作品タイトル不明
28話 対価は要求
「それで情報の対価に何を求めるんだい?」
「そうね……なら今回は――」
ミキが僅かに溜めを作った後、欲望にまみれた笑顔で告げる。
「スズちゃんの全身をミキィが満足するまで舐め回させて欲しいわぁ!」
「!?」
「……却下だ」
僕の背後に居るスズがミキの発言後、心底嫌そうに首を振るのが伝わってくる。
最初の要求を却下されたミキは、すぐさま次の欲望――対価を指定する。
「なら……スズちゃんが長時間入ったお風呂のお湯を頂戴!」
「……ちなみにスズが長時間入ったお風呂のお湯なんてもらってどうするんだ?」
さすがに意味不明な要求に僕は思わず尋ねてしまう。
僕の問いにミキは興奮気味に返答する。
「スズちゃんが長時間入ったお風呂のお湯よぉ! 使い道なんて一杯有り過ぎて困るぐらいだわぁ! まず直飲みでしょ。お酒で割って飲んでも良いし、料理に使ってもいいわ。逆にそのお湯に入ってスズちゃんの温もりを感じつつ、一体化。さらにミキィのも混じって文字通りスズちゃんと一つになるのよぉ。他にはお湯をミキィの中に入れ――」
「ごめん。もういい。もういいから!」
饒舌に語り出したミキを止めた。
これ以上聞いたら、頭がおかしいことを絶対に言い出す。
精神攻撃耐性をこの場に居る僕、メイ、エリー、スズは持っているが、聞いたらそれを突破し絶対に気分が悪くなることを言うだろう。
わざわざ自分から気分が悪くなる必要はない。
僕はミキの言葉を制止。
要求を確認するため背後を振り返ると……。
「(ぶんぶんぶん)!」
スズが涙目で首をブンブン横に振っていた。
気持ちは分かる。
気持ち悪い行為に使われると知りつつ自分の残り湯を差し出す勇気は僕も持てない。
「それも却下だ。前にも言ったけどスズが嫌がることは出来ないって。もっと現実的に可能なことを願ってくれないか?」
「えぇぇ、全部十分現実的なのに……なら、スズちゃんにミキィのために手料理を作って欲しいなぁ。新婚のお嫁さんっぽくフリフリのエプロンを着けて、ミキィだけのために愛情タップリの料理を」
「愛情はともかく、料理を作るか……」
今までの変態的要求に比べれば、格段にまともな要求だった。
これならスズも問題なく受け入れてくれるだろう。
僕は彼女の返答を確認するため背後を振り返る。
「…………」
「スズ?」
スズは『ミキのために料理を作って欲しい』という要求に対して、拒否したいという空気を漂わせていた。
最初の2つに比べれば大した要求ではないし、スズが『奈落』最下層でたまに料理を作っているのは耳にしていた。だから料理が作れないから、避けたいという雰囲気でもない。
気まずそうに口を噤むスズに代わって、彼女の手の内にあるインテリジェンスウェポンのロックが動く。
『アアァー……らいと様、宜シイデショウカ』
「ロック? 構わないよ」
「!?」
スズはロックが理由を説明しようとするのに驚く。
止めようにも僕が許可を出した手前、制止できずあたふたする。
ロックは構わず話を続けた。
『アリガトウゴザイマス。実ハ相方ノ奴、ズット隠レテ料理ノ練習ヲシテイテ……。ソノ努力モ全部、何時カらいと様ニ食ベテ貰イタイカラデシテ。ナノデ腕ヲ振ルウナラ、らいと様ニ初メテ作ッタ料理ヲ食ベテ欲シイラシインデスヨ』
「ああ……なるほど。だから拒否するような雰囲気だったのか」
「~~~~ッ!」
ロックの台詞にスズは恥ずかしそうに俯き、片腕で顔を隠す。
片手にロックを掴んでいなければ、両手で顔を隠していただろう。
そんなスズに対してメイ、エリーも『あら~』と微笑ましい者を見るように笑みを浮かべる。
一方、ミキは、『照れるスズちゃんも最高に可愛らしいわぁぁああッ!』と喜びを露わにする。
(ミキはスズが何をやっても喜ぶよな……)
僕は思わず変な感心をミキにしてしまう。
しかし、スズが『奈落』最下層厨房を借りて料理を作っているとは耳にしていたが……。
僕に料理を食べて欲しくて練習していたとは。
その気持ちだけで非常に嬉しい。
だが、そうなるとミキの要求をまた断らなければならないな。
さすがにスズの密かな努力、気持ち、想いを踏みにじるようなマネは出来ない。
「なら折角の機会だし、ライトちゃんに料理を作ってあげたらぁ? ミキィ的には新妻っぽく料理を作るスズちゃんが見られれば満足だし。作った料理をライトちゃんが食べた後、残ったのをお裾分けしてくれれば満足よぉ」
「それでいいのか?」
「ええぇ、むしろ、ライトちゃんのために作った愛情タップリの料理を残ったのとはいえ食べられるのは素晴らしいことだわぁ!」
ミキの妥協にロックも追従する。
『相方、コノ辺ガ落トシ所ダト思ウゾ。らいと様ニ一番最初ニ食ベテモラエルシナ』
「……(こくり)」
ロックの後押しもあって、スズはミキの要求に同意する。
話がまとまりギラの情報を得られるのは個人的にもありがたいが、僕のために頑張って練習していたスズの料理が食べられるのはもっと嬉しい。
むしろ、彼女のように『いつか僕のためになるかも』と料理などの練習をしている者達のために、そういう時間を作った方がいいのかもしれないな。
(……そのあたりは後でメイと相談しないと)
『奈落』最下層の内政を預かるメイに後で相談しようと脳内にメモして、早速スズが料理を作るための準備を進めるのだった。