作品タイトル不明
29話 手料理
元魔人国ますたーであるミキから、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』を立ち上げた魔人国ますたー『ギラ』の情報を得ようと交渉した。
最初は際どい要求が多かったが、スズの手料理で落ち着く。
だが、スズは僕のためにずっと練習をしていたらしい。結局、最初に僕が食べるという条件でスズも承諾してくれた。
『奈落』最下層訓練場にキッチンが用意される。
食堂で作ってもよかったのだが……ミキの要求の一つに『スズがフリフリエプロンをつけて新妻っぽく料理を作っているのを眺めたい』というのがあったための措置だ。
食堂の調理場ではさすがに、ミキを拘束し続けるには狭過ぎる。また無いとは思うが……最悪、拘束を抜け出し戦闘になった場合被害が大き過ぎるため却下。
なので 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』カードで、訓練場にキッチンを準備したのだ。
そのキッチンでスズがミキの望み通りフリフリのエプロンをつけて料理作りに取り組む。
(僕も口にするからって凄い気合の入れようだな……)
スズはフリフリの可愛らしいエプロンを着けているが、顔は戦場にでも立っているかのように真剣だ。
雰囲気も緊張感が漂い、『これ新妻っぽいか?』と問われたら首を傾げてしまうが……。
「あぁぁあ~スズちゃんがミキィのためにお料理してくれるなんてぇ~。ああぁぁぁ~」
ミキ的には問題ないらしく、拘束されたまま今にも昇天しそうな笑みを浮かべていた。
(あくまでスズは僕のために作って余りをミキへとお裾分けするだけだから、正確には彼女のために作っている訳ではないんだけど……)
ミキが幸せそうなためあえて指摘する必要は無いだろう。
ちなみにメニューは……煮込みハンバーグセットだ。
煮込みハンバーグにサラダ、パン、コーンスープ、デザートに果物も付いている。
材料が既にスズのアイテムボックス内部にあるのと、一番自信があり、また妥協してくれたミキへのお礼も兼ねて大量に作れるのを選んだらしい。
スズ特製ソースにハンバーグを入れて煮込めばよいため量が作れるらしい。
パン、コーンスープもだ。
一番自信があるというだけあり、スズの手際は非常に良かった。
「デュフフフ……まるでミキィとスズちゃんが新婚生活をしているみたい」
(新婚生活で相手を拘束なんてしないと思うんだけど……)
ミキの台詞に思わずツッコミを入れそうになるがグッと我慢する。
そうこうしている内にスズの料理が完成。
僕が座るテーブルに彼女が並べていく。
煮込みハンバーグはソースが未だにぐつぐつと沸騰し、コーンスープも温かそうな湯気を昇らせている。
パンも彼女が一から作り、サラダドレッシングも全て手作りらしい。
本当に手が込んでいる。
「それじゃ早速、頂くね」
「(こくこく!)」
僕はスズに声をかけ、早速煮込みハンバーグに手を伸ばす。
ハンバーグをナイフとフォークで切ると、中から白いとろりとしたチーズが姿を現した。
どうやらチーズをハンバーグの中に入れていたらしい。
早速、一口大に切って口に運ぶ。
ソースは深い味わいで甘みもあり、ハンバーグによくあっている。
チーズも合わさって非常にクリーミーだ。
「ハンバーグのお肉とチーズも美味しいけど、このソースが一番僕の好みだよ」
「!」
僕の言葉に不安そうな表情を浮かべていたスズが『ぱぁっ』と大輪の花が咲くように笑顔を作る。
お世辞ではなく、本当に美味しい。
ちょっと行儀悪いが、パンを千切ってソースにつけて食べると非常に美味しかった。
コーンスープもコーンの甘みと、粒が入っているので味と食感が楽しい。
サラダのドレッシングも美味しくて、野菜を苦もなく食べることが出来た。
デザートのフルーツも、僕の好みをちゃんと把握し、食べやすい大きさに切られて嬉しい配慮がされていた。
全部、美味しく食べ終えると、改めてスズへお礼を口にする。
「スズ、全部美味しかったよ。また機会があったら、作ってくれると嬉しいな」
「――ありがとう、ございます。ライト様に食べて頂けて嬉しいです」
僕にしか聞こえないほど小さな声で、心底嬉しそうに微笑みながら返答した。スズの嬉しそうな笑顔を見られて僕も嬉しかった。
「ああぁ~スズちゃんの純粋な可愛い笑顔が見られただけでミキィ、もうお腹いっぱいなのぉ~」
ミキが僕とスズのやりとりを眺めて、独り言を漏らす。
これからスズが作った料理を食べるのに、お腹一杯でいいのだろうか?
実際、ミキは笑顔が見られただけで胸がいっぱいらしく、スズが作り出した料理は彼女のアイテムボックスにしまい好きなタイミングで堪能するため取っておきたいらしい。
アイテムボックスに入れれば時間経過も無いため、いつでも出来立てが食べられる。また一応、妥協してくれたミキへのお礼に結構な量を作っているため、かなりの時間楽しむことが出来るだろう。
なのでミキ的にも、僕達に監視されつつ食べるより、1人独房に居る際にゆっくり堪能したいとか。
(……ちゃんと普通に食べるんだよね?)
最初、提案された『スズの入ったお風呂のお湯』の一件があるため微妙に信用がおけないが……。
下手に突っ込んで僕が想像も出来ないアブノーマルな性的嗜好を聞かされても精神が削れるだけだ。
ここは黙っておくのが賢明だろう。
拘束を受けつつミキがスズお手製の料理をアイテムボックスに仕舞った所で、彼女は真面目な表情を作った。
「それじゃ約束通り対価ももらったから、答えちゃうわよぉ。確かギラの情報が欲しいのよねぇ?」
「ああ、そうだ」
「うふふふ、で・も。ミキィ、今、ちょー気分が良いから他のマスター達の情報も教えちゃう☆ サービスよ、サービスぅ」
よほどスズの手料理を食べられるのが嬉しいのかミキがギラだけではなく、他ますたーの情報も教えてくれると言い出す。
どうやら本当にスズの手料理が食べられるのが嬉しいようだ。
彼女の好意を無下にする理由もない。
僕達は黙って語り出すミキの情報に耳を傾けた。