作品タイトル不明
10話 川下り
シックス公国まで流れる川の側にある町について3日後――僕達は川を下る船に乗り込む。
「天気が良いのもあるけど、船で川を下るって気持ち良いものだね」
人種王国一行は、馬車ごと船に乗り込み出発する。
船は当然貸し切りで、国王達は最高級ルームを宛がわれて、僕達もリリスの護衛として個室を割り振られていた。
現在は部屋から出て景色を眺めながら、2度目の船旅を楽しむ。
空は快晴で、甲板に立つ僕の肌を風が撫でた。
『SSR、道化師の仮面』を付けているため、素顔で風を浴びることが出来ないのが残念なほどだ。
一方でゴールドは興味深そうに端から川面を覗き込んでいた。
「……気配を探っても本当に川にはモンスターが居ないな。うむ、実に興味深い」
「海にはモンスターが居るけど、川に居ない理由は現在でも判明していないらしいけどね」
「そうなのですか、ダーク様?」
ゴールドの言葉に僕が応えると、ネムムが反応する。ゴールドも興味深そうに振り返ったので、僕は教えられた話を口にした。
「そうらしいよ。川にはなぜかいないけれど、海には大小のモンスターが生息して、地上より全体的にレベルが高いっていう研究結果があるんだよ。だからより遠い、深い場所には、地上では考えられない高レベルの海中モンスターが居るかもしれないと考えられているんだ」
「実際に確認した訳ではないのか?」
ゴールドの問いに頷く。
「現在の技術だと遠くに行くのも、海中深く潜ることも出来ないから、あくまで推測だよ。実際、遠くどころか沿岸部を行き来するのも危険だからね。今の技術で遠くの海洋まで出るなんてほぼ自殺行為だよ」
僕の 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』カードを駆使すれば、出来なくなさそうだが……。
「流石ダーク様! 博識ですね!」
ネムムが青空に輝く太陽に負けないほどキラキラと光る尊敬の瞳を向けてくる。
「あははは、ありがとうネムム。でも全部、昔聞かされた受け売りだから。別に僕が凄い訳じゃないよ」
そう、先程の知識は全て『種族の集い』メンバーから教わった話だ。
飯時かクエスト後の打ち上げで飲みの席だったか忘れてしまったが、その時に聞いた内容である。
あの時は、『種族の集い』メンバーを真っ直ぐ信じ込み、『疑う』事など頭の隅にもなかった。
皆と冒険するだけではなく、ただ生活するだけで楽しかったほどだ……。
胸に裏切りの怒り、悲しみ、楽しかった過去の思い出が過ぎ去り、胸が痛む。
気付けば黙って、空いた片手で胸を服の上から掴んでいた。
「…………」
「だ、ダーク様、どうかなさったのですか? じ、自分は何か不敬を働いてしまったでしょうか?」
「……ごめん、ネムム。別に不敬なんて働いていないよ。ちょっと昔の嫌な事を思い出しちゃっただけだから」
涙目であわあわと心配するネムムに僕は仮面越しに笑ってフォローした。
ゴールドが気を利かせて、話を変える。
「そろそろ腹も減ったし、風を浴びるのにも飽きたから船内に戻って何か食べぬか?」
「そうだね。僕もそろそろお腹が減ったし、ちょっと早いけどお昼にしようか」
「ダーク様が仰るなら賛成です!」
「ネムム……お主はもう少し主体性を持った方が良いと思うぞ?」
「ダーク様が自分の主体だから問題ない!」
「お、おう、そうか……」
ネムムがどや顔で断言する。
ゴールドもそこまで力強く断言されるとは考えておらず、中途半端な返事をした。
僕は2人のやりとりが妙に面白くて、笑ってしまった。
気づけば先程まであった気まずい空気は、完全に取り除かれていた。
☆ ☆ ☆
船に乗って1日。
川を下って、シックス公国へと到着する。
接岸し船を下り、初めて僕はシックス公国へと足を着ける。
「ここが世界で最も栄えている場所の一つ……シックス公国か」
シックス公国は、6種が出資し代表して 竜人種(ドラゴンニュート) がトップに立ち、責任を持って運営する国家だ。
竜人帝国の玄関口にある国でもある。
ここを通って、川を渡って竜人帝国に入国しなければならない。
シックス公国には魔術学校を始め、学校、大図書館などが存在し、国際都市だけではなく学術都市という側面も持つ。
新しい技術は基本、このシックス公国で誕生し、発表される。
人種、エルフ種、 竜人(ドラゴニュート) 種、獣人種の領土と接している上、川から海へ出られる運河輸送もあるため、人や物が集まるのだ。
船から馬車を降ろし、人種王族一行はシックス公国の中心へと向かう。
シックス公国中心に各種族が管理する屋敷が存在するのだ。
公国に滞在する間は、基本その屋敷で宿泊することになる。
さらにそれらの各種族の屋敷の中心に、会議をおこなう会場が存在する。
会議が始まると、代表者が会場に集まり円卓に座って話し合いをおこなうとリリスから説明を受けた。
船からリリス達は馬車で移動する。
僕達や兵士達は、その後を徒歩で移動した。
歩きながら初めての公国を観察する。
「城壁も高くて、建物や人、物も多く活気もある。これがシックス公国か……」
「主よ、あそこの屋台の川魚の串焼きがうまそうだから買ってきてもよいか?」
「駄目に決まっているだろ! 自分達は護衛で来ているのだ! 観光で来た訳じゃないんだぞ!」
「ネムムの言う通り、買い食いは落ち着いてからにしようね」
「主が言うならしかたないな」
僕、ゴールド、ネムムがいつもの調子で会話をする。
公国の中心にある人種屋敷に近付く。
屋敷の出入口は各種ごとにあり、人種出入口は南西にあり、真南に出入口を持つ獣人種の前を通らなければならない。
人種兵士達の顔色に緊張感が走る。
意味が分からず、僕達は互いに視線を向け合い、首を捻った。
答えはすぐ判明する。
先に到着していた獣人種代表者達の護衛兵士らしき獣人種が、人種王族一行に気付く。
いつもなら、人種を見下す態度を獣人種が取っていたのだろう。
人種兵士達は下手に反応せず、問題が起きないようやり過ごすため緊張感が走ったようだ。
とはいえ今回は毛色が違った。
「ッゥ!? 人種(ヒューマン) 一行!」
「あー、用事を思い出したわ」
「は、早く行こうぜ!」
「お、おう。絶対に目を合わせるなよ」
ある獣人種は人種に怯え、ある獣人種は下手な演技をしながら獣人種屋敷へと戻る。
ある獣人種達は落ち着かない態度で、足早に人種一行に気付かない振りをして街へと出て行く。
彼らの態度の変化に人種兵士達が困惑し、ざわつく。
逆に僕は獣人種の反応理由に察しが付いた。
(僕が考える以上に、『獣人種大虐殺』の影響があるようだな……)
獣人連合国の族長達が、『ますたー』であるヒソミに唆されて『巨塔の魔女』に宣戦布告。
その際、人種を違法手段で掻き集め、一部を人質にして戦いを強要した。
僕はミヤが誘拐されたのと、その対応が気に喰わず、戦場に立った獣人種や関係者を皆殺しにしたのだ。
人種である『巨塔の魔女』によって、文字通り1人も生き残らず皆殺しにされた事実に、戦いに参加しなかった一般獣人種兵士にも恐怖が刻み込まれたようだ。
故に彼らは人種一行に関わらないようにしたのである。
(確かに普通の感性を持っていたら、ちょっかいを出すどころか、関わり合いたいとは思わないよな……)
お陰で僕達は絡まれることなく無事に人種屋敷に入ることが出来たのだった。