軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファミリーレストラン『ダスト』にて 中編

――はははははははははは。

――はははははははははは。

こう、なんと表現すればよいのだろうか?

これが漫画だったのならば、ふきだし内の台詞というよりは、オノマトペの一種として背景に吹き荒れてそうな勢いで賑やかな笑い声が響く中、「そういえば」と思い出す。

「コラボ先のゲーム……『ニワトリ』っていうんだっけ?

一体、どんなゲームなんだ? 面白いなら、俺も遊んでみようかな」

「『ニワトリ』は大人気アイドル育成シミュレーションゲームの外伝作品。

20世紀末期ジャパン、ショーワと呼ばれる年号の終わり際を舞台とし、ボーソー族という走り屋たちの抗争を中心に描かれた異色作。

作中のバトルはアクティブ・ポエム・バトルと呼ばれていて、喧嘩アクションを主体としつつ、どれだけ芸術点の高いポエムワードを構築したかが勝敗に大きく影響してくる。

その、右脳と左脳を同時に扱う爽快感が売り。

ちなみに、バトルで使うポエムワードは、フィールド中にダヴィンチ・コードのように巧妙に仕込まれているので、それを探す探索系の楽しみがある……というより、愛好家の中では、そちらがほぼメインコンテンツと化している」

「はえー、よく分からないけど、かなりのボリュームありそうだなあ」

向かい側の席で、いつも連れ歩いてるテディベアを隣に座らせてやりながらの言葉に、感心したようなそうでもないような相槌を打つ。

まあ、やったことがないゲームの説明を受けた時というのは、おおよそ、そういうもの。

例えば、カジノではごく一般的なカードゲームであるバカラ。

そのルールを未経験者へ説明してやったところで、いまいちティンとこないことだろう。

だが、実際に遊んでみると、あっさり理解できてしまうものだ。

つまりは、そういうこと。

ことゲームという分野において、まーだー遊んでいないゲームは感覚のミステイクを生んでしまうのである。

「お、お待たせしました……」

「そっと置きましょう。

そっと……」

「せーの……」

茶髪をサイドテールにした天真爛漫な少女に、黒髪をうどんのようにさらりと伸ばしたクールそうな少女……。

それから、そのまま下ろせば膝の裏側まできそうな明るい色の茶髪をツインテールにした少女の三人が、一生懸命に運んできたそれを――ゴトン! とテーブルに置いた。

そう、ゴトン! である。

コトン、ではない。

おおよそデザートの配膳ではあり得ぬ効果音を発生させたそれは、それに見合っただけの質量を誇るブツであったのだ。

「なんだこれは……?

なんなんだこれは……?」

見上げれば……そう、見上げれば、という表現がふさわしい。

種々様々な洋系デザートを積み上げたカロリーの城と形容したくなるそれを見た俺は、震えながら尋ねる。

「でへへ〜、上手く運べました」

「こちら、ご予約頂いていたフルクロス・プレートになります」

「挑戦者様お二人で30分以内に完食すると、特別なフィギュアがもらえるそうです!」

さんぶんのいちで分けたとしても、一人当たりの重量はかなりのものであっただろう。

達成感いっぱいのウェイトレスちゃんたちが、それぞれなりの反応を示した。

「わっほーい!

総重量2kg! 総カロリー7500kcalです!

ぜひ、完食してくださいね!」

食べやすいようにという配慮だろう。

茶髪をミドルな長さのポニーテールで結わえた包容力と元気さを感じるウェイトレスさんが、俺とエステに取り皿やカトラリーを供しながら、絶望の数字を告げる。

「えっと……エステさん?」

さっきから……あるいは、最初からか。

かなり様子がおかしくなっている空間の中で、唯一の確かな現実――我が妹へ眼差しを向けた。

「これが、今回のコラボメニューの目玉。

デザートメニューのX欄に存在する洋系スイーツ全てが、一つのプレートに収まったフルクロス・プレート。

説明された通り、挑戦者二名まで。30分以内の完食によって特別なフィギュアがもらえる。

料金は、完食未完食に関わらず普通に取られる」

「へ、へぇー……そうなんだ」

声……というか、全身を動物病院に連れられてきた犬猫のごとく震わせながら、あらためて眼前のプレートを観察した。

まず、中心部。

圧倒的バベルとして屹立し、 チョコレートシロップ(甘い蜜) を 諧謔(かいぎゃく) 的にホイップ山盛りの頭頂部から垂らすキミは――パンケーキ。

下段部が他のスイーツで隠れていて判然としないが、おそらく15段はあるだろう――よく立たせられたな。

もう、これだけでパーフェクトコミュニケーション。

勘違いじゃなく完全にノックアウトされそうだが、まだまだこれは序の口。

パンケーキ周辺にこんもりと積み上げられているのは、様々なフレーバーのアイスクリーム。

緑、ピンク、バニラ色と彩り豊かな様は本来なら目に嬉しいが、見るだけで済まない身としては絶望を感じる。

さらにその周囲……最下段を構成すると共に、中央部のパンケーキ塔やアイスクリームの山が崩れないよう支える役割を演じているのが、ビッグサイズのプリンやワッフル、カットされたフルーツ類。

スイーツが……スイーツがリワードしまくっている。

本来ならご褒美と取るべきそれだが、ここまで極まっていると、やんばいものとしか表現できない。

そうかそうか、X欄とやらのスイーツをひとまとめにすると、これだけの超重量になるのか。

いったい……どのくらいあるんだっ!

X欄ゥウウ!

「え……これ……食わなきゃいけないの?」

誰でもいい。

俺の言葉を、否定してくれ。

その切なる願いと共に周囲を見回すが、正面のエステはもとより、周囲のウェイトレスさんたちから漂うのも圧倒的な――肯定の意思。

「大丈夫。

わたしも手伝う。

今日は、アイスを三つ……食べる!」

普段はクールに輝く氷碧の瞳を、キラキラと輝かせながらぐっと拳を握る本日限定眼鏡っ子のエステさんだ。

ははあ、なるほど。

そりゃ、お前からすればアイス三つも食べるのは大冒険だろうな。

つまり、残りの圧倒的質量とカロリーは俺が引き受けなきゃいけねえってことだけどよォー!

「あいつ……すげえな」

「ああ……あんなん……ビビッときちゃうよ」

周囲の客たち――コラボ先ゲームの影響もあってかヤンキー系が多い――が、俺の方を見ながらささやき合う。

衆目も集めちゃったし、そもそもオーダー通って運ばれてきちゃってるし、もはや逃げ場なし。

ファイティングマイウェイだ……俺!

--

「んふー……」

なんて……完璧な状況。

エステは無意識に鼻息を荒くしながら、チャラついた格好がやけに似合う兄イラコを見上げた。

給糧艦アマテラスなどという常識外れな戦艦を発注したことから分かる通り、イラコは昔からこよなく甘味を愛する男だ。

和菓子に至っては、M2の師であるイゾーロから余技として作り方を教わっており、なんならイラコの認識下で、イゾーロは和菓子の師と化していそうな勢いである。

そんな彼の前に今あるのは、スペシャルメニュー――フルクロス・プレート。

アイス最中を大好物とするイラコであるから、当然、洋スイーツの塊であるこのプレートは、好物てんこ盛り状態。

一つ一つがダイヤモンドのように輝いている 切り札(ジョーカー) を、これでもかと取り揃えた最強のデッキであった。

『他のライバルにはできない庶民的ファミレスデートで、ますます精神的な正妻としての思い出と立場を固めるといい。

ちょうど、エステが好きなゲームとコラボしているお店があるから、兄上を俺が誘導してやるよ』

というのが、六番目の兄であるジョーダンの言。

グッジョブ……!

心の中で親指を立て、遥か帝都星の彼へグッドサインを送る――届きますように。

しかも、おそらくジョーダンはそこまで知らなかっただろうが、このように、イラコも見たことない顔で大喜びしているスペシャルメニューがあり……。

あらゆる面で人知を超えているイラコならば容易く時間内完食するだろうその先には、景品のスペシャルフィギュアが待っているのだ。

まさに、イラコによし、エステによしのシチュエーション。

つまり、この状況を総括するとこのようになる。

(よし……楽しく話せた!)