今回はその誤解を解きに来たのですよー!」

「ほう! 誤解を解きに来たと!」

ヴォロスは舞台に立つ俳優のように、やや過剰な演技でディアブロの台詞をマネする。

彼は声高に問う。

「なら早速、誤解を解いてもらおうかディアブロ子爵殿! 『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』に我の暗殺を依頼したという誤解を! ちなみに、貴様が魔人国首都にある『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の交渉人と接触し、仕事の依頼をした件については我の方でも裏はとっておるからな。貴様が領地の税を急遽上げて、纏まった金銭を裏で動かしていることもだ。その上で聞くに堪えない歌を唄ったら……分かっているだろうな?」

ヴォロスの瞳が細くなる。

その瞳は冷たさを通り越して、殺意が宿っていた。

ディアブロは慌てて弁明する。

「ヴォロス様! 確かにミーは『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の交渉人と接触しましたー! しかし決してヴォロス様の命を狙ったわけではないんですよー! 別の者の暗殺を依頼した筈なのに、なぜか『ヴォロス様の命を狙った』と間違った情報が書かれていたのですー! これはきっとミーとヴォロス様の仲を裂く狡猾な計略なのですー!」

ディアブロは魂が篭もった台詞を吐き出す。

――ディアブロはダークと名乗る冒険者、ライト暗殺を『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』へと依頼した。

結果、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』のトップ5『 死剣(モルテ・スパーダ) 』が返り討ちにあう。

ただ返り討ちにあうだけならよかったのだが……。

『 死剣(モルテ・スパーダ) 』達は生きているが、まともに会話し思考する能力を消失。

さらに彼らが『暗殺結社 処刑人(ブロー) の暗殺者』で、貴族や商人等の殺人事件・虐殺などの犯人で、他にも貴族などがどんな理由で暗殺依頼をしたのか事細かに書いた看板がデカデカと側に立てられた。

内容はどれも酷いモノで、物的証拠がある訳ではないが暗殺された人物、依頼した人物の関係を知るものが見れば『ああ、なるほど』と納得するほどの真実みがあった。

しかしなぜかディアブロだけは、『冒険者ダークの暗殺』ではなく、『 処刑人(ブロー) を使って、ヴォロス第一王子の暗殺を依頼した』事になっていた。

他の内容がどれも真実みがあるため、ディアブロについては第一王子の暗殺を依頼したというのは誤解なのだが、妙な説得力を持ってしまっていた。

今回、ヴォロスの元へ来たのもその誤解を解くためだ。

しかしヴォロスは一切信用していない瞳で、ディアブロへと尋ねる。

「ほう……なら我の暗殺ではなく、誰を殺すためわざわざ『 処刑人(ブロー) 』の交渉人と接触を持ったのだ?」

「そ、それはですねー……」

流れ出る冷や汗をハンカチで拭いつつ、言い淀んででしまう。

ここで『昔、殺したと思ったますたー候補のライトが生きていたので内密に殺すため暗殺結社に依頼した』とは言えない。

もしそんなことを口にすれば、ますたー候補を殺したということで手に入れた、ディアブロの貴族の位、領地や莫大な金銭などが全て取り上げられてしまう。

ディアブロの取れる手段は少ない。

「わ、私事の内容のためヴォロス様のお耳に入れるのは憚れてしまうのですよー。領地の問題故、明確にお話をするのは難しいですがー……。ただミーが言えることは、ミー自身の立場を危うくする不確定要素を確実に排除したいため、領地の税率を上げてでも暗殺結社に仕事を依頼したのですよー」

ディアブロは冷や汗を拭いつつ、領地の問題――ライト暗殺ではなく、未だ生きている実兄暗殺だと誤認させるような台詞を口にする。

領地の運営は各貴族の手によっておこなわれているため、例えヴォロスと言えど軽々に手を出していいモノではない。

そんなことをすれば貴族達から反発を受けてしまう。

『当主相続問題』と明言はしていないが、匂わされたらヴォロスも口出しは難しい……もちろん抜け道はあるが。

「領地に関する問題、ね……」

机に両肘を載せていたヴォロスが、背もたれに体を預ける。

ヴォロスからすればさっさとディアブロを始末したいが……『自分の命を狙っているかもしれない』という理由程度では今すぐ殺害する訳にはいかない。

ディアブロの主張が正しい可能性も排除できない上に、そんなことをすれば他の暗殺依頼をした他貴族まで殺害もしくは厳罰を与えなければならなくなり、魔人国は秩序が乱れて崩壊してしまう。

殺意を呑み込みつつ、

「確かに領地の問題に口を挟むのはよろしくないな……」

「賢明なご判断、ありがとうございますー」

上手く誤魔化すことが出来そうで、ディアブロは安堵の声色を漏らす。

だがヴォロスはより一層、目を細めディアブロへと問う。

「とはいえ、やはり言葉だけでは相手を信じられないのもまた真実。ディアブロ、我に対する忠誠心を今一度、しっかり示してはくれないか?」

「ちゅ、忠誠心ですかー?」

「別に難しいことを求めはしない。貴様が知る通り現在、人種王国領土にてとある作戦が実行されているが、あまり上手くいっていないのが実状だ」

その『とある作戦』とは、魔人国の要求を呑まない人種王国に対して『魔人国兵士達が賊に扮して国境近くにある人種王国村を襲って、非道の限りを尽くして立場を分からせる』というものだ。

しかし、人種王国兵士&『巨塔の魔女』部下らしき者達によって、悉く作戦が失敗していた。

「ディアブロと『巨塔の魔女』が繋がっているという手紙を何度も我は受け取っているが、貴様は否定していたな?」

「は、はい! もちろんですよー! ミーは『巨塔の魔女』と繋がってなどいませんよー!」

「ならばこの作戦に兵を出してくれないか。もし『巨塔の魔女』と繋がっていないのなら問題はないよな? 国境を越えて ヒューマン(劣等種) 共もゴミのようにブチ殺すことが出来るよな?」

「へ、兵ですかー……」

「そうだ。我に目に見える形で忠誠心を見せてくれないか、ディアブロ」

『もしこの要請を断るなら……』と、ヴォロスの表情が語っている。

その言葉に押され、ディアブロは胸中で必死の計算をする。

(ヴォロス様は完全にミーの忠誠心を疑っていますー……。ですが、逆にいえば忠誠心を示せばいいだけー! しかも領民を生け贄に差し出し、 ヒューマン(劣等種) 共――地を這うゴミ虫達を殺せばいいだけー! 例え領民が死んでもミーが生きていれば、領地の回復はどうとでもなりますからねー)

ディアブロは『自分さえ生きていれば、領地を立て直せる。自分にはその才覚がある』と信じ切っていた。

彼は真っ直ぐ紳士的な態度で返答する。

「畏まりましたー。ヴォロス様にミーの忠誠心をお見せ致しますー! 喜んで人種王国に対して兵を出させて頂きます-!」