作品タイトル不明
イセ新選組
応援するよ!
と、いうわけではないが、アルファードとカワハラ……ひいては、アルファードがイセタウンの地元民集めて組織したというイセ新選組の名は、瞬く間に惑星レク……ひいては、帝国全土へと広まった。
どこぞのスパイによるド派手な破壊工作――つーか俺の暗殺未遂――があったのが、昼間の話。
そして、夕刻を迎えた今、すでにタキオンネットを通じて銀河中に破壊工作事件と、イセ新選組の名が報じられていたのである。
何しろ、今回は多数の 一般人(バンピー) たちによって動画を撮影されていたからな。
人の口に、戸は立てられぬもの。
有史以来最大の独裁国家たる銀河帝国であっても、情報規制を敷くことはできなかったのだ。
『シンセングミって?』
『ジャパンに存在したというサムライ部隊の名前らしい』
『じゃあ、イセっていうのは?』
『惑星レクにある史料再生都市。
これもジャパン発祥だな』
SNSでやり取りされているのは、最初この程度の情報だった。
だが、これがネット民の……つーか、暇人の恐ろしいところ。
ものの一時間もすると、アルファードを始めとする新選組メンバーの個人情報が、次々と特定されたものである。
……まあ、特定というか、当の本人たちがSNSで堂々と新選組を名乗り、様々なプライベート写真もアップしているのだが。
比較的多いのは、誰かしらの家に集まって庭でバーベキューしてる写真でーす。
「なんつーか、盛り上がっちまってるなあ。
これ、下手なSNS運用したら、あっちゅう間に燃え上がっちまうぞ」
自分の携帯端末で、それらのつぶやきや、やり取りを眺めた後、顔を上げた俺は、アルファードのにやけツラに向かってそう言ってやった。
場所は、俺がこの惑星レクで拠点としているスイートである。
いくつかある部屋の中で、リビングに相当する場所。
お互いふっかふかのソファに腰かけていて、間を隔てるお高いテーブルの上には、まだまだ在庫がある俺のお手製羊羹とマミヤちゃんの玉露が供されていた。
「そこは、ちゃんと考えて運用してるさ。
見た目プライベートっぽくしてあるけど、実際は宣伝目的だしな」
「てか、このお茶うめーな。
部屋も豪華だし、メイドさんまで付いてるし、そういうところ見せられると、イラコっちも皇子様なんだなって思うわ」
ポケットに手を突っ込んで座るアルファードが肩をすくめ、カワハラの方は遠慮なく茶をすすりながら率直な感想を漏らす。
「マミヤ少尉は、俺お付きの副官であり、まあ、秘書みたいな立ち位置だ。メイドってわけじゃない。
大体、ちゃんと軍服着てるだろうが? 広報士官用のだけど」
いかつい顔で放たれた無遠慮な言葉を、やんわりと訂正してやる。
当のマミヤちゃんはといえば、いつもの軍帽付き改造軍服にフリルミニスカートを合わせ、白ニーソと編み上げブーツで足元を固めた姿で、お盆を胸に抱きながら俺の背後へ控えていた。
「そう、マミヤはあくまでも副官であり秘書。
仕事の関係。それは大事」
久しぶりに俺の膝へシットダウンしている白ワンピ眼鏡っ子モードのエステが、右手にテディベア、左手にヤンキーフィギュアという状態で強調するように言い放つ。
「そういうもんかあ?
俺はてっきり、イラコママに報告しなきゃいけないことでもあるのかと思ったけどな」
ハンドインポケットのまま、ヘラヘラと笑うアルファード。
人のこと馬鹿にしてるような態度であるが、これがこいつの平常運転である。
チラリと後ろを振り返ると、マミヤちゃんが照れているかのように体をもじもじとさせていた。清純な子なんだから、変なからかい方をするものではない。
さておき……。
「んで、新選組だっけか?
お前ら、いつの間に兵隊さんになってたの?」
SNSに投稿されていた写真の一つ……。
道場の中で並び、ウェーイと撮影しているこいつらの集合写真を映した状態で、携帯端末をテーブルに置いた。
アルファードやカワハラはもとより、みなさん黒・白・ゴールド系統のタイトめかオーバーサイズのファッション。
典型的なマイルドヤンキースタイルである。
写真の投稿には『イセ新選組始動! 地元愛で守ります! #惑星レク #イセタウン』というテキストを添えているが、これで独自裁量を持った独立機動小隊であると判断することは、不可能であろう。
「兵隊っつっても、そのマミヤちゃんが所属しているような帝国正規軍じゃあなく、惑星レクを治めるシュワード辺境伯の私兵だけどなー」
「でも、有事の時はさっきみたいに独自判断で出撃することを許可されているし、こうやって私服で活動できるし、気楽でやりやすいぜ」
端末の画面に映された写真の写りを確かめながら、二人が俺の言葉へ答えた。
「独自判断で出撃、か。
大気圏外から出てきたってことは、宇宙港に駐屯地なり詰め所なりがあるんだろ?
辺境伯のやつ、随分と強力な権限をお前に与えてるじゃねえか?」
再び携帯端末を手に取り、市民の一人が投稿した動画を映し出す。
大気圏外から姿を現しているのは、アルファードが操るタイゴン弐式……。
今はもう、駆けつけたイセ新選組のメンバーによって、 大気圏外(そと) へと移動させられている。
「そこが、第四皇子様の影響力ってやつだな。
何しろ、お前は名が売れてるだろ?
そんなお前が、ママンに会うため子供の頃から定期的に通っているのがイセタウン……。
そのイセタウンの住民が、地元を守る部隊として立ち上がるって聞けば、伯も話くらいは聞くさ。
んで、決まり手になったのがタイゴン弐式。
装備持参な上に、それがイラコが操る機体の兄弟機みたいな外見ってのは宣伝効果大だぜ。
エステ、マジにありがサンキューな」
「ウェーイ」
アルファードの言葉に、両手のフィギュアを掲げてウェイしてみせるエステだ。
「何しろ、おれっちたちは地元命。
地元に生まれ、地元で生き、地元を盛り上げるのが生き様ってもんよ」
「そのために、友人使って売名するわけか?」
両手の親指で自身を指したカワハラに、ジト目でツッコミを入れておく。
とはいえ……。
とはいえ、だ。
「お前だって悪い気はしないだろ?
イセタウンは第二のふるさとだし」
アルファードのやつ、先に言いやがった。
が、確かに悪い気はしない。
あらためて述べるが、俺は庶子だ。
親愛なる我が親父殿こと、現銀河皇帝フリードリヒ・ジーゲルが、日系の皇室付きメイドであった母をお手つきにして生まれたのが、この俺である。
そして、ここで重要な事実が一つ……。
銀河帝国(うち) は、キリスト教圏の国家だ。
もちろん、様々な人種が入り乱れる銀河時代であるから多様性というものはあり、最も信仰する人間の多いのがキリスト教ということになるのだが、それは置いておこう。
大事なのは、親父殿も、正妃であるフィリア様も、揃ってクリスチャンだということ。
はい、浮気は許されませんね。
というか、冷静に考えて、大抵の奥さんは宗教に関係なく浮気を許さない。
もちろん、フィリア様も許さなかった。
それはそれはもう、恐るべきブチギレっぷりであったと愛すべきバーコードハゲこと 宮内(くない) 卿に聞いている。
当たり前だ。
それで生まれた人間である俺がいうのもなんだけど、フィリア様の怒りはごくごく正当なものであると思う。
そんなわけで、俺が生まれた後、俺の母は帝都星ティンゲルから引き離されることになった。
で、その隠居先がこの惑星レクにあるイセタウン。
ここにいるアルファードやカワハラの地元であり、俺が暇をみては――エステが大きくなってからはこいつも連れて――通い詰めた第二の故郷である。
ちなみにだが、俺に和菓子作りを仕込んでくれた師匠であるイゾーロ・ヤマモト先生も今はイセタウン在住。
眼前のアルファードはその孫であり、知り合ったきっかけもそこにあった。
かような経緯があって、こいつが言う通りイセタウンは第二の故郷。
このように気兼ねなく話せる友人たちが暮らしていることを思えば、帝都星ティンゲルよりも故郷であるかもしれない。
「ま、それもそうだな」
だから、アロハシャツの肩を軽くすくめて答える。
「さっすが、イラコ。
話が早くて助かるぜ。
それと、お前のママさんと、俺の爺ちゃんが会いたがってるぜ?
お前のことだから、一段落すれば顔を出すだろうと思ってたけど、そろそろどうだ?」
「バーベキューで出迎えてやるぜ!」
アルファードの提案に、カワハラがすかさず付け足す。
お前ら、本当にバーベキュー好きな?
「そうだな……」
で、俺の返事はといえば……。