作品タイトル不明
1話 兄の行方
――時間は少々、戻る。
魔人国が音頭を取って急遽開催されたシックス公国会議。
魔人種ディアブロは将来の魔人国を背負う若手エリートとして参加したが、会場で『黒の道化師』パーティーと出会う。
その1人、道化師の仮面を被ったダークを名乗る少年の癖を見て、彼が約3年前『奈落』で殺害した筈のライトだと気付いた。
ディアブロは難癖をつけて仮面を取らせて顔を確認したが、火傷が酷すぎて判別できない。
しかし彼は確信する。
『あれは絶対にライトだ』と。
しかも『黒の道化師』は『 巨塔街(きょとうがい) 』に出入りし、『獣人種大虐殺』で人種救助に参加した結果、『巨塔の魔女』に好感を抱かれているらしい。
特に仮面の少年、つまりダークがお気に入りで、『巨塔の魔女』が直接声をかけたという噂すらある。
(仮にダーク……ライトに手を出したらエルフ女王国を落とし、『獣人種大虐殺』をおこした『巨塔の魔女』が出てくるとか……最悪ですよー)
だが、ライトを放置した場合、魔人国上層部に彼の生存を知られたら、『ますたー候補』を始末した褒美として与えられた特権を全て失うことになる。
ディアブロは貴族ではなくなり、1市民となってしまう。
もし再度、一般市民に落とされたら、嫁実家に追い出した実兄が再び当主の座を得て、二度とディアブロが下克上できないように命を狙ってくる可能性があった。
現在の権力を手放せば、自分の命が危ないことをディアブロは理解していた。
状況は最悪。しかし好材料もゼロではない。
ディアブロの記憶が刺激されて、自領にライトの兄が奴隷として送られてきたことを思い出したのだ。
手元に持っていた資料にはライト兄の行った先は記されていない。
恐らく自領にあるが、ディアブロは魔人国若手エリート代表としてとしてシックス公国へと来ている。
会議前に帰国した場合、経歴に傷がつく……。
ディアブロは苦悩したが、経歴に傷が付くのを容認する。
「ライトが生きていると上に知られて、特権を奪われる方が致命的ですー。経歴に傷が付くのは辛い所ですが、挽回は後からいくらでも出来ますからねー」
彼は決断を下し、シックス公国から自領へと急ぎ帰国した。
ディアブロの目的はライトと交渉するため、彼の実兄の身柄を確実に押さえることだ。
そして、ディアブロはシックス公国会議の結果を知る前に、急ぎ自領へと帰国してしまった。
☆ ☆ ☆
ディアブロは自領へと帰国すると、着替えるのももどかしく屋敷の執務室へと入り書類を漁る。
「約2年前、奴隷商に連れられてミーの領へと入ったはずー……。ならこの資料に書かれている……あったですー!」
ディアブロの記憶通り、入領してきた者達の年齢、出身地、大雑把な身長体重などが書かれた書類の写しを見つけ出す。
正確な住人の把握は統治の基礎だ。
例え相手が人種奴隷といえど彼らは富を生み出す労働力のため、しっかりと記録されていた。
この資料を辿って、ライト兄を捜していくが……。
「? ……冬でもないのに凍死しているですかー」
魔人国はこの世界で最も北にある国だ。
それ故、麦が育たず、代わりとしてジャガイモなどが中心に育てられていた。
ライト兄は開墾するため農奴として購入され、約1年前に凍死と記されている――が、その内容がややおかしい。
「冬でもないのにライト兄の他に若い男の 人種(ヒューマン) が複数、凍死しているですかー? これはいくら何でもありえませんよー。労働に一番適した若い男性 人種(ヒューマン) が冬でもないのに凍死するなんてー……。第一、安い金額とはいえ金銭はかかり、仕事を覚えさせるのも時間を使いますから、これほど簡単に凍死させるようなことはあるはず無いのですがー……」
そしてディアブロは思い出す。
「……ッ!?」
表に出せない書類一覧を漁り、約1年前の書類を取り出す。
「コレって確か頭のおかしい藪医者に送る人種奴隷リスト……あぁあ! やっぱりそうですー!」
ディアブロが言う『頭のおかしい藪医者』――魔人国マスターの1人ドクに送る 人種(ヒューマン) 奴隷リストというモノがある。
ドクは『 人種(ヒューマン) の未来を切り開くため』と称して、人種を外部からのアプローチで強化する研究をおこなっている。
だがただ単に人種を切り刻み、苦痛を与えて、モンスターの細胞を混ぜたりなど悪趣味な拷問のような人体実験を繰り返しているに過ぎなかった。
ディアブロも当主になって知ったが、このドクに定期的に『研究材料として健康で生きが良い人種奴隷を送る』と契約が結ばれていた。
ディアブロだけではなく、魔人国の貴族達と多数契約を結んでいるのだ。
対価として治癒魔術で、ポーションで治せない病気や怪我を治療してくれるとか。
人種奴隷に対して悪趣味な人体実験を繰り返しているが、腕は確かで保険として契約を結んでいる魔人国貴族も多い。
約1年前、そんなドクに人種奴隷を献上する時期だっため、ライト兄達を『凍死』として表面上、死亡させた。
そしてドクの研究所に送ってしまったのだ。
「当時、上から順番に生きの良い人種奴隷を送るよう指示した時に、ライト兄も紛れ込んでいたということですかー……」
書類が提出された際、ディアブロはしっかり人数が揃っていることだけを確認して許可を出した。
だからライト兄が紛れ込んでいることに気付かず、ドクの研究所に送ってしまったらしい。
「約1年前ではさすがに死亡していますよねー……」
生きていればライトへの交渉材料になったが……。
頭のおかしいドクの研究所で1年間も生き延びている可能性はほぼゼロだ。
ディアブロは自分のミスに頭を抱える。
「……とりあえず連絡を取って遺体だけでも回収するべきですねー」
死体だけでも回収すれば、ライトとの交渉材料になり得るかもしれない。
その可能性に懸けて、ドクの研究所に連絡を入れる準備をする。
また保険として他の案も考えていた。
「最悪の場合、暗殺結社にライトの暗殺を依頼するべきですねー……多額の金銭を支払うのは痛いですが、今の地位を失うよりは大分マシですからねー」
ディアブロは苛立ちながら奥歯を噛みしめる。
「人種は虫ですー。短い人生を生きて地面を這いずり死ぬ。まるで虫のように生きるのが人種ですー。そんな虫にミーの輝かしい貴族の地位を脅かされるなどあってはならないことなのですよー! そのためにもライトにはどんな形であっても消えてもらわないとならないのですー……」
ディアブロの瞳に狂気の光が宿る。
彼はただひたすらライトの死を願い続けた。