作品タイトル不明
エグザイル・カワハラ
銀河帝国第四皇女エステ・ジーゲルは、自他ともに認める感情の薄い少女であるが、薄いだけであって、無というわけではない。
ゆえに、人並みの感動を覚える瞬間は存在した。
例えば、目の前でイラコがフルクロス・プレートを完食した瞬間。
甘いものが好きな人物だとは思っていたが、暗殺拳まで駆使してこのデカ盛りを食べきるとは……!
やはり、このチョイスに間違いはなかった。
グッジョブだぞ、わたし。
アロハシャツ姿でガッツポーズする黒髪天然パーマの青年が見せた甘味への執念に、心からの称賛を送る。
そして、本日二度目の感動が――こちら。
「それでは、こちら、時間内完食景品のモモチヨフィギュアです!
こういうの、ゾクっていうんですよね? パパに聞きました!
すっごく、カッコイイです!」
コラボ先ゲームにおける人気キャラクターのフィギュアを持ってきたウェイトレスさんが、エステから見ても魅力的な笑顔で告げる。
彼女がトロフィーのように持っているのは、 特攻服(トップク) と呼ばれる 暴走族(ゾク) の戦闘服を着用した、深い剃り込み入りのパンチパーマが特徴な男のフィギュア……。
このモモチヨというキャラは、『ニワトリ』のゲーム中でも、屈指の様子がおかしいポエマーであり、エステもイチ推しにしていた。
「おおー……。
イイ……」
本当によいものを手にした時、多くの言葉はいらない。
ただ、感動のままそれを手に取り、様々な角度から鑑賞するだけだ。
「よかったな、エステ」
特攻服を下から覗き込み、立体物の醍醐味を味わっていると、勝利の立役者……というよりほぼ単独の勝利者であるイラコが、やや脂ぎった顔でそう告げてくる。
「うん、すごく嬉しい。
ありがとう」
「そうか、お前が喜んでくれて、俺も嬉しいよ」
「イ……お兄ちゃんも、いっぱいスイーツを食べれてよかった」
「え? あ? うん……。
そっすね……」
頬をかいたイラコが、何故か視線を逸らす。
やはり、一定以上の年齢に達した男性にとって、甘いものを食べるというのは気恥ずかしいことなのだろう。
これはまた、こういった機会を見つけて思う存分にスイーツを食べさせてあげなければならない。
最大の特徴である黒髪天パも、スイーツのカロリーを吸収しているのか、不気味にうごめいているし!
兄孝行だぞ……わたし!
「さておき、今のイ……お兄ちゃんは、心なしかボンヤリした顔になってる」
「あー……血糖値上がりまくってるからな。
今は周囲の気配とか、ようさぐれんわ」
血糖値スパイク中の脳でどうにか意識を維持しながら、イラコが答える。
それはつまり、今、タイミングよく刺客に狙われたりしたら、いかにイラコといえど対処不能ということ……。
まあ、そんなことはそうそうあるまい。
わっはっはっは!
「エ……妹よ。
コーヒー取ってきてくんない?」
「りょ」
とりあえずエステは、コーヒーを所望する兄のためにドリンクバーへと向かうのであった。
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「あれか……サングラスをかけているが、間違いない」
「ああ……あの縮れた黒髪は、この程度の変装じゃごまかせないさ」
「一緒にいる白ワンピースがまぶしい銀髪ツインテールの眼鏡っ子は、正体不明だがな……」
古代、とある国においては、スパイのことを指して“草”と呼んでいたらしい。
理由は単純。どこにでもいるから。
ならば、観光客そのものといった格好でファミレスの駐車場に車を止め、窓ガラス越しに内部をうかがう彼らも生粋の――草。
正体など、どうでもいい。
有史以来最大の侵略性国家である銀河帝国には、敵対勢力など星々の数ほど存在するのだ。
今、重要なのは、彼らが確かな情報を基に駆けつけたファミリーレストランで、変装した第四皇子イラコ・ジーゲルと謎の眼鏡っ子が、護衛もつけずくつろいでいるという事実。
しかも、スクリュースピンペガサス狼牙キックで知られるイラコは、何やらグッタリとしていて隙だらけだ。
……殺れる。
「よし、窓から飛び込み、一気にケリをつけるぞ」
「ああ……おそらく一般人だろう眼鏡っ子や、他の客を傷つけないよう注意しないとな」
「死ぬのはクソ皇子だけで十分だ」
リュックサックを開いたリーダーの言葉に、他の者たちがうなずく。
リュックに入っているのは、当然――拳銃。
どんなエースパイロットであっても、生身でいるところをパンパンされたら死ぬ。
今日は、拳銃の力を思い知らせてやるんだから……!
「よし……いくぞ!」
それぞれ、リュックサックから素早く拳銃を引き抜いて駆け出す。
訓練された男たちにとって、ここから標的が見える窓ガラスまでは、数秒の距離。
それを一気に駆け抜け――られない。
「――がなっ!?」
「――はっ!?」
「――ひびっ!?」
……木へと、横合いから叩きつけられたからである。
「「「――ぐはっ!?」」」
街路樹へしたたかに背を打ち付け、アスファルトの路面へと三人仲良く転がる。
拳銃は当然手から離れ、地面へと落ちていた。
「い、一体……」
どうやら、他の二人は気を失ったようであり……。
彼らをクッションとする形になったことで衝撃のやわらいだリーダーが、うつぶせに倒れながらも顔を上げる。
「くせえ……くせえなあ……てめえら。
地元以外の臭いがプンプンしやがるぜ」
ジャリリ……と。
ビーチサンダルで砂利を弾きながら告げてきたのは、イノシシを連想させる男。
中背で、ゆったりとした派手なシャツにハーフパンツ姿なこともあり、とかく横幅が大きく感じられる。
顔つきは前述通りイノシシを連想させる粗野なもので、黒髪は後頭部のみが伸ばされ、毛先を脱色していた。
「き、貴様は……?」
「ああん?
おれっちは地元大好きっ子エグザイル・カワハラ!
悪いが、この惑星レクで 友達(ダチ) の足を引っ張ったら殺すから、よろしくう!」
ぐっと右手の親指を自身に向けながら、エグザイル・カワハラなる青年が威圧的に笑う。
その腕は、あまりに太く――たくましい。
しかも、肉体労働では決して身につかぬ殺気というものが、筋線維の一つ一つに宿っていた。
明らかに、殺傷目的で鍛えた者の肉体。
その戦闘力が自分たちをたやすく無力化できるものであることは、証明されたばかりだ。
「 友達(ダチ) ……?
ということは、イラコ皇子の知り合いか何かか……?」
「おお、まさにそれよ。
イラコっちは、昔からイセタウンへ遊びに来ることが多くてな。
……と、あんまり個人情報を漏らすもんじゃねえか!」
カッカと、豪快に笑うカワハラだ。
なるほど、さすがはスクリュースピンペガサス狼牙キックのイラコ皇子。
友人もまた、恐るべき使い手ということ。
だが……。
「誤算だったな」
「おお、誤算だな?
イラコ皇子を襲うつもりが、返り討ちに遭うなんてよ?」
「いや、誤算だと言ったのはそうじゃない」
リーダーはそうつぶやきながら、ベルトのバックルを強く押した。
それが――合図。
近くの倉庫内で密かに組み立てられたドンナーへ、出撃を伝えたのだ。
瞬時に伝わってくるのが、轟音。
全長18メートル。
黒と銀を基調にした塗装の人型は、ブラウン管テレビじみた頭部と、万力のようなマニピュレーターが特徴。
帝国軍主力M2ドンナーが、折畳式の電磁ブレードを手にし、潜んでいた倉庫を内側から破壊したのだ。
「……こっちに、隠し玉がいたということさ」
麻痺したように動かぬ体で、勝ち誇ってみせる。
このエグザイル・カワハラが……あるいは、イラコがどれだけ強かろうとも、M2にはかなわぬ。
余計な犠牲が出るかもしれないし、それは本意ではないが、イラコ殺しは確実に成るのだ。
「じゃあ、やっぱり誤算じゃねえか」
だが、カワハラの表情は余裕に満ちたもの。
「隠し玉がいるのは、そっちだけじゃないんだぜ?
……アルファードの兄貴、頼んます!」
カワハラはそう言い放つと、人差し指を天に向けたのである。