軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 ユメが居る生活2

「ユメ様の魔術教師を務めます『SUR、禁忌の魔女エリー レベル9999』ですわ」

『奈落』最下層の一室で、禁忌の魔女エリーと、ライトの実妹であるユメが向かい合う。

ユメは机に座り、その前にエリーが立って挨拶をしている。

「わたくしはライト 神様(しんさま) を敬愛しておりますわ。故にライト 神様(しんさま) の妹君であるユメ様にも、敬意を持って接したいと考えております。ですが!」

エリーが声を大にして強調した。

「ですが! 魔術を教えるにあたり、教師として厳しくユメ様に接しさせて頂きますの。これも全てユメ様の魔術師としての力を上げ、魔術に対抗する術をしっかりと学んで頂くため! そしてライト 神様(しんさま) がそれをお望みになったためですわ! 例えユメ様に恨まれても絶対に手を抜きませんの!」

気合を入れているエリーだが、現状、ユメに魔術師としての才能があるかは分からない。

一応、彼女は既に座学で魔術について、妖精メイドから教えを受けている。

エリーとしてはまずユメに魔術師としての才能があるかどうかを確認し、あるのなら伸ばす方向で。

無かったとしても、万が一の場合、魔術師に戦闘等で対応が出来るように知識を教えてほしいとライトからお願いされている。

『奈落』最下層に居て、ユメの護衛としてナズナ達が付いている以上、ほぼあり得ない状況ではあるが……。

知識が有ると無いとでは話が違ってくる。

故にライトはユメに対して魔術も教えるよう、部下たちに指示を出していたのだ。

エリーが無駄に気合を入れているのも、敬愛するライトから『ユメに魔術師の才能が有った場合、暇な時に先生をしてほしい』と頼まれたからである。

ライト的には気楽に頼んだだけなのだが……。

主であるライトに頼まれた以上、エリーの気合の入れ方は半端がなかった。

それこそ、例えライトが溺愛する妹ユメに恨まれてでも、素養があるならば一人前の魔術師に育てる気概だった。

一方、生徒であるユメはというと……。

「エリーさん、よろしくお願いします! 魔術師のお勉強、楽しみなの!」

ユメ本人も割と乗り気だった。

座学は頭を使うためあんまり好きではなかったが、やはり 人種(ヒューマン) として『魔術師』というモノに憧れを抱いていた。

エリーも敬愛するライトの妹に頼られ、喜びから堪えきれない笑みを零しそうになる。

彼女は軽く咳払いをしてから誤魔化し、切り出す。

「ごほん! では早速、魔術の練習を始めましょうか。まずは――」

こうしてエリーとユメの魔術練習が開始されたのだった。

☆ ☆ ☆

魔術練習を始めて数日後。

ライトが、ユメの魔術練習の様子を見に来る。

場所は『奈落』最下層訓練所だ。

ライトが顔を出すと、ユメの教師役のエリーが断言する。

「ユメ様は魔術の天才ですわ!」

「そ、そうなの?」

突然の内容に僕は思わず、つっかえてしまう。

ユメは褒められて嬉しそうに笑う。

「えへへへ、これもエリー先生の教え方が上手だからだよ~」

「いえいえ、わたくしの教えなど。全てユメ様に才能があるからですわ」

僕の妹だから、持ち上げるために褒めている感じではない。

どうやら本当にユメには魔術師としての才能があるようだ。

あの『禁忌の魔女』がこれだけ手放しで褒めるとは……。

今は『無限ガチャ』があるが、魔術師としての才能がなくて幼い頃苦労した自分としては羨ましいやら、『うちの妹が凄い』と声を大にして叫びたいやら、色々な気持ちが湧き立つ。

とはいえ、実際どれぐらい才能があるのだろう?

僕は素直に尋ねる。

「エリーがそこまで手放しで褒めるなんて、本当に才能があるんだね。それで、今はどういった感じのことをやっているの?」

「はいですわ。とはいえユメ様の場合、幻術・幻影に特化した才能の持ち主ですので、教えるのはその辺りを重点的にやっております」

一般的に魔術師は使える魔術が偏った特化型の方が、将来は大成すると考えられている。

どうやらユメは幻術・幻影についてかなりの才能を持っているらしい。

故にエリーは『ユメ様は魔術の天才ですわ』と声をあげているようだ。

(妹に魔術師の才能があるなんて……エリオやミヤちゃん兄妹を思い出すな……)

ゴールドが指導し、僕が『SSR、祈りのミサンガ』を贈った兄妹を思い出す。

今頃、2人は故郷の村で平和に生活しているのだろうな……。

「にーちゃん、どうかしたの?」

「……なんでもないよ。それよりユメがどんな魔術を使えるか見てみたいな」

「うん、任せて! にーちゃんにユメの魔術を見せてあげるね!」

元々、魔術を見せるつもりで広い空間がある『奈落』最下層の訓練所を話し合いの場所に選んでいたようだ。

ユメが目を閉じて意識を集中させる。

「――魔力よ、我が願う姿を変えて顕現せよ、 蜃気楼の幻想(ミラージュ・イルシオン) !」

『ふわり』とユメの手のひらから光で構成されたような幻想的な蝶が飛び立つ。

蝶はふわふわと頼りなさげだが、確かに僕の視界に映り訓練所をゆっくりと移動している。

僕は素直に驚いた。

「魔術師の実戦訓練を始めて、本当に数日でこんなに綺麗な魔術が使えるようになるなんて……。ユメの才能は凄いね。素晴らしいよ」

一般常識的に考えて、例え魔力があったとしても実際に使用できるようになるまで数ヶ月、最悪数年の時間がかかると聞いたことがある。

にもかかわらずユメは数日で使用してみせたのだ。

エリーが『ユメ様は天才』と太鼓判を押すだけのことはある。

僕に褒められたのが嬉しかったのか、ユメは小さな鼻を膨らませてさらに魔術を行使する。

「ふふん、にーちゃん、ユメが使える魔術はこれだけじゃないんだよ。応用だって出来るようになったんだから! 見ててね!」

彼女は再び目を閉じて意識を集中する。

「――魔力よ、我が願う姿を変えて身に纏え、 蜃気楼の幻想(ミラージュ・イルシオン) !」

ユメが先程とは一部、詠唱を変えて呪文を唱えると、変化はすぐに起きた。

ユメの頭部にネコミミが生えたのである。

「にゃー! どう、にーちゃん? アオユキちゃんとお揃いになってる?」

「なってるよ。幻影を使ってネコミミを作って自分の頭部に生えてるように配置したのか。コントロールも上手いね。それにとっても可愛いよ」

実際に触れようとするが、魔力で作り出した幻影のため手はスカっと通り過ぎてネコミミには触れられない。

ネコミミ姿のユメは非常に可愛らしかった。

僕に褒められてユメは照れくさそうだが、嬉しそうに笑う。

「自分だけじゃなくて、他の人にも使えるんだよ! にーちゃんにもしてあげるね!」

「えぇ、い、いいよ。僕はそういうの似合わないから」

「絶対、可愛いから大丈夫だよ!」

ユメが力強く断言する。

視界の端でエリーや僕の護衛についてるアイスヒート、他ユメの世話係である妖精メイドたちが無言で力強く頷いていた。

「――魔力よ、我が願う姿を変えて身に纏え、 蜃気楼の幻想(ミラージュ・イルシオン) !」

ユメが呪文を唱える。

実感は無いがどうやら上手く僕の頭部にもアオユキ同様のネコミミが付いたらしい。

ユメが瞳を大きく広げ、顔を輝かせながら褒めてくる。

「にーちゃんのネコミミ姿可愛いよ! さすがにーちゃん、凄く似合うよ!」

「うーん、僕は男だから、可愛いって言われても……」

正直、男の僕としては『可愛い』と褒められても困る。

どちらかというと可愛いより、『逞しい』や『男らしい』などといった言葉の方が嬉しいのだが……。

ユメは僕の反応など気にせず、褒め続けた。

「にーちゃん、大丈夫、自信を持っていいぐらい可愛いよ。にゃー! はい、にーちゃんも」

「えぇ、僕もやるの……」

「にゃー!」

ユメはまるでアオユキのように催促してくる。

どうやらユメ自身、アオユキのネコ語での催促をやってみたかったらしい。

僕は苦笑しつつ、可愛い妹のお願いに一度だけ応える。

「に、にゃー」

「にゃー!」

兄妹そろってネコミミを幻影で作り、アオユキのようにネコ語で喋る。

この姿に僕たち以外のエリー、アイスヒート、他妖精メイドたちは感極まったように口元を押さえたり、鼻を押さえたり、その場で倒れそうになっていた。

「ユメ様はやはり天才ですわ! 本物の天才です!」

「エリー様に同意します! 妹君様こそ天才です!」

エリーの発言にアイスヒートが全力で同意する。

他妖精メイド達も手放しで同意していた。

……しかし、今の『天才云々』はニュアンス的に『魔術の天才』という意味で言っている感じではなかった気がしたが……僕の気のせいだろうか?

頭にネコミミを生やしたまま首を傾げる。

その姿を前にしたエリー達が、何かに悶えて耐えきれずその場に膝を突く。

「にゃー!」

皆が喜んでくれている姿を見て。

ユメは上機嫌で再びネコ声で鳴くのだった。

☆ ☆ ☆

――後日、ライトのネコミミ姿を見た者、見られなかった者の間でいざこざが起きたとか起きなかったとか。

それはまた別のお話である。