軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファミリーレストラン『ダスト』にて 後編

「レディ……ゴー!」

ウェイトレスちゃんの一人がストップウォッチをスタートさせ、フェスタの開演となる。

「イラコ、イラコ。

アイス取って」

「おう」

せがまれるまま、エステの取り皿に三種のアイスと、彩りとして少量のホイップクリームとダイスフルーツ類を載せてやる。

無論、少しでもこいつに押し付けるためだ。

「むふー……」

俺の狙いなど知らず、銀髪ツインテールの眼鏡っ子はご満悦なご様子。

さて、制限時間はわずか。

俺の方も、気合を入れてかからねばなるまい。

「さて……」

残り時間は、決して潤沢とはいえない。

ゆえにこそ、まずは冷静に観察する。

おそらくこの勝負……血糖値スパイクまで視野に入れ、食べる順番を決めることが勝利の鍵。

逆に言うならば、食べる順番を間違えてしまえば、その瞬間にゲームセットであった。

ならば、このイラコ・ジーゲル……まずは、ダイスカットされたフルーツ類から攻める。

「ん……ん……」

「おおー……。

イラコ、次から次へとテンポよくフルーツを食べている。

まるで、食事というよりマシーンのよう」

実況と解説のエステさんが告げてくださっているように、俺の動きは手も口も一定そのもの。

イチゴ……バナナ……マンゴー……ロボットダンスじみた動きで、各種のフルーツをチャージし、咀嚼しているのだ。

一体なぜ、序盤をフルーツ類の処理に使うのか?

それはひとえに、顎パワーの配分にある。

デカ盛り攻略において、限られた顎の力をどのように振り分けるかは最重要課題。

多くの場合においては、余力が十分残されている間に、歯応えのあるものを片付けるのが良いとされていた。

それは思うに、顎の疲れに連動して満腹感を高めるよう、俺たちの脳がプログラミングされているから……。

この点に関しては、戦闘時における最後の手段――噛みつきを見越して鍛錬している俺であっても、例外ではないのだ。

また、フルーツ類本来の爽やかな酸味と甘みの効能も、忘れてはならない。

言うなればこれは、前菜。

最初に食欲の高まる食べ物をチョイスすることで、この後に控える重たいスイーツたちへ備えているのであった。

テンポよくいったところで、次に挑むのは……。

「おおー……アイス山盛り」

そう、バニラ、チョコ、イチゴ、抹茶などなど、王道をいくフレーバーのアイスクリーム。

中央部のパンケーキタワーを支えるかのように配置されていたこれらを、取り皿に取り分けていく。

この際、崩れるのを防ぐために、タワーそのものも解体。

これはどちらかというと、デカ盛りメニューにおける定番――隠し玉の有無を確認するためだ。

こちとら、プロのフードファイターじゃないし、ここは娯楽番組の中じゃなければ、ウェブ小説の世界でもないからな。

見ている人間相手に面白リアクションを披露する必要なんざ、どこにも存在しないのである。

「隠し玉は……なしだな」

「イラコ、どちらかというと爆弾解体班」

鋭い眼差しで中に誰も……じゃなかった、何もいないことを確認しつつ、食事再開。

バニラやチョコ味のアイスを、やはり一定のリズムでテンポよく食していく。

――メキリ。

――メキ、メキメキ!

……すると感じられるのが、脳内血管の膨張と血流の増加。

間違いない……このアイスクリームたちに含まれた豊富な糖分が、血糖値を押し上げているのだ。

つーか、アイスクリーム食べて味ではなく脳内血管の動きをレポする日がこようとは、夢にも思わなかった!

――キイイイイイィィィン!

……と、きたきたきた。

きましたよ。

多量の冷たいものを食べた際、必ず起きるアイスクリーム頭痛。

神経の錯覚や血管の膨張を原因として起こるこの事象には――暗殺拳で対応。

――ピキイイイィィン!

顎の裏……喉仏の上あたりを気のこもった親指で突き、神経系を停止。血管の膨張も抑える。

気と衝撃の残滓がノッキング現象を頭蓋の中で引き起こしたが、ひとまず、痛みは消え去った。

「すごい。

スイーツを食べてる最中に暗殺拳を使う人は、初めて見た」

でしょうね。

しょうもない場面でばかり活用している暗殺拳の力で、アイスクリームを食べ進める。

ちなみに、どうしてここでアイスクリームをチョイスするのか、疑問に思う人がいるかもしれない。

あるいは、放置して溶けるのを待った方がよいのではないかと。

その判断――ドツボ。

思い出してほしい。

アイスクリームというのは、豊富な乳脂を含む食べ物だ。

つまり、普段は冷たさで食べやすくなっているが、実際の性質は揚げ物に近しいところがあるということ。

それが溶けるということは、乳脂たっぷりな悪魔のスープが……しかも、各種フレーバーの混じった状態で生み出されるということである。

まず間違いなく、撃沈。

他のスイーツ類全てを食べ終えていたとしても、そこでゲームセットだろう。

そのような愚は、決して犯さない。

このイラコ・ジーゲルに、チョイスミスによる敗北はないと断言しておこう。

ノーコンティニューで……クリアしてやるぜ!

--

「すごい……とうとう最後の一つ。

プリンを残すのみになった」

いつもながら感情の動きが感じられない眼差しを、今日は眼鏡のレンズ越しに向けながらつぶやくエステ。

こいつが言う通り、悪夢のデザートプレート――フルクロスは、ついに積み重なった装備のことごとくを剥ぎ取られ、ラスト一種を残すのみの状態になっていた。

その一種こそ、プリン。

思えば、長く苦しい戦いだった。

脳内に去来するのは、倒してきた 強敵(とも) たちの姿……。

最大の 強敵(とも) 、パンケーキ。

ワッフルもまた、強さの質は似ていようとも非なるところのある 強敵(とも) である。

だが、アイスクリームを後回しにしなかったのと同じ理由で俺を苦しめたのが、パンケーキの頭頂部を彩っていたホイップクリーム。

やはり……脂は重たい。

雲のように実体がないくせして、胃の腑の中で確かな重みを発するのだ。

そう、そうだ。胃が重い。

物理的に――重すぎる!

胃袋というのは、内臓で唯一収縮する器官。

俺のそれは、人生で経験がないほどに膨らんでいた。

なんかもう、緩めたベルトの上でぽっこりと突き出しちゃってるもの。

なんなら、語尾に「ごっちゃんです」とか「ちゃんこ」とか付け足したい気分だ。

気分……そう、ひどく気分がいい。

見上げれば、そこにあるのはキラキラとした光の粒子。

時粒子(タキオン) を実用化し、銀河のどこでもリアルタイムで繋がれるようになってから幾世紀が経っているが、かの粒子を肉眼で観測できたものは存在しない。

だが、もしもそれがかなったならば、このような光景ではないだろうか。

そう、つまり今の俺は―― 刻(とき) を視ている!

「残り時間……一分です!」

「――はっ!?」

ストップウォッチを持ったウェイトレスさんの言葉で、我に返った。

今……意識が完全に飛んでいたぞ。

完全な……完全なる血糖値スパイク。

ドカ食い気絶って、リアルに味わうとこんななのか……。

「あと40秒」

と、いってる間に残り時間はさらに減少。

「イラコ……」

珍しく心配そうに見つめるエステ。お前も挑戦権あるんだし、食ってくんない?

「あと30秒……」

「……っ!

おおっ!」

気合を入れる。

気合を入れるが……。

もはや、まったく顎が言うことを聞かない。

秘孔を突こうとも無駄なくらい、身体が食を拒否している。

ここまでか……。

だが、俺はよくがんばった。

だから、もうゴールしてもいいはずだ。

せーの……ゴー――。

「――イラコ。

がんばれ」

向かい側から発された、感情の起伏に乏しい言葉。

それが、満腹中枢の制止を超え、俺に最後の力を与えた。

そうだ……何を諦めている。

俺はこのフルクロス・プレートを完食して得られる限定フィギュアで、最近なんか機嫌が悪いエステの機嫌を取らなきゃいけないんじゃないか……!

ゆえに、振り絞った正真正銘最後のパワーで――吸い込む。

――ヒュゴウッ!

うおおおおおん! プリンは液体だ!

「んっ……んっ……はあ!」

口内にわずか残っていたプリンも、温存しておいたお冷で飲み干し――ガッツポーズ!

「おおー……」

いつもの無表情で、パチパチと手を叩くエステ。

やがてそれは、店中に伝播していく。

スタンディング……オベーション。

ここは、世界の中心だ。

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

エステのみならず、周囲のお客さんやウェイトレスさんたちが、こぞって俺を祝福する。

それに対する返答は、これしかあるまい。

そう……。

「ありがとう」