軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モアとの闘い

風が微かに吹き、背の低い草を揺らしている。その中で、私とモアが向かい合うように立っていた。私たちの周りを囲むように国境警備隊の兵たちが円を作っており、フェルターとチーフもその中に加わっていた。ちなみに、グレン達は街道から眺めている。

モアは険しい顔でこちらを睨んできており、やる気は十分である。ちなみにフェルターとチーフは、なんともいえない複雑な顔で揃って腕を組んで立っていた。兄弟みたいで面白い。

「……アオイさん。勝負を受けていただき、ありがとうございます」

ふと、モアがそんなことを言って一礼した。それに片手を挙げて答える。

「いえ、構いません」

そう答えると、モアは杖を構えて顎を引いた。

「……すごい自信ですね。でも、私も負けるつもりはありません。全力で、挑ませていただきます!」

モアはそれだけ言って、チーフに目を向ける。その視線を受け、チーフは軽く頷いて手を挙げた。

「……これよりモア隊長とアオイ殿の試合を始める。あくまで試合だ。お互い、相手を殺してしまうことのないように留意してくれ。それでは、試合開始だ」

静かな宣言の元、同時に動き出す。モアは詠唱を始め、私はその詠唱からどういった魔術を発動させようとしているのか考察する。そして、私は素直にモアの魔術の構成に驚いた。

ただ無駄のない、高度な魔術というだけではない。その魔術の発想だ。

「…… 風神の加護(ヴェントクォーレ) 」

詠唱が終わり、魔術名をトリガーに魔術が行使される。モアが魔術名を発してすぐに身にまとっていたローブを投げ捨てた。その瞬間、周囲の風がモアに集まるように吹き、どんどん収束していく。触れるだけで吹き飛ばされそうな強い風がモアの体を包んでいるのに、本人には影響を与えていない。

それは風の流れる方向と順路が計算され尽くしているからだ。モアを守るように吹き荒れる高密度の暴風。その風は鎧にもなり、武器にもなる。

「いきます!」

風の鎧をまとったモアは、地を蹴って走り出した。緻密な魔力コントロールで風の力を足に集中し、爆発的な加速をみせる。まさに、風のような速度でモアは接近してきた。そして、杖を左手に、右手を後ろに引いて跳び上がる。正拳突きのような格好だ。

攻撃の態勢に入った。

一目で分かるその姿に、即座に魔術を発動する。

「 身体強化(リーンフォースメント) 」

口にした瞬間、身体がふわりと軽くなるような感覚を覚え、恐ろしい勢いで迫るモアの攻撃を後方に跳躍することで回避することができた。

直後、激しい地響きと共に地面が割れる。モアの小さな拳が地面に触れたのだ。通常、面積の小さなモアの拳程度では地面に穴を開けるような跡が出来るはずだが、凝縮した風をまとった拳は速度と威力だけでなく、周囲に影響を与える衝撃も相当なものだったようだ。

結果、モアを中心に直径五メートル近くの地面が放射線状に地割れのようなヒビを作ることとなった。

「すごい破壊力ですね」

そう告げると、モアは目を細めて構えなおす。素直に褒めたのだが、モアからの敵意が増したような気がした。これは、真面目にやっていないと思われているかもしれない。

「……それでは、こちらからもいきますね。 黒刀(クロヌリノタチ) 」

軽く息を吐いて魔術を行使した。直後、地面から真っ黒な刀が現れ、私の手の内に収まる。

「やぁ!」

剣を手にした私を見て、攻める隙を与えないかのようにモアが走ってきた。そして、左手に持っていた杖を突き出してくる。風の流れをコントロールして、まるで矢を飛ばすように風の塊が飛来した。回転を加えた風の槍のような塊だ。体で受ければ一撃で貫通してしまうかもしれない。

だが、私の黒刀は硬さに特化した代物だ。力の向かうベクトルさえ注意すれば、なんなく風の槍を逸らすことができる。

しかし、その行動を読んでいたようにモアは風の槍の後に続いていた。再び拳を構えて走り込んできたモアに対して、あえて斜め前に進むように素早く移動し、振り返りざまに剣を横薙ぎに振るう。

一手で背後を取り、二手目で攻撃を行う戦法だ。直線的な攻撃にのみ有効な行動だが、モアの攻撃方法には間違いなく効果的だろう。

予想通り、モアは自分に迫る黒刀の存在にぎりぎりまで気が付かなかった。振り向いたと同時に目の前に刀があり、モアはギョッとしながらも杖を前に出して防御しようとする。しかし、元々刃物ではなく打撃武器として使うつもりだった為、刀の峰を思い切り叩きつけた。

身体強化をした状態で、重い黒刀を大振りに振ったのだ。風の鎧があったとしてもモアは勢いよく弾き飛ばされることとなる。むしろ、半端な威力ではこちらが吹き飛ばされるのだから仕方がないことだが、少しやり過ぎたかもしれない。

モアは地面に叩きつけられるように弾き飛ばされてしまった。衝撃で集中力が途切れてしまったのか、地面を転がったところで風の魔術は解除されてしまう。大の字になって気を失ったモアの姿に、国境警備隊の兵たちが騒然となる。

風の鎧が消失したタイミング的に大丈夫とは思ったが、ハイラムに声を掛ける。

「ハイラムさん。モアさんを起こしてあげてください」

「え? また? いや、良いんだけどさ……」

街道から見ていたハイラムは突然呼ばれて驚きつつ、兵たちの間をすり抜けて歩いてきた。

モアが治療を受けている様子を確認してから、チーフへと目を向ける。

「……勝負あり、だな。信じられないことだが、アオイ殿の勝ちだ」

モアの勝利を確信していたのか。チーフは苦虫を噛み潰したような顔でそう言ったのだった。