軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話 町

到着した町は、シックス公国まで流れる川の側に作られていた。

この町に他国からの輸入品が入り、人種王国の小麦、木材、奴隷などが輸出されていく。

この町が最も人種王国首都から近いが、規模はそれほどではない。

本来こういう品物が集まり、輸出される流通拠点は人、物、金が集まるため栄える。しかし人種は基本的に貧しく、生きていくのに精一杯のため、まともに品物を買うことが出来ない。

生活品や食料品を買うのがせいぜいで、嗜好品に手を出す余裕が無いのだ。

町に集まる輸入品は少なく、輸出品も値段を自分達では決められないせいで利益が非常に低い。

結果、流通拠点にも拘わらず、『街』に発展せず町レベルで落ち着いてしまっているのだ。

リリスの護衛として初めて、人種流通拠点の一つに入ったが……あまり『活気がある』という感じではなかった。

「人はそこそこ居るが、もうすぐ日が暮れて、飯時だというのに活気がないな」

「なんと言うか……淡々と感情も無く生活をしている感じですね。ちょっと気味が悪いですね」

ゴールド、ネムムがそれぞれ町中を観察して感想を漏らす。

僕も彼らの言葉におおよそ同意する。

国王一行をこの町を治める町長が門前で出迎えた後、その町長が先頭に立ち、今夜泊まる町長屋敷へ移動中だ。

その移動の際、町中を観察しているのである。

町長の屋敷は極一般的な貴族屋敷だ。

国王、リリス、一部メイド達は彼らと一緒に貴族屋敷に宿泊。

一方、僕達を含めた護衛と兵士達はというと、屋敷近くに建てられている兵舎へと案内されるらしい。

シックス公国会議があるたびいつも同じ事をしているため、町の兵士達等の受け入れ側も慣れた様子で動く。

町長側屋敷メイドが案内を申し出るが、一応確認のためリリスに声をかける。

『種族の集い』時代、護衛仕事はやったことが無いため、勝手が分かっていないというのもあるが。

「リリス様、僕達は兵舎へ移動してもよろしいのですか? ネムムだけでもお側にお預けした方がよろしいと思うのですが」

「……お気遣いありがとうございます、ダークさん。ですが、もう町の中で安全ですから。護衛の必要はありません」

「……了解です。失礼いたしました」

「いえ、お気になさらずに」

リリスが発言前に、ちらりと町長に視線を送る。

町長は国王に挨拶中で、こちらの会話には気付いていない。

確かに町中、屋敷内部にもかかわらず目立つように護衛を付けたら、『町長が取り仕切る町の治安、屋敷の安全を疑っている』と思われることもあるだろう。

リリスは王族として、客人として屋敷主である町長に気を遣ったのである。

リリス達が挨拶後、屋敷内部に入るのを見届けてから、町長側屋敷メイドの案内で兵舎へと移動する。

兵舎は平屋建てで雑魚寝が基本の大部屋だらけだが、一部隊長格や要人用にある個室を、女性が居ることに配慮して『黒の道化師』パーティーに貸し出された。

兵士達の前で仮面を外す訳にはいかないので、これは嬉しい配慮である。

荷物を置くと、案内してくれた町長側屋敷メイドが兵舎食堂で僕達を歓迎する宴があるため、案内するという。

「申し訳ありませんが、僕は顔に酷い火傷があって人前で仮面を取る訳にはいかないので、欠席させてください」

「ダーク様が行かないのであれば自分も欠席で」

「なら我輩が主達の代わりに出席し、欠席する理由もちゃんと説明しよう。我輩、兵士や傭兵、冒険者などを盛り上げるのが大得意だからな!」

ゴールドはウキウキした様子で、町長側屋敷メイドの案内で食堂へと移動する。

彼はなぜか酒場などで、荒くれ者達と酒を飲み盛り上がるのが大好きだった。ゴールドの発言通り、彼の手にかかれば、歓迎会の場でネムムにお近づきになろうとした者達が、彼女の欠席を知り気まずい空気になっても、再び盛り上げることが出来るだろう。

一方、地上に出てからゴールドとは正反対に、ネムムは酒場などで騒ぐのを嫌うようになった。

『奈落』最下層では妖精メイド達と一緒に楽しくお喋りをして盛り上がっていたのにだ。

どうも地上ではネムムの美貌に惹かれて、よく声をかけられるので嫌気が差したようだ。

微かに聞こえる兵士達の盛り上がる声を聞きつつ、僕とネムムも町長側屋敷メイドが運んできてくれた歓迎会料理を口にする。

ネムムはハッキリと眉を顰めた。

「……本当に地上の料理は不味いですね。こんな物をライト様に食べさせるとは、不敬ですよ」

「けど、折角僕達を歓迎して作ってくれた料理だし、食べずにそのまま残すのは勿体ない上、不審がられても困るからね」

僕はネムム正面の席に座って、薄い味のスープを口にする。

パンは硬く、肉も臭みがあり、付け合わせのマッシュポテトは味がない。ネムムは葡萄酒を口にしたが、不味そうに口元を歪める。

『奈落』最下層の食堂で食べる料理と比べると、圧倒的に味が薄く、幅も狭く、調味料が足りない。

冒険者時代なら、見たこともないご馳走なのだが。

「今頃リリス達が食べている食事は、もうちょっとネムムの口に合う物だと思うよ」

「それでも『奈落』の食事に比べると酷いと思いますよ。地上の人種はよくこんな物を食べる生活で満足出来ますね……。自分は耐えられそうにありません」

「あははは、そりゃ『奈落』の食事を知ったら、皆、ネムムと同じ態度になると思うよ」

僕は彼女の感想に思わず笑ってしまう。

僕が一通り笑い終えると、リリスに関して話題を振ってくる。

「リリスといえば、先程護衛を断っていましたが、念のため自分が陰ながら護衛に付きますか?」

「……いや、彼女の言葉通り町中なら問題無いだろう。一応レベル100で、毒物無効アイテムや緊急時のマジックアイテム、『無限ガチャ』カードも渡しているから、いざと言う時も問題無いだろうしね」

シックス公国会議までにリリスのレベル100を突破出来なかったのは悔しいが……今回は時間が無いので『無限ガチャ』カードでレベルの低さを補ってもらった。

「むしろ、問題はこの町だよ」

僕は硬いパンを千切り、口にして咀嚼する。

ネムムが黙って待ち続けた。

「……この町はまるで人種の現在、未来を表しているようだ」

自分達で輸出品の値段も決められず、買い叩かれるため、人種労働者側も低賃金で働かされなければならない。

低賃金のため生活は厳しく、病気、怪我や突発的な問題が起きた際は諦めて死ぬか、子供などを奴隷として売ってお金を作るしかなかった。

この貧困から抜け出せる未来はなく、人種大人達は暗い瞳でただただ感情無く働くしかなかった。

「僕も元貧農の息子だから分かる。この閉塞感の辛さが……。だからこそ、人種の未来を明るいモノにするためにはリリスに女王として即位してもらって、他国に対して毅然と立ち向かえる健全な国家として立て直す必要があると思う」

僕達側は復讐や『ますたー』について、殺されそうになった真実を知るのが最優先のため、人種の未来を勝ち取る事に傾倒するほど熱量が無い。さらに言えば、一時的な介入では意味がない。

しかし、リリスがそれを代行してくれるなら、支援だけで済む。

僕だって人種だから、彼、彼女達の未来がリリスの女王即位で明るくなり、国として自立することができるなら、影ながら支援ぐらいするというものだ。

「そのためにもリリスにはこのシックス公国会議で、女王に就任してもらわないと。そして今回会議に参加するディアブロには、きっちり復讐させてもらわないとね」

「流石ライト様! 自分も微力ながらお手伝いさせて頂きます!」

ネムムが興奮した様子で大きな瞳をさらに広げキラキラさせながら断言する。

僕は彼女の返答を聞き、満足そうに頷いた。

リリス女王即位もだが、もうすぐ復讐相手の1人ディアブロと出会えると想像しただけで、ネムムのように僕の心も興奮とドロドロした復讐心、憎悪で熱くなってしまった。