作品タイトル不明
皆で侯爵家に
モアも泣き止み、改めて出発となったのだが、ここで予想外の事態となる。
馬車を準備し、さらに馬に乗ったチーフ達を連れて、ローブを羽織ったモアが真剣な顔で口を開いた。
「それでは、我々がケアン侯爵家の居城までお送りいたします。皆様、安心して付いてきてください」
モアからそう言われて、オーウェンと思わず顔を見合わせる。空を飛んでいこうと思っていたのだが、どうやら地上を移動するということだろうか。いや、それが普通なのだが、遅くなってしまいそうで困る。
「……あの、モアさん」
「あ、はい! なんでしょうか?」
声を掛けると、モアは笑顔で振り返った。屈託のないその笑顔に思わず怯むが、ここは言わざるを得ない。
「その、我々は空を飛んでいきますので、護衛は不要かと……」
「え? 空、ですか?」
キョトンとするモア。それに頷き返し、オーウェンと一緒に飛翔魔術を使って馬車を浮かせた。空中からモアを見下ろし、答える。
「空から移動するほうが早いので……」
「そ、空からって……!? えぇ……!?」
こちらを見上げながら驚愕してくるモア。他の兵たちも目を見開いて驚愕していた。あの感情を出さないチーフも驚いたように目を丸くしている。
そんな面々を見下ろし、別れの挨拶を口にする。
「それでは、申し訳ありませんが我々は……」
「ちょ、ちょっとお待ちを!」
さっそく出発しようとしたところ、地上からモアが大きな声を上げてきた。
「はい? 何でしょうか?」
先ほどのモアの言葉を繰り返すような返事をしてしまったが、モアは気にせずにその場でジャンプしながら答える。
「あ、あの! 我々もご一緒しても良いでしょうか!? その、私が一緒に行けば、多分すぐにラムゼイ様にお会いすることが出来るかと……!」
と、モアは提案してきた。なるほど。確かに、国境警備隊の隊長が直接城主に報告があると言えば最優先で謁見の機会を与えてもらえそうだ。
「なるほど。それでは、モアさんだけ一緒に行きますか?」
「……俺も連れていってもらいたい」
聞き返すと、チーフが真剣な顔でそう言った。それには思わず自分の方が心配になってしまう。
「え? 隊長と副隊長が同時に抜けて良いんですか? 砦を守る任務があると思うのですが」
そう尋ねると、モアとチーフは顔を見合わせる。
「……どうしましょう?」
「数日であれば」
「大丈夫そうです!」
一瞬不安そうになったものの、チーフが問題ないと伝えた途端、モアは笑顔でそんな返事をした。
「……私の方が不安になるのですが」
小さな声でそう言って黒い馬車の方を見ると、窓からフェルターが顔を出して街道の向こうを指差した。
「馬車で一日半程度の距離だ。何かあれば早馬で知らせるだろう」
「え? そんなに近いんですか?」
「……俺の家は特殊だからな」
フェルターの言葉に思わず質問するが、曖昧な返事をされて終わった。通常であれば、戦争の場になりそうな地点から、領主の居城がある場所は距離が離れているものだ。普通は城塞都市や砦が幾つもあり、その防衛ラインを突破しないと居城まで攻め込めないようにしているものだ。
だが、どうやらケアン侯爵家の領地では侯爵の居城がある街が国境付近にあるらしい。
「……ラムゼイさんらしいといえばらしいというか……」
そう呟くと、フェルターが不満そうに唸った。
「……いや、俺の曽祖父が居城を移しただけだ。毎回他国と争う度に最前線に出ていたから、一番近い城塞都市を改修したようだな」
「なるほど。ケアン侯爵家らしい、と言い換えましょう」
フェルターの言葉に思わずそう答えたのだが、フェルターの眉間に皺が寄った。
「……そう言われると俺も含まれてしまうから腹立たしい」
「え?」
フェルターの不満げに言われた言葉に思わず目を丸くしてしまう。傍から見たらラムゼイと同じく、フェルターも根っからの武人だ。戦いを一番に考えている辺り、ケアン侯爵家の血筋を強く感じてしまう。だが、フェルターとしては同様に思われたくないらしい。複雑だ。
「……とりあえず、モアさんとチーフさんを馬車に乗せましょう」
フェルターの不服そうな顔から視線を地上へ移し、そう呟く。地上ではモアとチーフが砦に残る部下たちに色々と指示をしているようだった。
それを見て、御者席に乗っていたオーウェンが面倒くさそうに飛翔魔術を行使する。
「え!?」
「む!?」
驚くモアとチーフを強引に空中へ引っ張り上げるオーウェンに、流石に乱暴だろうと非難の目を向けた。
「早くせねば日が暮れるぞ」
「それはそうかもしれませんが……」
そんなやり取りをしている間に、モアはこちらの馬車の中に、チーフは黒い馬車の中へ押し込まれた。
本当にオーウェンは強引である。こうはならないようにしようと改めて思った。