軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07.善人、山を元の形に戻す

「オ、オノレ、オノレエエエエエ!!」

人間の喉では到底出せないような濁った声を上げながら、 それ(、、) がキリとなって消えて行った。

欠けた山の中、食人山脈の跡地。

私は、地中に半分ほど埋まっている肉の塊に賢者の剣を突き立てて、跡形もなく消滅させた。

「アレク様、それは……一体?」

「株分け、それか球根かな。さっきの洞窟の分身みたいなものだったんだ」

「そ、そんなものがあったのですか!?」

アンジェは大いにびっくりした。

頬につーと伝う汗は、食人洞窟の中に実際にいたからにじみ出たものだ。

「確証はなかったけどね、でも、さっきからその洞窟、いろいろずる賢かったでしょ」

「はい、色々してました。アレク様を騙そうと」

「そう、僕を騙そうと。だから 死んだふり(、、、、、) もあるんじゃないかって、洞窟をまとめて消し飛ばしたあと念入りに探ってたんだ。植物と似たような性質なら、過酷な環境を一時的にしのぐ手立てもあるんじゃないかって」

「わあ……さすがアレク様です」

アンジェは目をキラキラさせた。

説明してる間も、私は更に地中を探っていた。

地面に突き立てた賢者の剣を使って、地中を探る。

食人洞窟の死んだふり、株分けがまだ残ってないかと。

範囲を半径5キロくらい、見えてる山全部に広げてみたけど、どうやらもうないみたいだ。

「うん、これで一件落着だね」

「はい! あっでも、これどうしましょうアレク様。山がなくなったのはなんか騒ぎになりそうです」

「しばらくは大丈夫だよ」

「どうしてですか?」

「それはね――しっかりつかまってて」

「はい!」

アンジェは素直に私にしがみついた。

飛行魔法で真上に向かって飛んだ。

10メートル、20メートル、30メートル――。

階段を登る程度の速さでゆっくりと上昇して行くと。

「ああっ!」

アンジェが声を上げたところで、上昇を止めた。

「アレク様! 下が! 山が復活、ううん再生してます!」

「落ち着いてアンジェ、それは再生じゃなくて幻覚だよ」

「幻覚?」

「そう。さっき山を吹っ飛ばした直後に結界を張ったんだ。幻覚と、人払いの二つの効果を持った結界。しばらく誰も山に入ろうとは思わないし、外から見たら元の山のまま」

「い、いつそれをしたのですか?」

大がかりの結界に気づかなかった事に驚くアンジェ。

「こっそりやったんだ。誰にも気づかれないようにこっそりと」

「どうしてですか?」

「 死んだふり(、、、、、) が残ってるかもしれないからね。何もしないで立ち去る風に見せた方が、向こうも尻尾を出してくれると思ってね。だからこれも分からないようにこっそりやったんだ」

「なるほど! さすがアレク様、策士です!」

「そんな事ないよ」

「ううん、陛下――お姉様がいつもおっしゃってます」

「エリザが?」

「はい! アレク様の魔法もすごいけど、一番すごいのは二手三手先を読んで色々準備を怠らないことだって」

「そんな事言ってたんだ」

それは地味に嬉しい。

「ちなみにその時一緒にいましたお父様は、アレク様は100手までは余裕って言ってました」

「父上、ぶれないね」

「それをお母様に怒られてました」

「うん? なんで?」

「アレク様のお力で100手なんて読む必要はない、何かに100手も必要なんてアレク様を侮ってるって」

「母上も相変わらずだね」

苦笑いしか出なかった。

父上も母上も変わらないなあ。

生まれ変わった、産湯に浸かった瞬間から聞いてきた夫婦漫才。

十二年経っても二人はまったく変わらなかった。

「さて、結界が効いてる内に山を元に戻しちゃおう」

「出来るんですか――ううん、普段通りに見える結界を張ったと言うことは、そうするって決めてあったからですよね!」

「アンジェは賢いな」

確かにそうだ。

山を吹き飛ばしてそのままにするなら結界なんてはる必要はない。

いや張っても人払いで充分だ。

元の姿に見える、にしたのは元に戻すつもりがあるからだ。

そう見える結界を張って、効果が持続してる間に修復すれば何も起こらなかったのと同じだ。

私はアンジェと一緒に少し下降した。

結界の中に入る、しかし着地しない。

欠けた山が見える空中で、賢者の剣に手をかける。

さて、やろうか。

飛行したまま、賢者の剣を構える。

ヒヒイロカネの賢者の剣を手に入れてから、その伝導性のおかげで魔力効率が格段に上がった。

使える(、、、) 魔力が通さない時の倍くらいになったのだ、賢者の剣を通した場合。

賢者の剣は世界中で一番斬れ味の鋭い剣であり、一番効率が高い魔法の杖でもある。

その賢者の剣を通して、魔力を切っ先の先端に集中。

それが渦巻き、徐々に実体化していくなか、少し微調整して形を整える。

やがて、十メートル四方の透明なブロックになった。

まるで巨大ゼリーのそれを地面に投げつける。

「それは何ですか?」

「僕の魔力を具現化させたもの、この場合土嚢代わりだね。ひとまずこれで山を 充填する(、、、、) 」

「アレク様の魔力ですか……でも、土じゃなくて大丈夫なんですか?」

「見て」

試しに小さいブロック、10センチ四方のものを作った。

そのブロックの上に、 あらかじめ(、、、、、) 拾っておいた枯れ葉を乗せる。

朽ちた枯れ葉はブロックの中に取り込まれていき、その一部になった。

「こ、これは」

「大昔に『山飼い』って呼ばれた大賢者様がいてね、その人の魔法。『死んだ山』を治療する時は、ダメになったところをくりぬいてからこのゼリーを代わりに入れる。山は形を保てて、時間がたって新たに産まれた土とか枯れ木とか草とか、そういうのが増えたら自動で取りこんで、その分のゼリーが溶けて消える魔法だよ」

「わあ……」

「つまり」

そういって、もう一つ10メートル四方のブロックを作って地面に投げて、さっきのブロックの横に積む。

「まずはこれで山を埋める、後は時がゆっくり山を修復してくれる」

「やさしい直し方ですね!」

アンジェらしい感想だ、そんな彼女に微笑み返す。

深呼吸を一つ、さあ、ここからが本番だ。

魔力でどんどんゼリーのブロックを作って、山を埋めて、造成していく。

たまに上昇して、元の山の形を確認して、ブロックの積み方で形を整える。

「……」

「どうしたのアンジェ」

「あっ、ごめんなさいアレク様! こういう遊びがあったら面白いかなって思ってました」

「こういうって……ブロックで山を作ること?」

「はい!」

なるほど。

確かに面白いかもしれない。

そんな感性のアンジェと世間話をしながら、山を修復していく。

破壊した時は一瞬、直すのは一晩。

「わあ……一晩で山を元に戻しちゃいました……」

次の朝日が差すころには、山は元の形に戻っていた。