作品タイトル不明
140 番外編 王都
「竜王国は滅亡しました」
ドゥブレッドは首を横に振って続きを話す。
「白銀竜の言葉通りに、雲に覆われ雨が降らない国は干からびていきました。
王や貴族は周辺諸国に侵攻して、その地で生き延びようとしましたが、竜王国が制圧した地は同じように雲に覆われ雨が降らず干からびていったのです。最強の竜軍といえど食料のない状態で弱まり、諸外国軍に殲滅されました。
竜王国の中でも、我が領地といくつかの貴族領が被害には合わず、人々が押しかけましたが、ほとんどの者は見えない壁に 弾(はじ) き飛ばされるように領地に足を踏み入れる事はかないませんでした。」
ああ、それでこの居城は森に囲まれていたのね、とアーニデヒルトも理解する。
被害に合わなかった領地というのは、アーニデヒルトが 弾劾(だんがい) をされた時に、アーニデヒルトを 庇(かば) って王の不興を受け、領地に 蟄居(ちっきょ) を申し渡された貴族達であろう。
「王都から逃げ出した貴族達に行き場はなく、王と側妃は王宮で餓死したとか乱入してきた市民に殺されたとか言われてますが、定かではありません。
王都で動く者が無くなったのですから、情報を伝える者がいなくなりました」
それは人だけでなく、全ての生き物が無くなったと言っているのだ。
竜人は絶滅にはならなかったが、大きく数を減らした。
「アーニデヒルト様、現在の王都の様子を見に行かれますか?」
ドゥブレッドは立ちあがると、息子のケービックを呼んだ。同行をさせるようだ。
居城を出ると、すでに竜たちが待機していた。アーニデヒルトを迎えに来た竜たちであろう。
そこにドゥブレッドとケービック、エルデガートが竜に変わって隊列に交じる。
最後にアーニデヒルトが竜に変わると、隊列から息を飲む気配が伝わってきた。
アーニデヒルトを守るように隊列を組み空を駆ける一群。
王都へ乱れることなく飛ぶ様子に、通常から視察に行っているのだろうとわかる。
ストレイグスの領地を離れると、すぐに空は雲に覆われた。
乾いた空気を感じる。
眼下には砂漠が広がっていた。
陽が当たらない大地は気温が低く、雨が降らない地の川は干からび、命の気配はない。
これがかつての竜王国の王都。
アーニデヒルトが竜の変化を解いて降りたつと、続いてドゥブレッド達も降りてきて人の姿となり静かに立っている。
アーニデヒルトは屈んで砂を手に取ると、風に乗せて散らばさせる。
「シュビレーヒ・ストレイグスは記述で残しています」
ドゥブレッドはアーニデヒルトの後ろ姿に語り掛けた。
「王妃に石を投げた人たちは、人々から暴行を受け亡くなったが、空が晴れることはなかった。
他国に侵攻しても呪いが広がるだけで、竜王国民を受け入れる国はなかった。光のささない国は荒れ、農地は枯れ、牧畜は育たなかった。
竜王国では水が無くなり、食料は底をついた。
弱い者から倒れ、王都では死体が積み重なり、墓を作る人もいなくなった。
長い月日をかけ、草木も人も動物も、全てが風化して砂となった。最後は建物も残骸を残すだけとなった」
朽ちた建物の残骸が砂に埋もれて、半分だけ姿をだしている。
アーニデヒルトは周りを見渡して、手に持つ砂をパンパンと払った。
かつての自分なら、私が呪ったせいでたくさんの人が死んだ、と責任を感じたかもしれない、とアーニデヒルトは思う。
でも、ナーディアやイレーヌ、そして自己中なアルチュールを見てきた今は違う。
自分を1番に考えていいのだ。
「ギロチンの刃は私の首を半分斬った。かろうじて竜に変化できたけど、許さないのは当然のことだわ。
私を助けようとした人には、呪いがかからなかったはず」
アーニデヒルトはドゥブレッド達に振り向く。
「貴方達も生き残っていることに、罪悪感を感じる必要はありません」
エルデガートが駆け寄り、アーニデヒルトの前で片膝をつくと、皆が同じように片膝をついて礼を取る。
「アーニデヒルト様」
「王が流した情報があったとしても、それを考えることは誰でもできたこと。
竜となった私は、計り知れない力があった。
私は、私を信じようとした人を選民しました。彼らは、ストレイグス領に弾き飛ばされずに入れたはずです。
貴方達は、私が選んだ者達の子孫です。自分達の祖先が生き残ったと、罪悪感も責任感も持つ必要がありません。
ここの砂になった者達は、それなりの理由があって、私が選ばなかったのですから。
私は自分を守る為に、自分の命を奪う者達を排除したのです」
王都の砂漠に立つアーニデヒルトは神々しかった。
ドゥブレッド達は、白銀竜は神の使いではなく神なのだと思えた。