軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第62話 師弟の語らい

大所帯の僕たち一団がタンカランに到着したのは夏の終わり頃だった。

まだ手前のマーチンの町にはカエル魔物のグラーナを狙う厄介な大型魔物が来ていないらしく、有難い事に湖を避けて迂回すること無く、すんなり到着出来たのである。

そして、時期的にもグラーナで稼いだ新人達がタンカランに新装備を身に纏い腕試しに来るシーズンも重なり、ギルド宿がゴーレムコアを狙った冒険者と新人冒険者でいっぱいで、僕たちが潜っていた頃からは考えられない事に九階層のロックマン狩りは予約制で順番待ちをしている程であった。

「これはどうしようか…マーチンなら宿に泊まれるかも知れないけど…」

などと、ギルド宿の前で相談していると、タンカランの冒険者ギルドの支店長さんが、

「あれ!?」

と僕を見つけた様子で、冒険者ギルドのカウンターから小走りでやって来て、

「やっぱりタンカランの救世主のジョンさんだった!」

と言いながら僕の背後の馬車を見て、

「えっ、全員お仲間さんで?」

と聞くので僕は、

「えぇ、カルセルの町に行って色々ありまして…」

と、だけ説明すると支店長さんは、

「色々…ですか…」

と、納得はしていないが、あえて踏み込まない様に気を遣ってくれたらしく、

「そうだ、あれからゴーレムコアが三つも出まして、もう、この盛況ぶりですよ」

とホクホク顔の支店長さんに、僕は、

「それは良かったですが、おかげさまで泊まる宿が…」

と困り顔で伝えると、支店長さんは、僕らの馬車をチラっと確認し、

「二台ですか…それならば村のゴミ置き場の隣の空き地で良ければ使って下さい、あの馬車ならば雨風も凌げるでしょうし…あっ、でもゴミ置き場の近くなんて嫌ならダンジョンの順番待ちの冒険者が暇潰しで辺りの魔物を狩りまくっているから村の外だって平気でテントを張れますからね」

と野宿を提案してくれたので、

『まぁ、ゴンザさんから装備を受け取るついでにバラッドさんが師匠に一言もの申すのを見守るだけだし…』

と、冒険者ギルドが管理しているらしい広場にて二台の馬車を停める事にしたのである。

到着した広場は案外広く、リーグさんが、

「我々は馬車で寝れば子供達と女性陣のテントは張れそうですね…あちらの木にブドウパン達も繋げそうですし」

と判断してくれたので、僕が、

「では、今日のキャンプ地はここですが、お隣のゴミ置き場には折れた武器や割れたポーション瓶があると思いますから良い子は近づかない様に!」

と、子供達に注意を促している隙に、バルディオさんとイデアさんがテキパキと馬車を引いてくれていたブドウパン号たち四頭を馬車から外してくれ、7人の大人チームは子供達用のテントをいつもの様に手早く張ってくれたのを確認した後に、50年近く鍛冶師ギルドマスターをゴンザさんに代わり勤めたバラッドさんが、

「今日こそ言ってやる!」

と鼻息荒くいきり立って居るので、僕は、

「ちょっと出かけてきますね」

とバルディオさん達に子供達をお任せして、ベルとリーグさんと共に初めてタンカランに来たバラッドさんを連れてゴンザさんの工房に向かったのである。

そして、工房に到着したバラッドさんが、

「ここにアイツが…」

と呟き、真剣な男の顔になっていた為に、僕はコソッとベルとリーグさんに、

「バラッドさんがゴンザさんをブン殴りそうになったらゴンザさんを守ろう…」

というと、ベルも、

「殴られたらお爺ちゃん可哀相だもんね…」

と理解してくれたらしく、ピリピリムードで先に僕達が工房に併設された武器防具の店に突入し、キミーさんから、

「あっ、お帰りなさい。 カルセルはどうだった?」

などと出迎えてもらったのを引き吊る笑顔で、

「えぇ、まぁ…」

などと言いながらこの後に、工房から出てくるであろうゴンザさんを守れるように僕達が配置していると最後尾から入店したバラッドさんが、凄い形相で、

「キミー!」

と言いながら彼女に駆け寄る。

『えっ、殴るのそっち!?』

と僕は驚きながらも、

『見た目オッサンだけど一応女性なんだからっ…殴るのは…』

と失礼な事を考えつつ何とか止めようと体を動かそうとするが、バラッドさんが一足早くキミーさんの元に到着し、

「キミー…すまない…本当はもっと早くこうするべきだった…」

と言いながらキミーさんを強く抱きしめ、キミーさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑顔になり、

「もう…来ないかと思ったんだぞっ…」

とバラッドさんの顔を見つめて、2人の周りに何やら甘い時間が流れ出すのを僕達が感じた瞬間に、

「バッ君…」

と甘えたキミーさんに、バラッドさんが、

「キーちゃん…」

と答え、そして「ぶっちゅぅぅ!」と聞こえるぐらい熱い…いや暑苦しいまでのキスを交わしたのであった。

『あぁ…「ここにアイツが…」はゴンザさんではなくキミーさんの話だったんだ…なんだかんだで、まだ大好きだったんだろうけど…ビジュアルが…』

などと納得はしたが、映像的にはオッサンとオッサンの熱い くちづけ(ベーゼ) を交わすのを見た僕とリーグさんは完璧に固まり、ベルだけがパチパチと手を叩き、

「キミーおばちゃんもバラッドおじちゃんも良かったね」

と2人を祝福し、キスの余韻から帰ってきたバラッドさんは、キミーさんからようやく離れてベルに向かい深々と頭を下げ、

「ベル師匠が背中を押してくれたおかげです…」

などと、僕の知らない師弟の会話をしているのをワンテンポ遅れで我に返った僕とリーグさんは、

『あっ…めでたし、めでたしかな?』

と2人の絆が再び結ばれた事をなんとなくお祝いしていると、店の騒がしさに気がついたらしいゴンザさんが、

「おっ、また客か…最近はダンジョンが好評らしいからな…」

などと言いながら工房から現れた瞬間に、バラッドさんの顔つきが変わった事に僕達が気づいた時には既に、

「テメェは許さねぇ!」

とバラッドさんの黄金の右がゴンザさんの顔面に炸裂し、ゴンザさんは再び工房へと「どんがらガッシャン!」と物凄い音を発てて戻されたのである。

そこからはバラッドさんも飛び込んで行った工房から、

「危ないだろ!窯に火が入ってたら火傷してたぞ!!」

というゴンザさんの声が聞こえ、

『良かった…生きてる…いや、殴られた事の方を注意するよね普通…火傷って…』

と、複雑な感情に襲われる僕と、リーグさんはゴンザさんを追いかけて工房に突入したバラッドさんを止め損ねた事を、

「旦那様…」

と工房と店の境でオロオロしながら僕に指示を仰ごうとし、ベルはキミーさんに、

「お爺ちゃんが…」

と心配そうに訴えるのだが、キミーさんは何故かウットリしながら、

「昔に戻ったみたい…」

と工房の中から聞こえるバラッドさんの、

「今からでも遅くねぇ、窯に火を入れて、ついでにテメェも押し込んでやるよ!」

という怒声と、ゴンザさんの、

「お前こそ、師匠にその口の聞き方はなんだ!」

との声と暴れている二人のせいで「ガチャン、ガチャン」という工房の機材などが床に落ちる音を聞いている。

「これ…流石に止めないと…」

と焦る僕に絶賛ウットリ中のキミーさんは、

「大丈夫、もうそろそろだから…」

と教えてくれたとたんに、工房から、

「爺ぃ、まだまだ元気だな…」

とスッキリした顔のバラッドさんと、

「パンチが弱くなっとる…どうせサボっていたのだろう…」

と呆れた様に体の埃を払いながらゴンザさんが現れ、

『えっ?』

と、状況が飲み込めない僕やリーグさんを他所に、バラッドさんが、

「爺ぃが逃げたせいで書類、書類の毎日で体が鈍ったから助かったな…」

などと、ゴンザさんに嫌みを言い、ゴンザさんまで、

「何が爺ぃだ! 師匠だろ!!」

と、第2ラウンドが始まりそうな雰囲気であるが、手慣れた様子のキミーさんが、

「はいはい、暴れたから喉が乾いたでしょ? 皆さんもお茶をいれますからねぇ~」

と店の奥へ入って行くと、ゴンザさんは照れくさそうにバラッドさんに、

「キミーとは無事に話がついたらしいな…」

と呟き、バラッドさんが、

「はい、 義父さん(お父さん) 」

と静かに答えたのであった。

『いや、難しいよドワーフの愛情表現…』

という感想しかない肉体で語らった師弟のお茶会にその後、微妙な笑顔で参加する僕達だった。