軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約(の申し込み)発表

まったくもっておかしな話ではあるが、人類というやつは20世紀頃からこっち、ゴージャスな空間といえば、巨大なシャンデリアが天井から光を放ち、黄金の輝きで満たされているルネッサンス調な空間を想起するようになっている。

時は、人類が銀河系に進出してから、九世紀以上を重ねた銀河歴961年であるにもかかわらず、だ。

なんとも、奇妙なこと。

だって、ルネッサンスや、あるいはバロックなんていうのは、14世紀から17世紀頃にかけての文化だろう?

今現在は当然として、そういった種の調度品などが、当たり前のようにゴージャスさの象徴とされていたという20世紀においても、軽く三百年前の文化だ。

飛行機で空を飛び、インターネットで世界中どこでもリアルタイムのやり取りをできるようになっていた人々が……。

あるいは、M2という汎用の人型機動兵器を乗り回し、タキオンネットによって銀河のどこでも繋がれる当代の人間が、そんな大昔の遺物にかくも心惹かれるというのは、不思議を通り越して不気味とすら思える事象であった。

だが、考えてもみれば、人間というのも単純な生き物。

ホモ・サピエンスとなってからこっち、随分と時間が経過しているにも関わらず、いまだ次のステージ――テレパシーやサイコキネシスの発現――には至っていない。

ならば、その美的価値観というものは、どれだけ時を経ようともそう変化するものではなく……。

偉大な祖先たちが、救世主が降誕してから1700年程度しか過ぎぬ間に、文化として完成・熟成させてしまったのだというのは、納得のいく話である。

つまり、俺が何を言いたいのかといえば、惑星レクの領主たるコリン・シュワード辺境伯が用意したスペースクルーザーのパーティー会場というのは、生成AIに「ゴージャスなパーティー会場のイラスト出して」とでも命じれば、ポン出ししてきそうなほどに典型的なルネッサンス空間であり……。

そこでシレーネさんをエスコートしながら現れた俺は、やはりポン出ししたAIイラストのごとく典型的な王子様スタイルなのであった。

では、どんな服装なのかというと、招待されている帝国貴族たちと同様の中世ヨーロッパを彷彿とさせる宮廷服。

カラーリングは黒で、各所に施された金の飾り糸や、同じく金の房を付けられた肩章が映えている。

加えて、サッシュと呼ばれるあの斜め掛けする赤い布を上からまとい、腰には儀礼用のサーベルまで下げていた。

文句なしの完全装備。俺が……俺こそが王子様だと言わんばかりのスタイルである。実際、皇子だし。

ただ一つ、難点があるとすれば、いつもながら縮れに縮れているこの黒いショートヘア。

しっかり濡らして下準備しようとすれば、とうに死滅した細胞の分際で高速振動したかのごとく熱を帯び、急速乾燥。

ヘアアイロンを入れようとすると、いつの間にか絡んできた髪に締め付けられ、破壊されてしまう。

最終的に、呼び寄せられた理容師さんは、主に救いを求めながら逃げ去ってしまったのだ。

「おお……イラコ殿下だ……」

「今日も……その……なんというか縮れてるな……」

「バカ、小声でもそんなこと言うもんじゃない」

「いや、だって、普通は整えるものなんじゃないか?」

「どうしても譲れないスタイルなんだろ、きっと」

うん、バッチリ聞こえててすまない。耳はいい方なんだ。

んで、これはどうにかしようとして、どうにもならなかっただけだからな?

だから、我が髪よ……勝ち誇ったかのように縮れを増すんじゃない!

だが、彼らの注目はすぐに別の人物へと移る。

他でもない……。

「それにしても……」

「ああ……」

「あれが、ジンバニアの……」

「正確には、王立連合を構成する五王国の一つ――ヨーギル王国の第一王女だ」

俺の隣にいる人物――着飾ったシレーネさんにだ。

彼らの視線が彼女に吸い寄せられるのは、致し方があるまい。

もちろん、俺と対照的になるようチョイスされた白いドレスの胸元が、ヴァリアブルにブーストしそうなほど勢いよく突き出しており、しかも、一歩歩くごとにその質量をゆさりと……それでいてぷるりと感じさせるから、というのもあるだろう。

ただ、これはそれ以上の……ごく単純な話。

今の彼女は、あまりに美しすぎた。

亜麻色の髪はアップで結わえられていて、俺より1コ下の……普段は女性というより少女という印象の強い彼女に、はっきりと成熟したオーラを放たせている。

モデルのごとく整った造作の顔には、やはりモデルのように鮮やかなメイクが加えられているのだが……なんと言えばいいんだろうな?

俺は今まで、本物の化粧というものを知らなかったのかもしれない。

もちろん、ある年頃を境にディートは薄化粧を覚え始めたし、現在でもナチュラルメイクは欠かしていない。

また、あまり化粧っ気のないマミヤちゃんにしても、知識のない俺がそうと感じているだけで、相応のケアはしている雰囲気があった。

ただ、身近な女性の例として出した両者に共通しているのは、素材の良さを引き出すためのお化粧であるということ。

一見しただけで「化粧してます!」と分かるような化粧品の使い方は、していないというところである。

今のシレーネさんは、違う。

誰がどこから見ても、化粧をしていると分かる程度には完璧に施されたメイク。

ややもすれば、厚みや層すら感じてしまいそうな化粧具合。

それが、彼女に備わったやわらかさを、一切損なっていない。

その上で、元より素晴らしかった美貌の「美」要素を、さらなるステージへと押し上げることに成功しているのだ。

総じて、今の彼女は――美の化身。

銀河皇帝たる親父殿の座乗艦にして銀河帝国の旗艦たる巨大戦艦には、アフロディテの名が与えられているが……。

今の彼女こそ、愛と美を司る女神の名がふさわしい。

要約すると、今宵のシレーネ・ヨーギルという女性は、およそ男性が女性に求める美的な価値というものの全てを内包しているのである。

で、そんな彼女の手を肘に乗せながら、努めてゆっくりとパーティー会場を歩む俺。

お口は無理矢理に開き、ホワイトニングした歯が見える角度をキープしていた。

対して、俺に手を引かれるシレーネさんの方は、緊張した面持ち。

そりゃ、そうだ。

敵国の捕虜となり、こんな風に着飾らされた上で、俺と共に皆へお披露目されているんだもの。

自分が敵対国家の……ひいてはそこの庶子の所有物か、あるいはトロフィーとされているかのような扱い。

誇り高きジンバニア王立連合の騎士としては、今すぐにでも殺せ! てな屈辱である。

だというのに、肘部分の生地をシワにならない程度の力で掴む手に込められた感情と熱量は、どうも別種のものと思えてならなかった。

と、そんな風に思いながら歩んでいると、ディートとエステの姉妹が目に入る。

それぞれパーティー用の正装に着飾った皇女姉妹は、ノンアルカクテルとオレンジジュースをクピクピやっており、こう……なんと言えばいいんだろうな?

しらー……としたジト目を俺に向けていた。

そ……そんな目で見るな。

断固として言っておくが、これは俺が望んだ結末ではない。

こっちは負けるつもり満々だったのに、ペーター兄さんたちの機体が勝手に壊れたせいなんだから!

さておき、そうこうしている間に、俺たちは終点――親父殿の立体映像前へと到達する。

こういう時は、会場内のどこからでも見えるよう、ちょっぴり高めの位置に投影することも多いが、69歳の今なお肉体的な衰えをほとんど見せぬ長身マッチョな彼にそれは必要ない。

身長187cm。筋骨隆々とした肉体が立体映像内でも、その宮廷服を内から押し上げる。

長く伸ばした白髪と、カイゼル型に整えたおヒゲが特徴の銀河皇帝は、こう宣言したのであった。

『ここにいる者らへ、銀河皇帝の名において告げる。

ここにおられるのは、ジンバニア王立連合を構成する五王国の一つ――ヨーギル王国の第一王女シレーネ殿下だ。

余は、我が子イラコと彼女との婚約を、かの国へと申し込む』

えー……そういうわけでですね。

イラコ・ジーゲル君(20)。

人生の墓場へと片足突っ込みました。