作品タイトル不明
番外編2 温泉回・前編
『 巨塔街(きょとうがい) 』外縁部。
妖精メイドの指示に従いエリーが召喚したドラゴン達が、原生森林の木々を掘り返していた。
指示を出す妖精メイドが不満気に声をあげる。
「あーもー最悪っていうか。本当に地上での作業とかハズレだし~」
「き、き、気持ちは分かるけど、あんまりお、お、大きな声を出すとき、聞かれちゃうよ」
文句を漏らすギャルメイドに、オタクっぽいメイドが釘を刺す。
妖精メイドとドラゴンの他に、『 巨塔街(きょとうがい) 』に住む 人種(ヒューマン) 男性が木々の処理、空いた穴の埋め直し、他力仕事をおこなっている。
ギャルメイド達からは距離があるため、2人の会話を耳にすることは出来ないが、遠目でちらちらと下心が混じった視線をいくつも受けた。
妖精メイド達は誰しもが地上の女性達とは比べものにならないほどの美少女、美女で、男達の一部はどうしてもついつい欲の混じった目で追ってしまう。
一方で妖精メイド達からすれば……。
「あーし達の体、魂、吐き出す吐息一つも全てライト様のモノなのにさぁ~。ああいう目を向けられると本当に腹が立つっていうか~」
「ま、まぁね。で、で、できれば開拓もぜ、全部、ウチらでやらせてもらえればもっと、こ、こ、効率がいいのに」
実際、全て妖精メイドとドラゴン達がすれば外縁部の開拓作業はもっと早く進む。
とはいえ、それでは仕事を作ることが出来ない。
なので効率が悪くても、仕事を作るためにわざわざ人種男性を入れているのである。
理屈は分かるが……感情的にはあまり良い気持ちはしないため、やはり地上での仕事は妖精メイド達からは不人気と言えた。
故に持ち回りでおこなっている。
『グルル』
「? な、な、なんか岩がで、出てきたらしい。ど、どうしようか?」
「開拓の邪魔だし、ドラゴンに取り除いてもらえばいいんじゃない~」
『グルル!』
開拓の途中に地面からひょこり大きめの岩が出ていた。
ギャルメイドの指示で、ドラゴンが声を上げると岩を掴む。
そのまま人外の力で力任せに引っ張るが……なかなか抜けず、難儀する。
『グルル!』
ドラゴンは知能が高い。
力任せに頼るのではなく、今度は左右に揺さぶって隙間を作る。
十分隙間を作った所で、再び引っ張ると……地面に埋まり収まっていた岩は意外なほどあっさり取り除くことが出来た。
ただ問題があるとすれば……。
『グルル!?』
「えぇ!? 何、水~!」
「あ、あ、熱いからこれってお湯じゃない?」
ドラゴンが岩を引っこ抜くと、なぜかお湯が吹き出る。
妖精メイド達の指示で、再びドラゴンに岩を戻させて蓋をした。
このトラブルに一時、開拓作業は一部中止になってしまった。
そしてこの報告は上を通し、ライトへと伝えられる。
☆ ☆ ☆
「地上で温泉が出た?」
『奈落』最下層執務室で、エリーから『 巨塔街(きょとうがい) 』の進捗を聞かされる。
その中に一件、面白い案件が混ざっていたのだ。
エリーは僕に会えるのが嬉しいらしく、微笑みを浮かべながら報告を続ける。
「外縁部の開拓中に岩を取り除いた際、お湯が出てきたとか。一時岩を戻し蓋をして、魔術によって完全に湯が漏れ出ないよう蓋をしたそうですわ。妖精メイドが成分を確認した限りただのお湯ではなく、過去文明でも有名な『温泉』で間違いないとのことですの」
「まさか『温泉』を掘り当てるなんて。面白いこともあるもんだね」
過去文明に関する資料はダンジョン化した遺跡、建物から得られる書籍、昔からの言い伝えなど様々な形で現代にも伝わっていた。
『種族の集い』時代によく耳にしたのは『~遺跡には未だに発見されていない過去文明の宝が眠っている』、『~ダンジョンには過去文明から存在する強いモンスターがいる』、『~の過去文明の建物に入ると生きては出られない。だから注意しろ』云々など、胡散臭いモノから、お宝関係のモノなどが多かった。
その中でも『温泉』ネタは有名な話である。
過去文明の遺跡から発掘された書籍によく登場するため、冒険者だけではなく、一般人の間でも有名な話だ。
その過去文明の書籍によれば温泉に入ると……打ち身、擦り傷、疲れ、肌荒れなど簡単な傷の治癒だけではなく、美容にも効果が高いとか。
他にも露天風呂、果実を浮かべた風呂、かけ湯、温水滑り台、さらに男女一緒に入るお風呂――など他種多様な種類があったようだ。
「火山が多いドワーフ王国領土に、過去文明の『温泉』を再現した街があるって聞いたことはあったけど、『巨塔街』にも温泉が出るなんて思わなかったよ」
「ライト 神様(しんさま) は、そのドワーフ王国の温泉街を訪れたことはありませんの?」
「無いね。ああいう場所はお金に余裕がある人達か、一生に一度の思い出として無理をしてでも行ってみたい種用の場所だから」
さすがに『お湯に入るため』に大金を支払ってドワーフ王国領土にある温泉街に行く気にはなれない。
「ただ入った種の評判は良いらしいよ。普通のお湯に入るより気持ちいいって」
「恐らくですが、地下から出ることで湯に体を労る、健康にする成分が溶け込みそれに浸かるため普通の湯より、気持ちよくなるのだと思いますわ」
「さすがエリー、ただのお湯と温泉の違いをもう突き止めているなんて」
「いえ、この程度、ライト 神様(しんさま) の英知に比べれば大したことありませんわ」
エリーは恐縮しつつも、僕に褒められて嬉しそうに一礼する。
「しかし折角出たんだから、そのまま蓋をするのも勿体ないかな……。折角だから、その温泉を利用する建物を作るのもありかもしれないね。燃料を使わずお湯が使えるなら、楽に体を洗うことが出来て『巨塔街』住人の公衆衛生に役立ちそうだし」
「さらに公共事業として人夫を募ることで、新しい雇用も創造するのですね。さすがライト 神様(しんさま) ですわ! まさに理に適った策かと」
「あははは、ありがとうエリー。それに折角だから、完成した暁には皆で一緒に入りたいね。温泉に入るなんて滅多に出来る事じゃないから。皆の日頃の疲れを癒すためにも」
「!?」
この言葉にエリーは、強敵からまったく予想していなかった奇襲攻撃を受けたかのような衝撃的表情を作る。
だが、その表情もすぐに先程まで浮かべていた微笑みに変わるが……どうも、先程に比べて貼り付けたような感じになっていた。
僕は何か不味いことを言ってしまっただろうか?
思わず尋ねる。
「エリー、僕は何か変な事を言ったかな?」
「いえ、ライト 神様(しんさま) は何も変なことを仰ってはいらっしゃらないかと。むしろわたくし達のことを労ってくださるそのお優しいお心に感動しているだけですの」
「? なら良いんだけど……」
感動したからあれほど驚いたのかな?
(うーん……無い話ではないのか?)
僕が首を傾げているとエリーが笑みを作り、声を出す。
「では早速、温泉地を作る作業指示を出させて頂きますわね。なるべく早急に皆で入れる温泉地をお作りしますわ!」
「うん、よろしく頼むよエリー」
エリーの声に反応して僕は返事をする。
彼女はお手本のような優雅な礼をすると執務室を後にした。
☆ ☆ ☆
執務室を後にしたエリーは興奮気味に頬を赤く染めて、廊下を歩く。
「ま、まさかライト 神様(しんさま) から直接、皆(エリー達)と一緒に温泉に入りたいなんて……ッ!」
小声だが興奮気味にエリーは漏らしつつ廊下を歩く。
「ら、ライト 神様(しんさま) からあんな積極的なお言葉がでるなんて! もうこれはその日がライト 神様(しんさま) とわたくしの愛を生み出す日になるに決まっていますわ!」
エリーの脳内でピンク色の妄想が繰り広げられる。
彼女は思わずその場に立ち止まり、自身の妄想の恥ずかしさで耳まで赤くし、両手で顔を押さえて悶えてしまう。
廊下には誰もいなかったからいいが、その姿を目撃されたら、エリーの株は確実に下がっていただろう。
彼女は羞恥心を落ち着かせて、
「ライト 神様(しんさま) と初めて体を重ねる場所が温泉で、しかも複数人の視線ありなんて些か乙女的にはもう少しロマンチックな雰囲気をお願いしたいところですが、全てはライト 神様(しんさま) のお望みのままに! 将来の后、良き妻、良妻賢母としてこのエリー気合を入れて頑張りますわ!」
頭がピンク色になったエリーが、両手を握り締め改めて気合を入れたのだった。