作品タイトル不明
第65話 新居の居間にて
カサールの町の新居にて数日過ごしたのであるが、率直な感想としては、
『家はこんなに広いのに、少し賑やか過ぎないか?』
というしかない。
新たにカルセルから仲間になった大人チームの大工のボンドさんに大工道具一式をプレゼントすると、早速我が家の規模がおかしい作業小屋にて足りない椅子やテーブルなどをトンテンカンと鼻歌まじりで作ってくれており、
「旦那様、家でも家具でも必要なら何でも言って下さい!」
などと張り切ってくれている。
葡萄農家だったノリスさんとマイラさん夫婦には、我が家の小さい畑の予定がしっかり農地として用意された場所に苗木や作物を来春には植えれる様に馬魔物のブドウパン達の力も借りて土作りから始めてくれており、
「旦那様、葡萄畑も作っても宜しいでしょうか?」
などと、恐る恐る聞いてきた夫婦に、
「何でも作ってくれて良いから…あっ、たぶん住んでいた獣人族の国とは気候が違うから失敗する事もあるだろうけど気にせずチャレンジしてよ」
という事で、農地に必要な苗木などの購入は商人だったテイカーさんにお金を渡してお願いしておいたのである。
そして、流石は商人だっただけありテイカーさんは買い物上手で、我が家の買い出し担当として傭兵親子のバルディオさんとイデアさんを護衛に近くの村などにまで買い出しに行ってくれるらしく、
「旦那様…私に荷馬車をお貸しくださいませんか?」
というのでカサールまでの旅で使った荷馬車をテイカーさん専用にプレゼントし、僕が、
「荷馬車もあるんだし、借金とかいいから、もう行商でも始めたら?」
と提案したのであるが、何故かテイカーさんは、
「いえ、まだ周辺の情報を解っておりませんし、何より先ずは旦那様の為に働きたいのです…」
と、奴隷から解放されて独立して稼ぐ事を拒否したのである。
『まぁ、商人さんは稼ぐ為にリスクも負うからな…借金奴隷の身分からいきなり解放されても商売が成り立つか心配なんだろう。 まぁ、とりあえず情報収集が終わって稼げそうならばテイカーさんに出資を出来るぐらい僕も蓄えておくか…』
などと考えながら、子供チームがベルとお勉強をしたり、大人のチームの女性陣が幼子三人を気にかけつつ、まだまだ新居に足りない物を裁縫仕事で作っているのを眺めつつ、ゴーレムコアを修復した魔力の回復を待っているのである。
しかし、賑やか過ぎる原因は彼らや無論僕でもなく、僕の隣で、
「なぁジョン、魔石式風呂沸かし棒を売り出していいかな…カサール子爵様からも発案者のジョンの許可を早くって言われているんだよ…」
などと、始めて変な改造をせずに僕の注文通りに作った新作魔道具がパトロンであるカサール子爵家でも好評であり、錬金ギルドに新型の生活魔道具として彼は1日も早く申請をしたがっているのである。
魔力切れ寸前でフラフラな僕は、
「ライト兄さんが開発したんだから好きにしてください」
と言って、少しでも休んで魔力を回復したいのだが、カサール子爵家の考えでは、どうやらライト兄さんの発明した風呂沸かし棒の製作と販売をカサール領の産業にしたいらしく、そんな大それた計画に初めて単身で関わるライト兄さんとしては、
『職人とかそっちの方はツテも知識だって無いから手伝ってくれよ…弟弟子だよね…』
という狙いなのだろうが、そんな面倒な事に関り合いたくない僕は、
「ライト兄さん…僕も今こんな感じなんですよ…」
と、大家族となりライト兄さんのお手伝いどころではなくなっている室内を手のひらで示すその先には、
『ジョン君が家を構えましたよ~』
と、盗賊討伐の一件で国境を越えて仲良くなったクリスト様から聞いたという、僕の生まれた町を現在治めてくれているバートン様が気を利かせてくださり、バートン様の所で引き続き雇って下さっていた超ベテランメイドのメリーさんを、
『先輩からの新築祝い』
的な感覚で我が家の使用人として送り出してくれたというその彼女が、昨夜リーグさんの告白により秘密組織から派遣されていた見張り役だった過去を知り、
「この、裏切り者が! 今さらお坊ちゃまの前にノコノコと…」
と、もう話がついている件について、メリーさんは絶賛腹を立てている真っ最中であり、リーグさんの尻をイタズラをした子供の様に【打撃強化】ギフトにてピシャリとシバいて叱っているのである。
流石にこのカオスな状況を見たライト兄さんは、僕の協力を諦めてカサール子爵様達と魔石式風呂沸かし棒の件を進める事にしたらしく、やっと諦めて帰ってくれたのであった。
『やっと少し静かになるな…』
と安心した僕は、メリーさんに、
「ねぇ、もうその辺にしてあげてよ…メリーさんも手が痛いでしょ…」
と、打撃強化で布団を叩くと手が痛くなると言っていたエピソードを思い出して彼女をやんわり止めるのであるが、メリーさんは、
「あぁ、なんてお優しい…こんなお優しいお坊ちゃままであの時騙していただなんて…メリーは許しません!」
と、またメリーさんの怒りに火をつけてしまったらしく、リーグさんが四つん這いで尻を叩かれながら、
「旦那様…」
と僕に必死の表情で訴えかけるのであるが、
『そんな、女王様にお願いする性癖の方みたいな顔をされても…』
としか思えない僕は、修復予定のゴーレムコアが入ったマジックバックから傷ポーションを1本取り出して、リーグさんに、ニコリと笑顔で、
「頑張ってね…コレ後でのんでよ。 ここに置いておくから…」
とだけ伝えたのであった。
そして、僕はその足で部屋の端でお勉強中の子供たちの所に向かい、
「悪い事をしたらメリーさんは厳しいからね…皆は良い子にしようね…」
とだけ伝える。
どうやらこの教訓は、もの凄い説得力があったらしく子供たちは勿論、怖いもの知らずかと思っていたベルまで固まりながらリーグさんを眺めていた。
ちなみに、料理人のダクさんはバートン様にメリーさんと共に我が家に行く事をお願いしたらしいが、貧乏貴族だった我が家にダクさん以外の料理人を雇う余裕が無く、弟子や後輩もいない状態でバートン様に雇ってもらい、ようやく部下の料理人も出来たところでもあり、バートン様も、
「私もダグの料理を気に入っているのだ…」
と言っているそうで、ダグさんはメリーさんに、
「坊っちゃんに待っていて下さいとだけ…」
と伝言を頼んだらしく、レシピを弟子に託す事が出来たらこちらに来る計画らしいのだ。
『いや、たかがCランク冒険者だよ…使用人をそんなに雇えないよ…』
と思う僕ではあるが、これだけの数の借金奴隷を抱えている時点で普通ではなく、
『頑張ってゴーレムコアを直し続けるしかないな…』
と、我が家のメイン収入になっているゴーレムコアの修復を魔力が回復するのを待って繰り返す日々を送るしか無さそうである。