作品タイトル不明
番外編6 ユメの体調不良?
「むぅ~……」
「ユメ、そんな唸っても今日は1日安静にしていなきゃ駄目だよ」
「もうユメ、元気なのに……。どうして寝てなきゃ駄目なの?」
『奈落』最下層にある彼女の自室で、僕の妹であるユメはベッドで横に鳴りながら唇を尖らせる。
彼女の質問に、ユメの症状を診たエリーが返答する。
「今朝、妖精メイドがユメ様の体調の悪さに気付き、わたくしが診断させて頂きましたが、『奈落』生活に慣れたため、今まで押さえ込んでいた精神的疲れが出たせいで風邪を引いたと判断させて頂きましたわ。ポーションで風邪自体はすぐに治すことが出来ましたが、消耗した体力までは回復しません。なのでユメ様には最低でも今日一日はベッドで休んで頂き体力を回復してくださいですの」
「むぅ~……」
エリーの説明にユメは反論できず黙り込むしかなかった。
彼女の説明通り、今朝、妖精メイドがユメを起こしに行くと彼女の顔は赤く、非常に体調が悪かった。
すぐに僕へ連絡が来て正直慌てたが、エリーの診断ですぐに『ただの風邪ですわ』と結果が出たので安堵した。
風邪自体は僕の 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』から出たポーションで直ぐに治るが、失った体力までは回復できない。
だが、本人的には元気なのにベッドに一日中寝かされているのが納得出来ないようだ。
とはいえ、エリーの説明を聞いてユメもそれ以上は文句を言わずベッドで大人しくなる。
僕はその姿に安堵の溜息を漏らしつつ、妹の頭を撫でた。
「今日は時間を作ってちょこちょこ顔を出すから、ちゃんと大人しく寝ているんだよ?」
「ぶぅ~……にーちゃん、約束だからね」
「もちろん、約束だ」
僕は笑顔を零し、約束するとユメも嬉しそうに笑う。
ユメと会話を終わらせると、僕はエリーに向き直った。
「エリーもありがとう。治療してくれて」
「わたくしは、たいしたことをしておりませんわ。治療もライト 神様(しんさま) の 恩恵(ギフト) から出たモノですし」
エリーは謙遜して笑顔を零す。
彼女もユメへと声をかけた。
「ユメ様、寝ているばかりではお暇でしょうから、わたくしがご本を持ってきますわね」
「ご本? 面白いのがいいな」
「分かりましたわ。ではわたくしのお勧めをお持ちしますわね」
「うん、約束だよ?」
「ええ、お約束しますわ」
少女同士ニコニコ笑顔で、約束を交わす。
僕はその姿を微笑みながら見守った。
切りの良い所で切り上げ、僕とエリーは離席する。
☆ ☆ ☆
お昼。
『奈落』最下層執務室で書類仕事を終えると、僕は軽くお昼を食べてからユメに会うため顔を出す。
妹の自室へと向かうと……ベッドの側にテーブルを運んで、一緒にユメとナズナがお昼を食べていた。
ユメは肩にカーディガン、膝に毛布をかけて体を冷やさないようにしている。
2人が僕に気付き声をあげた。
「にーちゃん!」
「ご主人様も妹様のお見舞いに来たんだな!」
「ナズナも見舞いに来てくれたんだね。ありがとう」
「えへへへ……妹様はあたいの妹のようなモノだからな! 病気の時に1人でご飯を食べるのは寂しいと思って来たんだ」
「ありがとう、ナズナちゃん。ユメ、ナズナちゃん、好きー」
「あたいも妹様、好きー」
2人は食べかけのスープを掬っていたスプーンを一度置いてから、互いに両手を掴みあい笑い合う。
あまり行儀が良い行為ではないため、給仕を務める妖精メイドが眉根を顰め、注意しようとするが、僕は軽く手を上げて止める。
2人が楽しそうだったのと、病気後、ユメの気持ちを労る場面だ。野暮な事は言わないでも良いだろう。
2人が手を離し、ナズナが声をかけてくる。
「ご主人様も一緒にご飯を食べよう!」
「僕は先にすましてきたから、遠慮しておくよ。お茶だけもらえるかな?」
僕の言葉に妖精メイドが静かに動く。
表面上は静かだが、内心では狂喜乱舞しているんだろうな。
(彼女達は僕に奉仕することが最上の喜びだと考えている節があるからな)
胸中でそんなことを考えながら話題を振る。
「午前中はしっかりとベッドで休んでいたかい?」
「もちろんだよ。にーちゃんと約束したし、あの後、エリー先生がご本を持ってきてくれたから、ずっとソレを読んでいたんだ」
「エリーはあたいにまでしつこく本を読ませようとするんだよな……。勘弁して欲しいぜ」
エリーはナズナに教養を身に付けさせようと、彼女に本を読ませようとする。
だがナズナ的には本を読むより体を動かす方が好きなため、逃げ回っているのが現状だ。
僕としてもナズナはもう少し勉学をした方が良いと思うが……。本人が嫌がっているのに上から命令で押しつけるのも気が引けるため、僕は手を出さず傍観していた。
一方ユメはエリーの持ってきた本が意外と面白かったのか、饒舌に語り出す。
「ウサギさんと亀さんの本も面白かったけど、魔術に関する本も面白かったんだ」
「魔術の本?」
「うん! ユメが得意な幻術や幻影に関する本でね――」
ユメが喜々として僕に本の内容を話してくる。
ナズナは頭に『?』を浮かべつつも、空気を読んで黙ってユメの話の邪魔はせず聞き続けてくれた。
僕はユメの話を聞きつつ、彼女達のお昼が終わるまで側に居た。
☆ ☆ ☆
お昼が終わり、午後。
一通り指示を出し終え、15時を過ぎた辺りでユメの様子を見るため私室へと向かう。
私室に向かうと、
「……にゃ~」
「すぅー……」
ユメが眠るベッドの上で、抱き枕のように抱きしめられたアオユキが居た。
アオユキが僕に気付くと、助けを求めるように鳴く。
どうやらお見舞いに来たアオユキがユメに捕まり、ベッドへ引きずり込まれて抱き枕にされてしまったようだ。
僕はアオユキへ申し訳なさそうに眉根を下げつつ両手を合わせつつ微苦笑を漏らす。
(ユメが目を覚ますか、解放するまでそのままでお願い)と。
アオユキは『知ってた』と言わんばかりに、『にゃ~』と再び鳴いた。
諦めた表情で、体から力を抜く。
そんな彼女の姿に申し訳ないと思いつつも、再び微苦笑を漏らして静かに退散した。
退散しつつ、
(でも、あまり眠り過ぎると夜に眠れなくなるだろうから、切りの良い所で起こすように妖精メイドに指示を出しておこう)
僕は静かにユメ私室から抜け出し、妖精メイドへの指示出しを心のメモに記した。
☆ ☆ ☆
――ライトの心配はある意味で杞憂に終わる。
妖精メイドに起こされ、アオユキが無事に抱き枕から解放。
解放されるとすぐにアオユキが部屋から逃げ出す。
ユメはお昼寝をして、その時は目が冴えていたが、夜になるとしっかりと眠りに落ちることが出来た。
しかし……深夜、ユメが苦しげに呻き声を漏らす。
彼女は苦しそうに頭部を手で押さえて脂汗を流した。
その苦しみはすぐに収まったのか、彼女は再び安眠を取り戻す。
最初から苦しみなど無かったような穏やかな表情で――。