軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モアの想い

「っ! はぁ……っ!?」

ビクンと跳ねるように体が痙攣し、モアは勢いよく上半身を起こす。自分の胸に手を当てて辺りを見回し、ハイラムの顔が近くにあって驚いた。

「あ、え……?」

そして、皆が自分を見ていることに気が付いた。徐々に自分が負けたことを理解していき、目尻に涙が溢れ出す。

これは、号泣してしまう。そう思って焦ったが、すぐに部下の兵たちがモアの下へ集まってきた。

「隊長、お疲れさまでした」

「凄かったですよ!」

「次やったら隊長が勝てますから!」

モアの周りに集まって皆がフォローの言葉を口にすると、モアは少し驚きつつも何とか涙を我慢できた。

「ご、ごめんね……私、全力でやったんだけど……」

涙声で皆に謝罪するモア。その光景を見て、フェルターが腕を組んだまま唸る。

「……以前より強くなっているな」

フェルターがそう口にすると、チーフが首を左右に振った。

「元々、これくらいのことはできましたよ。フェルター様と戦う時は手加減をしていただけです」

「……面白くない話だ」

不機嫌そうに鼻から息を吐くフェルター。それにチーフは笑みを浮かべて肩を竦める。

「今なら、あの状態のモア隊長と戦えると思います。フェルター様が強くなったということですよ」

そんなチーフの言葉に、フェルターは何も答えずに深く息を吐いた。そして、チーフを連れてモアの方へ歩いて行く。部下に囲まれて優しい言葉をかけてもらい笑顔を取り戻したモアに、フェルターが笑みを浮かべて口を開いた。

「……流石の実力だな、モア。だが、アオイにはまだまだ勝てん。なにせ、爺やエルフの王に勝てるほどの実力者だ。俺も、いずれはそれだけの力を……」

フェルターなりに元気づけようと思って声を掛けたのだろうが、どうやら逆効果だったらしい。フェルターの言葉を聞いた瞬間、モアは再び涙が溢れ出してしまった。フェルターから視線を逸らして嗚咽するモア。それに、あのフェルターも何も言えなくなってしまう。

珍しく体が小さく見えるほど動揺するフェルター。対して、モアの部下である兵たちは苦笑交じりに自らの隊長の涙を見守る。

そんな平和な光景を眺めていると、グレンとオーウェンが歩いてきた。

「流石じゃったのう、アオイ君! それで、あの魔術はなんじゃろうなぁ」

目を輝かせたグレンの言葉に、オーウェンが自分の顎を撫でながら頷く。

「……風で周囲を守りつつ、攻撃にも転換できる特殊な魔術だな。どう制御しているのか」

不思議そうに声を上げて泣くモアを眺める二人に、自分なりの考えを口にする。

「恐らく、限界まで風の道を狭めて圧縮している結果でしょう。ただ、自分の体の動きに合わせて風を制御しないといけないのは変わらないので、下手なやり方をすると自分が傷つくような危険な魔術でもあります」

「ふむ、確かにな」

「ほっほう。それは面白い魔術じゃのう。難しいのは確かじゃが、守りつつ攻撃にも使え、更に近距離と遠距離攻撃を連続で可能にしているというのは凄いことじゃのう」

と、グレンとオーウェンほどの魔術師であっても、モアの魔術は賞賛するに値する出来のようだ。いや、難易度に相応しいだけの高性能な魔術だったので当然か。

「内容は全く違いますが、魔術の方向性に関してはラムゼイさんの 黄金の獅子(アスラーン) に似た魔術でしたね」

「ほう……確かに、求める結果は近いのか? 面白いアプローチだな。目標は同じだが、別の方法でそこに至ろうとしたのか」

私の考察についてオーウェンが面白そうにそう答えた。それを聞き、フェルターが眉根を寄せて振り返る。

「……爺の魔術、だと?」

ケアン侯爵家の固有魔術ともいえる魔術の名が聞こえ、フェルターの眉間に皺が寄る。それを見て、モアが慌てたように口を開いた。

「あ、あ、フェルター様! その、ラムゼイ様の魔術を真似したのは確かですが、まったく違うもので……! 決して、ケアン侯爵家の象徴を軽んじたわけでは……!」

モアが不安そうにそんなことを言うと、フェルターは真剣な顔でモアを見下ろした。そして、顔を強張らせるモアに、低い声で一言告げる。

「……爺に勝てるのか?」

「え?」

予想外の言葉に生返事を発するモア。それを真っすぐに見返しつつ、フェルターは膝を折って地面に座り込んだままのモアと視線の高さを合わせた。

「その魔術、必ず極めろ。爺に一泡吹かせてやるぞ」

フェルターがそう告げると、モアはハッとした顔になり、何度も頷く。

「は、はい! 必ず!」

モアがそう答えると、フェルターは力強い笑みを浮かべて拳を前に出した。

「俺も爺を正面から叩き潰せるように強くなるぞ」

「も、勿論です! フェルター様は必ず! 必ず最も強い戦士になられる方だと思っております! い、一緒に頑張りましょう!」

フェルターの言葉と拳の意味を理解して、モアは笑顔で拳を合わせた。モアの心から嬉しそうな顔を見て、私はふとある疑念を持った。

「……もしかして、モアさんはフェルターさんのことを?」

そう呟いた時、傍まで来ていたシェンリーとエライザが目を丸くして口を開く。

「……え?」

「もしかして、今気が付きました?」

そんな二人の言葉に、私は思わず絶句してしまうのだった。