軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白いタイゴン

SVO-956ドンナーは、スマート・ヴィークル社が生産する銀河帝国軍の主力M2である。

で、あるからには、全領域対応型の人型機動兵器であるとはいえ、その運用目的は一つの事柄に集約した。

すなわち、帝国臣民を守ること。

侵略性国家である銀河帝国だが、他領へ攻め込むのは臣民の生活を豊かにするためであり――攻められる側には勝手極まりない話だが――それもまた、臣民を守るという運用目的に集約される。

黒銀の機兵が動くのは、常に帝国臣民のため。

ゆえにこそ、お世辞にもヒロイックなデザインとはいえないこの量産性最優先機が、帝国軍の“顔”として広く人々に親しまれているのであった。

ならば、この状況は悪夢というしかない。

「なんだ!?」

「倉庫を突き破って……M2が出てきた!?」

「どうなっている!?

映画の撮影とかじゃないんだよな!?」

この期に及んで、映画の撮影などという言葉が飛び出してくるのは、まさに正常性バイアスという他にないだろう。

自分たちの日常は破られない。

この平和な暮らしは、いつまでも続くはずだ。

皆、まったく無根拠にその認識を抱いており、口をついて出るのも、それを肯定する言葉なのだ。

だが、現実というものはいつも無情。

――ヂュイイイィィン!

空き倉庫を内側から破壊し現れたドンナーが、威圧的なアクチュエーター音を響かせる。

この音は、知識のある者が聞けば、粗悪な払い下げ品を、パーツ相性も考慮せず組み上げた結果であると判断できただろう。

だが、そんな知見など持ち合わせない無辜の民たちには、モンスターの咆哮としか思えない異音であり……。

「逃げろっ……!」

「ファミレスの方へ向かっているぞ!」

「反対側へ走るんだ!」

人々がストリートを逃げ惑うには、十分な迫力を伴っていたのである。

「一体、どうして……!」

ある者が叫ぶ。

当然、答える者などいない。

「助けは来ないのか……!?」

また、ある者も叫んだ。

そして、これに対しては、望むモノが姿を現したのであった。

「おい! あれを見ろ!」

「流星……?

ううん、どんどん大きくなってくる!」

「M2だ!」

「大気圏外から、突入してくるぞ!」

電磁シールドを赤熱化させ、流れ星のごとく地上へ接近してくるマシーン……。

全長18メートルを誇る人型のシルエットを知らぬ者など、もはやこの銀河帝国に存在しようはずもない。

「あれは……?」

「タイゴンだ!」

「タイゴンが、助けに来てくれたぞ!」

そう……陸上選手のごとくスリムさとマッシブさを両立させたボディラインは、第四皇子の専用機タイゴンと同様のもの。

また、四つものカメラアイを備えた頭部パーツのデザインも、タイゴンと共通している。

ただ二つ、大きな差異は……。

「白い……!」

「それに……ポケットへ手を突っ込んでいるだと!?」

そうなのだ。

第四皇子の専用機といえば、『勇者武闘タイゴン』や先日の模擬戦でも知られているように、宇宙の闇よりも深い黒一色。

対して、大気圏外から現れたこの機体は、雪原を思わせるホワイトカラーで染め上げられているのであった。

しかも、両腰部にはポケットとしか形容しようのないパーツが増設されており、そこに両のマニピュレーターを突っ込んでいるのだ。

――ズウンッ!

それが、猛烈な速度で地上に降り立ち、ドンナーへ顔を向けると、さながら巨大な不良が相手を 睨(ね) めつけているかのごとしであった。

「白い……タイゴン?」

「第四皇子が助けに来てくれた……?」

「じゃあ、あのドンナーは、犯罪者かテロリストなのか……?」

人々の言葉に、ドンナーも白いタイゴンも、答えることはない。

ただ、片方は、万力じみたマニピュレーターで折畳式の電磁ブレードを構え……。

もう片方は、相変わらずポケットにマニピュレーターを突っ込んだ姿勢のまま、立ち尽くすのみ……。

先に動いたのは――ドンナーだ!

スラスターからプラズマジェットを噴射させると、猛烈な勢いで電磁ブレードを振り上げたのである。

技も何もなく、袈裟懸けに刃を振り下ろす攻撃……。

これに対し、白いタイゴンが見せた動きは――スウェー!

スウェー!

スウェー!

一撃、二撃、三撃と、アクチュエーターの異音と共に放たれた斬撃のことごとくを、上体逸らしの動きで完全回避してみせたのであった。

通常のM2とは比較にならぬ関節可動域の広さがあるからこそ、可能な芸当……。

しかも、ならばと繰り出してきた足払い気味のローキックすらも、スラスターの力を借りないバク宙によって回避してみせたのである。

全長18メートル級の人型が見せる、あまりに華麗な軽業……。

これに、人々は逃げ惑うことすら忘れて魅了された。

「すげえ……」

「なんて戦い方なんだ……」

「これが、ロボットの格闘戦なのか……?」

「まるで、人間……。

いや、プロの格闘家以上だ!」

「やはり、乗り手はイラコ皇子なのか!?」

「そうとは限らん!

とにかく、タダ者じゃないぞ!」

――ヂュイイイィィン!

威圧するようなアクチュエーター音を響かせながら、ドンナーが電磁ブレードを構える。

――チュイイイィィン!

一方、白いタイゴンの関節部が奏でる音は、澄んでいるとすら思える響き。

機械としての性能差が、駆動音に表れているのだ。

まさに、天と地の差。

そして同じだけの差が、乗り手たちの力量にも存在する。

――ダンッ!

それを見せつけようというかのように、白いタイゴンが前へと踏み出した。

相変わらずスラスターの補助は受けず、機体の運動能力のみを頼りにした挙動……。

それでいて、足元の路面を踏み割らないようにする配慮が感じられる踏み込みだ。

当然、それでは踏み込みが甘く、ドンナー側のカウンターを許す。

ポケット部へマニピュレーターを突っ込んだままのタイゴンに対し、ドンナーが選んだ斬撃は、上段からの――振り下ろし。

真っ向から受ければ機体表面の電磁シールドごと真っ二つだろう一撃に対し、タイゴンは直前で立ち止まる。

そして、そのまま全身を横に捻ったのだ。

――ガアンッ!

タイゴンの眼前を電磁ブレードの縦一文字が過ぎ去り、むなしくストリートの路面を穿つ。

絶対的な――隙。

死に体となったドンナーに対し、タイゴンはポケット部へマニピュレーターを突っ込んだ姿勢のまま、右脚を大きく持ち上げる。

高く高く……脛が四つのカメラアイに触れようかというほど持ち上げられてから放たれるのは、かかと落とし!

あまりに鋭いそれは、もはや 蹴撃(しゅうげき) というより――斬撃。

しかも、機体のソール部分では、バチバチという電磁光が瞬いているのだ。

――ザンッ!

こんなものを、振り下ろした両腕に受けては、たまらない。

せっかくの電磁ブレードを活かせぬまま、ドンナーの両腕が叩き斬られた。

そして、白いタイゴンの動きはまだ――終わらない。

戦闘力を喪失したドンナーのコックピットへ、トドメの後ろ回し蹴りを叩き込んだのである。

先のそれが斬撃なら、今度のそれは刺突。

電磁ソールと呼ぶべき装備の補助も受けた一撃は、最も強固なはずのコックピット部分をたやすく押し潰した。

ガクリ……と、ドンナーのブラウン管テレビじみた頭部がうなだれる。

頭脳にして魂と呼ぶべき搭乗者が失われ、動く意思も意義も喪失したのだ。

完全なる勝利。

それも、両手をポケット部にしまったまま一切使わぬという余裕に満ちた勝利だ。

「すげえ……!」

「あの格闘技は一体……!」

「あれはきっと、テコンドーだ!」

完全にギャラリーと化した人々がざわめく中、白いタイゴンはゆっくりとドンナーに突き刺さった右足を引き抜く。

そして、変わらずポケット部へ手を突っ込んだまま、残心するかのように――棒立ち。

そんな白き闘神に対し、救われた帝国臣民たちは歓声を送ったのである。