作品タイトル不明
仲良しでいようね
さて、イセタウンに到着するなり、いきなりメケーロ爺ちゃんに呼び出され、そのまま流れで、イセタウンの地元民たちと白昼のパーリィを楽しんでいたわけだが……。
「よーお、久しぶりだなあ!
なかなか楽しんでるみてえじゃねえか!」
両腕を高々と掲げた元気な挨拶で、友人の一人――ゼファー・ショウナンが姿を現したのが、一つの区切りとなった。
ちなみに、アルファードと同い年でかつ、いかにもいかつい見た目をしたこの男であるが、多分、そこらの一般帝国兵より弱い。
いや、一般帝国兵を比較対象として無意識に選んでしまうのだから、単なる喧嘩自慢としてはそこそこやるのか?
どちらにせよ、アルファードやカワハラのように修行を積んではいないので、非戦闘員タイプである。
んで、俺が注目したのは、いつも通りワックスで逆立てられている薄く染めた金髪ではなく、こいつが着ているシャツ。
「皆のおかげで、ありがたく楽しませてもらっているけどさあ……。
あんた、そのシャツどうしたの?」
「んーだよ、キマってんだろ?」
両手の親指でビシリとシャツを指差すゼファー。
まあ、うん……独特だとは思います。
「こいつは、幕末に活動していた方の新選組が着ていた羽織と同じ柄のTシャツだ。グッズ化して土産物屋に置かせてもらっている。
オレは今、新選組で副長やらせてもらってるんでな。
こいつを着て街中の見回りして、グッズの宣伝してるってわけだ」
「その割に、隊長であるアルファードと特攻隊長のカワハラが着てない」
さっきまで地元のラッパーさんとフリースタイル対決をしていたエステが、ツインテールとデニムスカートを揺らしながら駆け寄ってくる。
テディベアを手にした妹の背後を見ると、いかにもなジャパニーズラップスタイルの青年が、燃え尽きたように浜辺へ座り込んでいた――スッゴイかわいそ。
よいこのみんなは、IQ180の相手にディスりで挑むのはやめておこう。
「あー、それな。
いや、オレも前々から着ろって言ってるんだけどよ」
ゼファーが苦々しく言いながら目を向けると、プイとそっぽを向くアルファードとカワハラだ。
「俺はこのファッションが気に入ってんだ。
鬼の副長の進言でも、それだけは聞けねえな」
「うす。
特攻隊長がさわやかブルーのTシャツ姿じゃ、相手に舐められるっす」
だそうです。
黒ワイシャツにジーンズを合わせ、金のネックレスを装飾にしているアルファード隊長さんはともかくとして、ゆったりシャツにハーフパンツの特攻隊長はあまり変わらない気がするけどな。
つーか、隊長がトップで、下の役職に特攻隊長がいるのって、分かりづらくない?
「……ったく。
こっちは、金策で 汲々(きゅうきゅう) としてるってのによ。
なあ、イラコ? 気が向いたらカンパとかしてくれねえか?」
「金勘定が得意なあんたなら、それが筋じゃないってのは分かるだろ?
俺のために割かれている予算は、俺が率いる人間たちのためにこそ使われなければならない。
まあ、先日、街中で大暴れした件で名前が売れてるんだ。
この惑星を治めるシュワード辺境伯も、予算の配分は考えるだろうよ。
そうなると、タイミングよく俺の暗殺を企てたあの連中に感謝だな」
「ああ、人民入植共同体に感謝だ」
あいつら、人民入植共同体のスパイだったのか。
銀河帝国全域を標準的な平面宇宙図で見た場合、この惑星レクとは真反対――上側の、そのまた向こうに位置している敵性国家だ。
つまりは、銀河の反対側から、わざわざこの惑星にまで潜り込んでいたことになるわけで、ご苦労さまという他にない。
逆にいうと、そんな遠くの勢力が――エステいわく「雑な仕上がり」とはいえ――M2一機を手配し、街中で暴れさせたことになる。
侮れぬ工作能力。
あるいは、帝国内部に協力する勢力がいると見るべきだろう。
「ま、んなことはともかくとして、そろそろ行っといた方がいいんじゃないか?
アルファードんちの爺さん、首を長くして待ってんぞ」
「……あ」
そう言われて、思い出す。
そもそも、このイセタウンで最初に行うべきこと……。
それは、ママの所とイゾーロ先生の所へ顔を出すことであった。
前者に関しては、なぜか俺がこの海岸へ来たことを察知した向こうから来てくれたので解決したが、後者に関しては、後回しのままである。
別に時間の指定はしていないが、先生の孫であるアルファードに、今日到着であることは伝えてもらっていた。
すでに14時を回っていることを考えれば、さすがにもう向かうべきであろう。
「イゾーロ先生というのは……?」
「確か、イラコが子供の頃にM2操縦を教わっていた個人教師よ。
今は、このイセタウンに住んでいたのね」
先生のことを知らないシレーネさんに、ちょっとだけ知っているディートがツーサイドアップにした金髪を払いながら答える。
「イゾーロか……。
あいつがいるんなら、俺も後から顔を出すかね」
「お爺ちゃん、知り合いなの?」
カレッジコーデのマミヤちゃんが黒髪をなびかせながら尋ねると、メケーロ爺ちゃんがよろしく伝えておくように念を押していた。
……まあ、年齢的にも実力的にもそうじゃないかと思ってたけど、先生と知り合いなのか、メケーロ爺ちゃん。
「それじゃ、先生のところに行くか!」
「おー!」
俺に合わせて、拳を突き上げるエステ。
「ではー。
ママは、先にイゾーロさんのお屋敷まで行っていますねー」
そして、メイド服のスカートを少しだけ持ち上げ、ピュン! という音と共に姿を消すママ。
……きっと、当然のようにお屋敷へ先回りしているんだろうな。
こっちは車使ってて、あっちはメイド服着込んだ状態で生身なんすけど!
ともかく、俺たちも先生の屋敷へ向かうべく、集まってくれた皆にお礼と別れを告げて回るのだった。
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「んじゃ、俺も後から行くからなー!」
防波堤の上……。
イラコから借用しているオープンスポーツカーのボンネットに腰かけ、いつも通り両手をポケットにしまったアルファードが、これもいつも通りのにやけた顔で、走り出すレンタカーへと声をかける。
そうして、ミニバンタイプの車が走り去った後……。
アルファードの顔から、ふいに笑みというものが消え去った。
イセ新選組隊長――アルファード・ヤマモトとしての顔である。
そんな彼の周囲に集まるのは、副長ゼファーと特攻隊長カワハラのみではない……。
まずは、ゼファーが引き連れていた新選組の隊士たち……。
それから、イラコを歓迎するべく集まった地元民たちのうち、男たち全員が、片付けと子供の世話を嫁たちに任せてここへ上がってきていた。
「ふぃー……。
まあ、なかなか心に響いてたんじゃねえか?
あいつは、昔っからファミリーとかフレンズとかに、強い憧れがあるからな。
トキメキがエスカレートしただろうぜ」
「騙すみたいで、少し気が引けるけどな」
ゴツい顔でらしくもなくセンチメンタルな表情を浮かべたカワハラに対し、ゼファーが片眉を持ち上げる。
「騙してるわけじゃねえ。
オレたちは、誠心誠意、イラコを歓迎しただけだ。
歓迎して、仲良くなった。
これからも、仲良しでいようね」
ゼファーが両手でハートマークを形作ると、周囲の隊士たちや地元民の男たちも同じ仕草をした。
まさに、鉄の連帯。
イセの民には、一部の隙もない。
「ああ、俺たちとイラコは、ズッ友だぜ。
それを内外に喧伝して、帝国の民たちを味方につける。
世論を、俺たちのものにする」
ボンネットの上で足を組み替え、笑みを浮かべるアルファードだ。
ただし、いつもの軽薄なものではない。
もっと薄く、凄絶な笑い。
「全ては、地元のためにな……」
その言葉で、イラコへの申し訳なさを消しきれずにいたカワハラも含め、全員の表情が引き締まる。
彼らの瞳に宿るのは、冷たく暗い炎……。
それは、ある種の人間に共通する特徴であった。