軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 ユメが居る生活1

「ふわぁ……」

「おはようございます、ユメ様」

天蓋付きのベッドでユメが目を覚ますと、にこにこ朗らかに微笑む妖精メイドが声をかけてくる。

まだ眠い目をくしくし擦りながら返事をする。

「おはようごじゃまいすぅ。ふぁぁぁ……」

「ユメ様、湯浴みの準備が整っております。どうぞお手を」

「あい」

半分頭が眠っているため返事が滅茶苦茶だが、妖精メイドに差し出された手を取り、肩の少し上まで伸ばした髪を揺らしながらベッドから下りる。

ユメは妖精メイドに連れられて、湯浴みをするため湯船へと向かう。

陶器製の湯船にはたっぷりと湯が張られ、色鮮やかな花が浮かべられていた。

ユメが身に着けているシルク製のパジャマ、下着類が妖精メイド達の手によって脱がされていく。

「…………」

『自分で出来るのに人の手を煩わせるなんて』とユメは思うが、彼女も元 人種(ヒューマン) 王国のメイド見習い。

リリス姫の着替えや湯浴みの手伝いをした経験があるため、ここで『自分で出来る』とは言えなかった。

妖精メイド達の仕事を奪う訳にはいかない。

軽く汗を流し、お風呂へと体を沈める。

彼女が体を温める間に髪を整えられる。

ユメもよく分からないが良い匂いのする液状の石鹸で髪を洗われ、流され、さらに追加の調合油を髪にかけられ洗われた。

彼女の髪は肩口ほどしか伸ばしていない。にもかかわらず念入りに洗われた上にケアされるのだ。

湯から上がると、今度は髪だけではなく全身も洗われる。

ユメも10歳の少女だ。

子供ではない。

さすがに恥ずかしいが――断ると妖精メイド達が悲しむため、大人しく受け入れるしかなかった。

入浴を終えると、準備されたドレスに袖を通す。

チャームポイントの片側リボンも複数色、材質、柄などが取りそろえられその日の気分やドレスのデザインに合わせて変えていた。

着替えを終えると朝食を摂る。

基本的に朝食は専用の個室で1人摂ることが多かった。

今日も1人で朝食を摂ることにユメは不満そうに口を尖らせる。

「ねぇ、にーちゃんは? 今日も一緒に食べてくれないの?」

「ライト様は現在、地上に出て活動中です。お忙しいので同席するのは難しいかと……」

妖精メイドが美しい表情を申し訳なさそうに歪め、理由を説明した。

ライトは復讐のため地上で冒険者活動をしたり、情報収集、リリスや上位者達との面談、『奈落』最下層の書類チェックなどやるべきことが多い。

さらに当然ではあるが、ユメに『復讐をするため~』などと説明できるはずもなく、曖昧に濁すしかなかった。

彼女も『復讐』はともかく、元メイド見習いだけあり、これだけの組織のトップに兄が立っているのなら仕事が多いことも理解している。

故に、それ以上何も言えず口を閉じるしかなかった。

(お仕事忙しいのに、邪魔しちゃダメだもんね……)

そう考えていると、テーブルに朝食が並べられる。

貧農時代どころか、元メイド見習い時代と比べても味・質など比較にならない食事が朝から並ぶ。

「いただきます……」

挨拶をした後、1人で食事に手を付ける。

料理はとても美味しいが、ユメの気分はなかなか上向かなかった。

朝食後、勉強用ドレスに着替えて机に腰掛ける。

机に向かうことは年少者には窮屈だし、退屈である。

ユメは不満そうに唇を尖らせた。

「ユメ、数だって100も数えられるし、文字だって一通り読めるのに……」

人種(ヒューマン) 王国メイド見習い時代、メイド長などから空いた時間に数、文字の勉強を習っていた。

教育する側からすればそれは善意からではなく、将来的にメイドとして働かせるために最低限覚えさせる必要があったからだ。

お陰で本人の言葉通り数は100を数えられ、文字も一通り覚えていた。

正直、同年代の 人種(ヒューマン) の子供と比べれば平均よりも上の知識を身に付けている。

しかし、教師を務める妖精メイドが首を振る。

「ユメ様はライト様の妹君なのですから、それだけで満足してはなりませんよ。数を覚えるだけではなく数学や礼儀作法、帝王学、魔術学など身に付けて頂かないとなりませんから」

「うぅぅー…………」

ユメは思わず唸るが、それで授業が終わる訳でない。

午前中は勉強に費やされる。

昼食も当然、ライトはおらず1人で摂る。

食休み後、午後からは体力、健康維持のため体を動かすのが中心となっていた。

ユメ的には午前中の授業より圧倒的に気が楽である。

運動を終えると、汗を流し夕食へ。

夕食を終えた後、寝るまでの間が自由時間となる。

自由時間になると、時折暇になったナズナが護衛としてユメの部屋に遊びに来たりしていた。

これが基本的なユメの1日の生活サイクルだった。

地上の生活と比べたら 人種(ヒューマン) 王国より安全で快適、質の高い生活を送っていた。

しかしユメの心情はというと――。

☆ ☆ ☆

「うー……」

「ごめんね、ユメ。あんまり会いに来られなくて」

「うー……ッ!」

僕ことライトは、生き別れていた実妹であるユメと無事に再会。

彼女をこの世界で最も安全で快適に過ごせる『奈落』最下層へと引き取ることが出来た。

しかし、暫く所用――『種族の集い』メンバー達への復讐や、この世界の真実調査などのため地上世界で活動していたり、書類仕事に追われていた。

結果、やや長期間ユメと顔を合わせずにいたら……彼女が盛大に拗ねてしまったのである。

現在、ユメの自室へ顔を出すと、彼女は僕にしがみつき離れようとはしなかった。

なので僕はソファーに座り、抱きつき盛大に拗ねているユメの機嫌を取らなければならなかった。

機嫌を取っていると、少しずつ態度が軟化し現状の不満を漏らし出す。

「最初はメイドさん達にお世話してもらえて、まるでリリス姫様みたいで楽しかったけど……ユメに何もさせてくれなくて逆に疲れちゃうし。勉強も面白くないから嫌い。ナズナお姉ちゃんともっと遊んでいたいし、にーちゃんと一緒に居たい!」

ユメの主張も理解できなくない。

僕自身も最初は他者に傅かれるのがある意味楽しかったが、だんだん視線に疲れてきて、慣れるまでは逆にストレスが溜まるようになった。

勉強だって楽しくないし、ずっと遊んでいたい気持ちも分かる。

僕もユメと一緒にのんびりしたい気持ちはあった……が、

「僕もユメの気持ちは分かるよ。けど、勉強はユメの将来のためにも必要だから頑張ろう。勉強が終わって自由な時間が出来て、ナズナの都合がつけば好きに遊んでいいから。妖精メイド達に傅かれるのに疲れたなら、どこまで自分でして、どこまで任せてもいいか話し合ってみようか? それと僕もユメと一緒にいたいよ。でも――」

言葉に詰まり、『種族の集い』対する憎しみ、世界の隠された真実について言葉が溢れ出そうになるのを堪える。

ユメに、そんな僕の言葉を聞かせたくはなかった。

気力で抑え込み笑みを作る。

「僕もユメと一緒に居たいけど、ちょっとまだやることがあるから。落ち着いたら、もっと時間を作るからそれまで我慢してくれないか?」

「……にーちゃんがそう言うならユメ我慢する。勉強も頑張るし、メイドさんたちとは話し合ってみる」

「ありがとう、ユメ」

僕は膝にのってしがみついている妹の背中をポンポンと叩く。

たまに拗ねる時はあるけれど可愛らしく頑張り屋で、本当に僕には勿体ない妹である。

そんな妹に対して僕はついつい甘やかしたくなって尋ねる。

「お詫びって訳じゃないけど、ユメは何か欲しい物や食べたい物はないかな? ユメが望むモノを何でもプレゼントしちゃうよ」

「……本当?」

「うん! 本当だよ。あくまで僕が準備できる物だけどね」

しがみついていたユメが顔をあげる。

彼女はキラキラと大きな瞳を輝かせて欲しい物を告げた。

「ユメ、お花を育てたいの。あと料理も作りたいけど良い?」

「花に料理?」

ちょっと意外な組み合わせで思わず聞き返してしまう。

彼女は自慢気に薄い胸を張り伝える。

「ユメ、お城でメイド長から花壇の手入れやお花の育て方。あと料理の勉強もしていたの。どっちもすごく面白かったから、続けたいんだけど……だめ?」

「うーん……」

花壇はともかく、本来ならユメがわざわざ料理を覚える必要はない。

基本料理は『無限ガチャ』カードから出た料理や、料理人が作っている。

また妖精メイド達に命じれば、ある程度は作れる。

故にユメが料理を習う必要は無いのだが……。

『あくまで僕が準備できる物』と口にした手前、拒否する訳にはいかない。

なによりユメが本気で『学びたい』と表情で訴えているのだから、拒絶することなど出来るはずがなかった。

「分かった。ユメのために花を育てられる場所を作っておくよ。それと料理を勉強できるように手配もしておくね」

「ありがとう、にーちゃん!」

ユメは満面の笑みでぎゅっと抱きついてくる。

少々甘やかしているのかもしれないが、彼女がこれだけ喜んでいるのなら良しとしよう。

久しぶりに顔を合わせて会話したお陰で僕自身、気持ちを軽くすることが出来た。

その後、ユメは僕の膝から下りると隣に座って『花壇で何を育てるのか』、『どんな料理を作るのか』、『いつか作った料理をにーちゃんに食べさせてあげる』と嬉しそうに話してくれた。

こうして僕とユメは久しぶりに楽しい時間を過ごすのだった。