作品タイトル不明
ファミリーレストラン『ダスト』にて 前編
ファミリーレストラン。
20世紀から21世紀にかけて、欧米のダイナー文化などを参考にジャパンで独自発展した飲食チェーンの形式である。
特徴的なのは、オールレンジといって過言ではないほど、満たせるニーズが幅広いこと。
ここには、飲食店へ求める役割の全てがある。
人々はこう言う。
「安値で腹を満たしたいのかい?」
「美味いハンバーグが食べたいのかい?」
「ドリンクバーがいいのかい……?」
「ドリンクバーならファミレスだな」
「だったらファミレスだ」
「ファミレスへ行くといい」
「ナンデモアリでダベリてェんだろ?」
「ファミレスだ」
まさに――食の 黄金郷(エルドラド) 。
老若男女? 問いません。
和洋中? 当然揃います。
アルコール? どんとこい。
人類が求める食の全てが、ここにある。
それも、驚きの低価格で、だ。
強いていうならばヨーロッパ系の文化が根強いこの銀河帝国において、ジャパン発であるこのチェーン形式が根強いシェアを誇っているのも、うなずける話であった。
いや、それどころの話ではない。
世はまさに、ファミリーレストラン――宇宙戦国時代。
種々様々なファミリーレストランチェーンが、それぞれの独自色を出しながら各方面でのコスト削減にいそしみ、外食客という限られたパイを奪い合っているのだ。
『ダスト』もまた、そんなファミリーレストランチェーンの一つ。
創業は西暦2016年。
クロスボーンホールディングス傘下のファミリーレストランチェーンであり、ハンバーグ類など基本は押さえつつも、多国籍かつやや混沌とした豊富なメニューを取り揃えているのが特徴。
ばかりか、チェーンそのものの方針としてミキシングビルドを掲げており、タコライスやバインミー、チキンティッカマサラなど、いくつもの食文化が交わることで生み出された多国籍料理や、同種の思想で考案した創作料理を強く打ち出していた。
俺が今日……通信越しとはいえ久しぶりに会話した 第六皇子(ジョーダン) の入れ知恵によりエステを連れてきたのは、その惑星レク首都支店だったのである。
「わーい、ファミレス。
わたし、とってもうれしいな」
表情筋を一ミリたりとも動かすことがないまま、テディベアを掲げるような万歳ポーズとなるエステ。
なるほど、これは間違いない……。
エステは――とっても喜んでいる!
ジョーダンのアドバイスを受けてここへ連れてきたのは、大正解だったということだ。
ありがとう! ジョーダン!
わっはっはっはっはっは!
さておき、昼間は夏のビーチといえる気候になる惑星レクであるから、今のエステもそれに相応しい格好へ着替えていた。
すなわち――純白のワンピース。
リボンなど、飾り気と呼べるものは一切なく、ワンピースという衣類の種を告げられて万人が思い浮かべるだろうシンプルな構造。
やや薄めの生地は、日差しを浴びると着用者であるエステの肢体をうっすらと影にして映し出し……それが、ひどく幻想的で可憐な印象を与える。
いつも通り銀髪ツインテールにした頭には、麦わら帽子を被っており……。
変装のためにピンク色のおしゃれ眼鏡を着用した結果、いつもとはまるで異なる印象の姿となっていた。
「せっかくの休日におしゃれをしてのファミレスデート。
着ている服を褒めてくれたら、もっと嬉しいな」
じっ……と。
万歳ポーズのまま、レンズ越しに氷碧の瞳を向けてきたエステが、抑揚のない声で告げる。
おっと、こりゃいけない。
服は随分と前に俺が購入してやった代物であるが、それはそれとして、かわいらしい姿になったのならば、きちんと褒めるべきだ。
エステも、年頃。
そうしてやってこそ、人並みにファッションへの関心が育まれることであろう。
だから、少しばかりの苦笑いを浮かべながらも、素直な感想を漏らす。
「ああ、うちのお姫様は、世界一かわいいぜ。
今のお前を見たら、おとぎの世界からやってきた妖精でも裸足で逃げ出すだろうさ。
まあ、妖精なんて元から裸足かもしれないけど!」
少しばかり、おどけた様子を交えながらの言葉。
「むふー……」
だが、我が親愛なる妹が、ことのほか上機嫌でない胸を張ってくれているのは、そこに真実が込められているからであろう。
実際、こいつはかわいい。
ただ、それを打ち消して余りあるくらい、ふてぶてしいというだけだ。
「イラコも、完璧にチャラチャラしたあんちゃん。
誰がどこから見ても、立派な遊び人」
――チキリ。
……と、おしゃれ眼鏡をいじりながら、エステが俺の格好を表現する。
「ふふん。
まあ、この格好を見て皇子様だと思うやつはいないわなあ」
こればかりはいつも通りの短い縮れ毛をかきながら、ちょっとポーズを取ってみせた。
今日の俺の格好は、アロハシャツにハーフパンツを合わせ、足元はビーチサンダル。
おまけに、サングラスのつるをシャツの胸元でひっかけ、ぶら下げているというもの。
……パーフェクト。
パーフェクトに、遊び人の格好だ。
「はい、イラコ。
今日のお小遣い」
「へへ、あんがとよ。
今日は必ず取り返してみせるからよ、今日こそはよ」
財布から紙幣を取り出す仕草を見せた我が妹に、ノリノリで付き合う。
そう、俺は果敢なる スマパチ打ち(ファイター) 。
今日も今日とて、21世紀ジャパンのキンシチョーを舞台にした凸凹女子高生コンビによるガンアクションの台を回しに行くぜ。
頼むぞ……! 髪型に親近感を抱ける悪役の人……!
今日こそバランスを取ってくれ……!
「(ひそ)見て、奥さん。
あちらのお方」
「(ひそ)ええ、子供からお金をたかってパチンコ打ちに行こうとしていますわ」
……俺の鋭敏な聴覚が周囲にいるマダム方のささやき声を拾ったため、バカな小芝居はやめてサングラスを装着する。
これが若さ、だな。
「小芝居も堪能したことだし、お店に入ろ」
「そうだな。
お目当てあってのことだし」
右手にテディベアを抱きしめ、残る左手を差し出すエステ。
その小さな……それでいて、ドキリとするくらいひやりとした手を掴んで、白基調のレンガハウス然とした店に足を踏み入れた。
現在の時刻は、15時に差しかかろうかというところ。
注文するメニュー含め、あらかじめモバイルで予約を済ませておいたので、すぐに中へと通される。
「ここの制服は、ゲームの中でも完全再現されている。
撮影禁止でなければ、写真を撮りたいくらい」
店内にいるウェイトレスさんは、エステとさほど変わらないような年齢の子から、ミドル&ハイティーン層を中心としており……。
着用している制服は、なるほど可憐のひと言。
ピンク色を基調とし、ふんだんにフリル飾りを取り入れたややクラシカルなデザインで、動きやすそうな布地を使っていることもあり、なんならばステージで歌ったり踊ったりしても映えそうな代物であった。
「確かに、かわいい制服だな。
エステが遊んでるっていうゲームとコラボするのも、うなずけるぜ」
――はははははははははは。
――はははははははははは。
ちょうどお茶時ということもあってか、店内は客たちの賑やかな笑い声で満ちている。
そんな中、プリティーなウェイトレスさんたちを存分に堪能しながら、俺とエステは案内された席についた。
「こういう時間を、アイドルタイムって言うんだっけ?
みんな、デザート系を注文してるな」
他の卓を見回してみると、この時間にふさわしく、パンケーキやパフェ類などが多く出回っている。
というか、満席に近い状態であることから、暇な時間帯を意味するアイドルタイムという言葉はどうやら相応しくないと思えたが、店側もこれを予想してシフト強化しているようなので、問題なく捌けているようだった。
「ん……今、このお店は大人気ゲーム『ニワトリ』シリーズとコラボしていて、デザートメニューを食べると特別なグッズがオマケでついてくる。
だから、この時間でも繁盛しているし、一般的なファミレスでデザートメニューの調理に回ることが多いウェイトレスのシフトを特に強化していると思われる」
だ、そうである。
そして、その事実を知った上でこのファミレスデートを提案してきたのが――ジョーダン。
あいつ、大麻に手を出そうとしたところでシメて以来、俺を避けている感じだったんだけど、ひょっとしたら、嫌っていたわけではないのかもしれない。
さておき。
「はえー、そうなのか。
席の予約は俺がやったけど、オーダーの予約はお前に任せたからな。
どんなデザートがくるのか、楽しみだ」
サッと出されたお冷を飲みながら、のんきな感想を漏らす。
そして、俺は聞くことになる。
このアイドルタイムにおいて、俺の体が上げるSOSの声を……!