軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空の旅

オーウェンと私の二人で飛翔の魔術を使い、馬車を浮かせて一路、ブッシュミルズ皇国へ向かう。仕方のないことだが、ロックスの用意した白馬は置いてきたので、シェンリーがすごく残念そうだった。

御者席にいると、隣を飛ぶ黒い馬車からロックスが顔を出す。

「どうして、俺の馬車が女子専用に……」

「仕方がないよね?」

ロックスの呟きに、ハイラムが一言突っ込んだ。それに反論できずに項垂れるロックス。それに苦笑しつつ、自分が乗る白い馬車を振り返る。

黒い馬車も良いが、確かに白い馬車の作りや装飾は見事であり、品があった。王族が乗る馬車として作られただけあって、中も見事なものである。座面にいたっては毛皮まで敷かれているくらいだ。自分の用意した黒い馬車に乗れないのは残念だったが、この白い馬車も乗り心地は最高である。

ちなみに、男性が六人、女性が三人ということで大きな馬車に男性陣を詰め込んだ感じだったが、ロックスはどうやら白い馬車に乗りたかったようだ。お陰でこちらは三人でかなり大きな馬車を使えて快適である。

そんなことを考えていると、隣の馬車の御者席から声が聞こえてきた。

「疑似精霊を出しておく必要はないだろう」

「様式美です」

「……無駄な気がするぞ」

そう言って、黒い馬車を操るオーウェンが、自らの前で空中を走るように移動する水の疑似精霊を眺めた。氷の疑似精霊もキラキラと光を反射して綺麗だったが、水の疑似精霊も透明感があって美しいと思う。

「……馬にこだわる必要もないんじゃないか?」

「それも様式美ですよ」

「むぅ」

色々と意見を言ってくるが、様式美の一つで黙るオーウェンが面白い。まぁ、自分でもその辺りを気にしていないことを理解しているのだろう。学院に来て考え方が変わった一番大きなポイントかもしれない。

オーウェンは山奥で一人で暮らしていたから、どこまでも効率を重視する生活をしていた。住居や衣服もそうだが、食事についても生存に問題なければ気にしないようなレベルである。

それが、学院で多くの教員や生徒に触れることになり、少しずつ変化してきたように思えた。

最初は講義を受ける決まりや試験の曖昧さに文句を言っていたが、徐々に多数の生徒を管理する為に必要なことであると理解していった。そういった大きなことだけでなく、各国の王侯貴族が同じ空間にいることで気にすべき文化や発言などにも理解を示し、少しずつだが気を付けるようになってきたのだ。

過去のオーウェンを知っている身としては衝撃的なことである。あんなに有用性を説いても長時間の食事を嫌がっていたオーウェンが、少しの間なら待てるようになってきたのだ。

それも、ハイラムに癒しの魔術を教えるついで口にした栄養の重要性を聞いてからである。

糖質、脂質、たんぱく質だけでなく、ビタミンなどの栄養についても何となくで教えておいた。正直、あまり詳しくはないが、それでもオーウェン達よりは知識があるつもりだ。そんな私の言葉だからか、オーウェンは素直に聞いてくれた。

ちなみに、ブッシュミルズ皇国までの旅路はそれなりに不便なことを覚悟していたのだが、今回はオーウェンが一緒ということでかなり楽が出来た。

なにせ、二人いれば土の魔術で大きな拠点を作ることもできるのだ。夜の就寝用の拠点だけでなく、昼食の時もゆっくり休めるように簡易的な家を建てることが出来た。食事はエライザとシェンリーが手伝ってくれるし、疲れたらグレンも飛翔魔術で馬車を飛ばしてくれる。

そういった環境もあり、今回の移動は快適かつ迅速に行うことが出来たと思う。そんな優雅な旅路もそろそろ終了である。

「……あそこが国境だ。地上に降りられるか?」

フェルターにそう言われて、私とオーウェンは二つ返事で地上へと降りた。街道のど真ん中に降り立つと、数人だけ街道を歩いていた行商人一行が目を丸くしていた。

「お、おい」

「今、空から……」

「な、なんだ!? とんでもない馬だぞ……!?」

困惑する行商人たちに片手を振り、一礼しておく。

「すみません。お騒がせしました」

「やはり、馬で驚かれているじゃないか」

「いえ、空から降りてきたからですよ」

「馬車の見た目も威圧的だぞ」

「そうでしょうか」

行商人一行に謝罪の言葉を口にしていると、オーウェンが横から文句を言ってきた。それに対応していると、少しだけ落ち着きを取り戻した行商人の一人がブッシュミルズ皇国の方角を指差して口を開く。

「……い、今からブッシュミルズに行くなら、受付はもう過ぎる頃だと……」

「え?」

「む。関所か」

行商人の言葉に驚いて街道の先を見ると、武骨な砦が目に入った。城壁などは無かったが、左右は深い森なので、普通はあの砦から入国するしかないに違いない。その砦で手続きをしないと入国は出来ないということか。

「……安心しろ。この関は我がケアン侯爵家の管轄だ。俺が話をする」

「それは助かります。ありがとうございます、フェルター君」

「うむ」

頼もしいフェルターの言葉にホッとしてお礼を告げると、馬車の中でロックスがフェルターの肩を叩く光景が目に入った。男子学生特有のじゃれ合いだろうか。