軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08.善人、温泉で美人を量産する

ゼアホースの温泉街を悩ませていたイタズラの元凶は絶った。

それを助けを求めてきたゼアホースの人達に教えてやったが、食人洞窟を綺麗に吹っ飛ばしたから、解決した証拠はない。

だからしばらくここにとどまって、「もうイタズラは起こらない」と向こうが確信するまで滞在する事にした。

まあ、ちょっとした旅行だと思えばいい。

アンジェと一緒に温泉地でのんびりするのは中々無いことだ。

この日も朝の温泉に入った後、アンジェと二人で街に出てぶらぶらした。

「あれ?」

「どうしたんだアンジェ」

「いえ……気のせいかもしれませんけど。綺麗な人が増えた気がします」

「うん?」

アンジェにそう言われて、改めて周りを観察した。

「言われてみれば、確かに綺麗な人が増えた気がするね」

「はい、みんな肌スベスベで綺麗です」

「きっと温泉効果なんじゃないかな。それと浴衣効果」

「なるほど!」

アンジェは手をポンと叩いて納得する。

「確かに浴衣の人すごく増えました」

「増えたよね。作りそのものは簡単だから、一気に普及したんだね」

「さすがアレク様です!」

ここまで爆発的に増えたのは予想外だ。

ぶらつきながら、浴衣だらけの温泉地を眺める。

うん、やっぱり温泉に浴衣は似合う。

湯上がりでちょっと火照ったり、髪を上げた時に見えるうなじだったり、薄手の浴衣で見えるボディラインだったり。

浴衣効果で、温泉客達は普段の何倍も綺麗に見える。

「あれ? ねえアレク様、あそこで人がいっぱい集まってます」

「本当だ、大道芸でもやってる人がいるのかな」

「行ってみましょう」

「そうだね」

乗り気のアンジェと一緒に、人が集まっている所に向かって行った。

老若男女が集まっているそこに大道芸人がいるのかと思ったが、違った。

人の輪の向こうで、一人の老人がものすごく真剣な顔をして、目の前に並べられた樽を穴があきそうなくらい食い入るように見つめている。

樽の中は色つきの液体が入っていて、湯気が立ち上っている。

「何をしているのでしょうか」

「あの中に入ってるのは温泉みたいだね」

「え? 本当ですね、温泉のにおいがします」

「どういう事なんだろ」

「坊や達、話を聞いてないのかい?」

「話?」

「うん、ああほら、あれを見なよ」

話かけてきた女性が指さす先を見た。

そこは道ばたにある大衆温泉。

魔法の湯気を頼りに、仕切りがほとんどなく、客も安心して入っている温泉。

そこに丁度、一人の女性が服を脱いで、おそるおそる温泉の中に体を沈めた。

すると――

「わっ! あ、アレク様! 綺麗に、女の人が綺麗になってます!」

「驚いた……どういう事なんだろう」

温泉に入った女性は、入る直前に比べて、一瞬で綺麗になった。

「あれってどういう温泉なの?」

目の前の光景が衝撃的で、話しかけてきた女性に聞いた。

「あれだけじゃないよ」

「え?」

「このゼアホース、何日か前から急に温泉の泉質が変わってね。入るともれなく肌が綺麗なったり、美人になる効果が出てきたんだ」

「そうなの?」

「アレク様、だから美人さんが増えたんですね」

「ああ……」

なるほど。

街中に美人が増えたのは浴衣効果だと思ってたが、そうじゃなかったみたいだ。

元々温泉はいろんな効果がある。

疲れをとったり、病気を治したりのはもちろん、肌をすべすべにしたりなんてのも珍しくない。

温泉に浸かって美人になるのは驚きだけど、ない話じゃない。

「それでね」

さっきの女性が更に教えてくれた。

「温泉の泉質が変わったのを、専門家に見てもらってるのさ」

そう言って、視線をタルの方にいる老人の方に向けた。

なるほど、それでみんなどこか期待してる顔なんだな。

老人はタルを穴があくほどじっと見つめた後。

「温泉からは以前にはなかった、強大な魔力を感じる」

「魔力ですか?」

老人の隣に立っている、おそらくは鑑定の依頼をした男は聞き返す。

「うむ、地殻に変動でもあったのじゃろう。水源に何かが触れて、今までになかった魔力が溶け出している。それがいい方向に作用しているのじゃ」

「な、なるほど」

「ほれ」

老人は懐から小瓶を取り出した。

瓶の蓋をあけて、中の液体をたるに流し込む。

複数の樽にそれぞれ数滴。

しばらくすると、樽から気体が立ち上った。

ただの空気じゃない、魔力が昇華して具現化した空気のようなものだ。

「これがその成分じゃ」

「「「おおおおお!」」」

原因がはっきりと「見えた」事で、周りに集まった人達が歓声を上げた。

「やっぱりこの温泉にはいったら綺麗になるんだ」

「これは客を呼べるぞ」

「ゼアホースの美人温泉だ!」

ゼアホースの人が多いせいか、ほとんどがこれからの温泉街の発展に希望を感じたための歓声だ。

そんな中、アンジェが小声で私に話しかけてきた。

「アレク様、あれ、アレク様の魔力じゃありませんか?」

「うん。アンジェには分かるんだね」

「はい、ずっとアレク様のおそばにいましたから……何かなさったのですかアレク様」

「いや……そんな事は……あっ」

さっきの老人の言葉を思い出す。

「『地殻に変動でもあったのじゃろう。水源に何かが触れて、今までになかった魔力が溶け出している』」

「あっ」

アンジェも理解したみたいだ。

「あのゼリーみたいだな」

「そういうことだね」

「すごいですアレク様!」

どうやら、山を埋めるために充填した私の魔力が温泉に溶け出し、それが泉質を変える程の効能を生んだみたいだ。