軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09.善人、五倍強くなったモンスターを叩きつぶす

「アレク様アレク様!」

「うん?」

旅館の部屋でくつろいでいると、アンジェが嬉しそうに駆け込んできた。

十二歳の割りには、普段から大人びてるアンジェがここまでテンション高いのは珍しいこと。

「どうしたんだいアンジェ」

「アレク様にお客様です」

「僕に? こんなところにやってくるなんて誰なんだろう」

「あたしよ」

聞き慣れた声とともにアンジェの背後から現われて、部屋の中に入ってきたのはエリザ。

お忍びモードのエリザだった。

「久しぶりね」

「うん、久しぶり。どうしたのこんな所に」

「噂を聞いてきたのよ。入ると美人になるっていう温泉の噂」

「そんな噂だけで来たの?」

「アレクの屋敷に問い合わせはしたのよ?」

エリザはニヤリと笑う。

「美人温泉なんてうさんくさいキャッチフレーズだけで来るわけないじゃない。馬鹿な話、って切り捨てようとした瞬間あなたの顔を思い出してね」

「ぼくの?」

「ええ、もしやと思って屋敷に聞いてみたらアレクがここ来てるって言うじゃない。アレクが行ってるところ、急に大きな変化があった。とくればその変化は真実しかありえない」

エリザは順に、三本の指を立てながら言った。

「父上式判断基準はちょっと困る」

「何をどうしたの?」

「えっとね――」

私はエリザに説明した。

ここに呼ばれたこと、捜索に入った山の中で食人洞窟を見つけたこと、それを吹き飛ばしたあと私の魔力で山を作り直したこと。

その魔力が水源の所で溶け出して、温泉として効能を発揮している――一連の事をエリザに話した。

「なるほどね、だからアンジェが綺麗になってるんだ」

エリザは隣に立つ、浴衣姿のアンジェに目を向けた。

「効果は抜群のようね。少し見ないうちに綺麗になったわねアンジェ」

「はい! アレク様のおかげです!」

綺麗とほめられれば、普段なら謙遜、いや恐縮するのがアンジェなのだが。

原因が私の温泉だから、むしろそういわれるのは喜ばしい事のようだ。

「本当に効果は抜群のようね。あたしもあ、アレクの温泉に入っていこうかしら」

何故か私の名前の所で少しつっかえたエリザ。

「お部屋にも温泉があります。お姉様のお背中流します!」

「そうね、洗いっこしましょ」

エリザとアンジェ、二人は実の姉妹のように仲睦まじく、部屋備え付けの内風呂に向かって行った。

部屋備え付けの内風呂も露天風呂の作りになっている。

半ベランダって感じで、屋根は風呂の半分くらいかかってる。

その風呂自体広くて気持ち良いのはもちろんのこと、景色も抜群で言うこと無い。

見えている景色は大半があの山、私が一回吹っ飛ばして、作り直した山だ。

エリザは風呂よりもまず、景色の方を眺めた。

「結構いいじゃない」

エリザは満足した顔で言った。

帝国皇帝エリザベート、あらゆる贅沢を望めば出来る彼女はこの世でもっとも目が肥えてるはずだが、そんな彼女も満足するほどの景観だった。

「そういえばお姉様、この温泉飲めますよ」

「飲める?」

「はい! 温泉ソムリエの人がチェックしてみたら、飲んだらもっとお肌スペスペになったり、お腹のお肉がすごく減るみたいです」

「ダイエット効果があると言う事ね」

「お姉様も飲んでみませんか?」

「そ、そうね」

エリザはちらっと、風呂の外にいる私を見て、言った。

「ふ、普通ならこういうのは危険だし毒見を入れないといけないのだけど、せ、成分はアレクの魔力だってはっきりしてるしね」

「はい! 世界で一番安全です!」

「の、飲むわ……」

飲泉が可能って結果が出てから、各温泉におかれるようになったひしゃくを使って、湯が出てくるところからひしゃくで受けて、それを飲もうとした。

彼女が口をつけようとした、その時。

皇帝も満足する景観。

その山の一角で爆発が起きた。

煙がものすごい勢いで空につき昇っていく。

とっさの判断。

私は二人を追い越して、露天風呂の枠に足をかけた。

「アレク!?」

「二人はここで待ってて」

そう言って、枠を蹴って飛び出した。

飛行魔法で爆発があった現場に飛んでいく。

五キロはある距離を一気に詰めると、山の中で警備隊とモンスターが戦っているのが見えた。

「大丈夫!?」

着地した私。

ゼアホースの街の警備隊、街中でちょこちょこ見かけていた装備の男が二十人。

そのうち半分が既に倒されて、地面に伏してびくりとも動かない。

その相手は――グールだった。

食人洞窟で何体か見かけていた人を喰らうゾンビ。

「キミ! ここは危ない! 子供はすぐに帰りなさい――ぐっ!」

男の一人が私を追い返そうとしたが、目をそらした一瞬の隙を突かれて、グールに突進して噛みつかれた。

武器の槍は突進で折られて、男は肩を噛まれてしまう。

「くっ!」

思い切り蹴って、グールを蹴り飛ばす。

無理矢理剥がした肩は一瞬で血まみれだ。

「キミは早く帰りなさい。モンク、その子を連れて逃げろ」

「し、しかし、グールどもは前の連中じゃない、すごく強くなってる。ロイドだけじゃ――」

「それよりも旅行客の子供に怪我をさせるわけにはいかない。いけ」

「……ッ!」

押し問答を続ける二人。

私は構わず、二人の前に進みでた。

「君――」

「大丈夫だから」

私はそう言って、背中に背負っている賢者の剣を抜いた。

「何をする!」

男が驚いた。

「何をするか分からないが危険だ! こいつらはモンスター、しかも原因不明の強化をしている」

男が叫んだ通りだった。

グールのスピードもパワーも、前に倒した時よりも遥かに上がっている。

倍――いや三倍くらい跳ね上がっている。

「まさかこれもあたらしい温泉のせいなのか?」

「あっちに源泉が一つあったから間違いない」

「くそぉ……なんてこった……」

警備隊の生き残り達が揃って顔をゆがめた。

私は目を凝らした。

なるほど、そうかもしれない。

グール達の体から私の魔力を感じる。

まるで強者のオーラのように、私の魔力を体中にまとっている。

この山に元々住んでいるグールが、溶け出した魔力を含む源泉のおかげでパワーアップしたみたいだ。

そのグールが突っ込んでくる――速いっ!

三倍どころじゃない、突進に限って言えば五倍くらい速い。

もはや別の生き物だ。

「危な――」

ザクッ!

飛び込んできたグールを、賢者の剣で一刀両断した。

腰で真っ二つにされたグール、下半身はずざざざと転がっていき、上半身は自分の突進と私の斬撃の勢いが交わって、ぐるぐると回転しながらすっ飛んでいった。

別のグールが飛び込んでくる、返す刀で切り下ろして、やっぱり真っ二つにした。

「「「……」」」

警備隊の男達が揃って言葉を失った。

倒れている男達に癒やしの魔力球を作って打ち込んだ。

「う、ん……」

血だまりの中に倒れている男達が呻いて起き上がる。

残ったグールに向かって飛び込む私。

速度が最大5倍に上がったグール、好き勝手に動かれるとやっかいだから、それ以上のスピードで飛び込んで、ザクザク斬り捨てた。

「――いる!」

私の魔力をまとっていると言うことは、感知は通常のモンスターよりもしやすい。

「賢者の剣!」

(応)

感知したモンスターの分だけ魔力球を作る。

魔力球は高速で回転しだし、球状だったのが逆に歪な形になって、やがて矢の様に飛び出した。

それぞれが感知した、ロックオンしたモンスターに飛びかかる。

百本近い魔法の矢が、雨あられの如く山に降り注いだ。