軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イセタウンへ行こう

車といっても色々な種類があるが、俺が好きな車種は、やはりスポーツカー。

それも、今回のような長距離移動でチョイスするのは、もっぱらオープンタイプのそれであった。

もちろん、レンタルできるような車ではない……いや、皇子様だし多分できるだろうけど、レンタル屋さんを困らせたいわけではないので、そんなことはしない。

では、首都からイセタウンへ向かう際、いつもどうやってスポーツカーを調達しているのかというと、ずばり……この惑星首都にガレージごと所有していた。

それも、非オープンタイプと合わせて三台。

だって、だって……俺、皇子様だし!

そのくらいできる程度の小遣いは持っているのである。

ちなみに、普段の管理や定期的な走り込みは、アルファードたちに頼んでいた。

そんなわけで、通常ならば助手席にエステを乗せ、風と一体になってハイウェイを爆走するのがイセ帰郷の光景。

だが、今回イセタウン行きで選んだのは、ガレージに収まったいずれの車でもない。

では何かといえば……レンタカー。

それも、普通の車ではなかった。

最大収容人数――公称五人。

後部には広々とした収納スペースが確保されており、各種アウトドアなど、様々なシチュエーションに対応可能。

キッチンカーなどのベースとしても大人気であり、俗に現場職と呼ばれるブルーワーカーたちにとっては、頼れる相棒!

ちょっと横に広い面構えが愛嬌たっぷりなバンタイプの車をレンタルしたのである。

ハッキリ言って、俺が今まで最も毛嫌いしていたタイプの車だ。

いっそ、小回りや燃費に全振りしている分、軽自動車の方が好ましくすら思えるレベル。

見た目からして、色気がないというかさあ。俺が好むオープンスポーツカーを美少女だとしたら、おばさん臭いというかさあ。

いやさぁ……馬鹿にしてたさ。

がねぇ、いやぁ、味わい深かったって感動したぁ。

デカい分当たり前だが、パワーそのものは十分。

ただ加速のノリと足回りのキレが悪いというだけで、サーキットならぬハイウェイを走る分には問題ない速度を発揮することができた。

それに、何より……快適。

ゆったりとした空間で、座り心地のいいシートに座り、のびのびとした運転。

風を感じることも、ダウンフォースの圧力を楽しむこともできないが、代わりにこのボディは風を砕き、昼間は常夏じみた気候となる惑星レクにおいて、エアコンのきいた快適な旅を提供してくれる。

それに、これが重要ポイント……車内の会話が、楽しい。

「おお! 今の見たか!?

イルカが跳ねていたぞ!」

「え、どこどこ?

ていうか、この惑星、イルカなんて持ち込んでるの? 生態系とか大丈夫?」

「検索してみたところだと、入植船団で飼っていたイルカを、情に流されて解き放ってしまったようですね。

ご心配の通り、他に持ち込まれた入植魚介類に対し圧倒的優位な生態のため、当初は海洋資源の破壊が問題視されたようです」

イゾーロ先生から学んだ漢字では、女三人集めると 姦(かしま) しいという文字になるのだったか?

後部座席に乗り込んだシレーネさん、ディート、マミヤちゃんがそんな会話を交わす。

「ただ、それは本当に入植初期の話。

事態を重く見た入植者たちは、すぐに自動制御のドローンを大量投入し、全てのイルカにICチップを埋め込むことに成功。

現在は計画的な去勢手術が行われ、海洋資源を守ると共に、イルカたち自体も観光資源化している」

助手席から振り返ったエステが、いつも通りの無感情な表情で訂正する。

こんなやり取りを聞くのが、なかなか楽しい。

いつもエステと共にイセタウンへ向かう時は、かっ飛ばしたマシーンの走り心地を堪能しつつ、風を味わっていたからな。

当然、会話などろくにできようはずもない。

対して、今このシチュエーションはどうか?

バックグラウンドミュージックとして、やかましくない程度にジャズなど流し、コンビニで買っておいた手が汚れないお菓子や、ドリンクホルダーのコーヒーを味わう。

そんな風にしていると、おしゃべりが止まらなくなるのが女性という生き物。

俺自身は積極的に話へ加わらず、聞かれたら相槌を打ったりする程度であったが、それは俺の分まで彼女らが話してくれているからであり、対して口を開いていないというのに、たっぷりトークを楽しんだかのような充足感があった。

そうしながら果てなき荒野に敷かれたアスファルトの上を滑らかに進み、左手に見える大海原を見ていると、今まですっ飛ばしていたこれらの景色が、案外色豊かであったことに気付く。

なんという……穏やかさ。

ひょっとしたならば、俺はこういった感覚に飢えていたのやもしれない。

「イラコ、イラコ。

何か、表情がおっさん臭くなってる。

格好がそうだから?」

失礼な。今着ているストライプのスーツは、一流テーラーに仕立ててもらったオーダー品だぞ。

ちなみに、テディベア抱きながらそう言ってきたエステのファッションは、コットンのオックスフォードシャツにデニムスカートと野球帽を合わせた活動的なもの。

ついでに紹介しておくと、シレーネさんが着ているのはスカートスタイルのスーツで、マミヤちゃんはスタジャンにショートパンツを合わせ、足元をストッキングで固めたカレッジスタイル。

ディートのファッションは、ラインストーンロゴ入りの半袖ピタTシャツと、ぶっといベルト付きのタイトミニスカートを組み合わせたものであった。

普段の軍服要素は、どこにも存在しない。

今は完全なるオフであることと、かつ、民衆に正体がバレて騒ぎになるのを防ぐ目論見から、全員私服である。

え? なら、どうして俺とシレーネさんはスーツスタイルなのかって?

そうねえ……。

それはねえ……。

「あるいは、ママのところへ、婚約申し込みの報告をしに行くから?」

今朝セットしてやったツインテールの銀髪を揺らし、テディベア片手にエステがぼそりと漏らした言葉……。

それで、あれだけキャイキャイと騒がしかった車内の空気が凍り付いた。

そう、俺たちは一瞬前まで、何気ない風景の話題や、ランダムでかけているジャズの話で盛り上がってたものだが……。

これはすなわち、今回の旅におけるメインイベントについて、意図して避けていたということでもある。

そのメインイベントこそが、婚約申し込みの報告。

報告するお相手はもちろん、これから向かうイセタウンで暮らしている俺の母であり……。

婚約をこれから申し込むのが俺で、申し込まれるのが21世紀初期型の人型ロボットがごとくギクシャクとした動きになり始めたシレーネさんだ。

まあ、正確に言うと申し込み入れるのは、わざわざここ惑星レクにまで出張してきている外務卿。

申し込まれているのが、シレーネさんの生国であり、ジンバニア王立連合を構成する五王国の一つ――ヨーギル王国であった。

後者に関しては、今頃、王女の生存を伝えられたばかりか、婚約の申し入れまでされて、てんやわんやになっているだろうけどな。

「まあ、なあ。

ガキの使いみたいなイベントじゃないわなあ」

ハンドル片手に、仕立てたばかりであるスーツの襟をなぞりながら、どうにかそうつぶやく。

母の性格を考えれば、別段、どんな格好をしていても印象が変わることはあるまい。

だから、これは俺にとっての鎧。

きちんと、大人として、皇子として責務を果たすためです、と、言外に伝えるための格好だ。

シレーネさんの方は、俺に合わせてくれた形であった。

はははは……はあ。

「イラコ、気が重い?」

「……まあね」

他に誰も何も話さなくなった車内で、隣のエステが投げてきた質問に、頬の筋肉を硬直させながら答える。

惑星レクは、農業用に開拓された土地を除いて荒涼とした大地が広がっており、イセタウンに向かうこの海沿いのハイウェイも、まさにそのような荒れた土地を貫いていた。

左手に水平線。

正面には、地平線が見えてくるような無限に続く道路。

これが錯覚ではなく、本当に無限に続く道のりであったなら、少しは気が楽であったかもしれない。