作品タイトル不明
ブッシュミルズ皇国へ2
馬車の前でわいわいと各々が話していると、最後の一人であるハイラムが登場した。ハイラムは遠目から馬車を見て目を丸くし、黙ってこちらへ歩いてきた。
「……国際問題にならないと良いけどね」
「そんなに見た目が悪いですか?」
ハイラムの言葉に若干拗ねながら答える。すると、ハイラムは肩を竦めて馬車を観察した。
「まぁ、貴族としての地位や力を見せつけるなら塗料が高級な青の馬車かな。後は、敵対国に行くならこういう頑丈で大きな馬車を何台も用意して、武力を見せつけて入国するということもあると思うけど」
「武力……」
フォローしてくれようとしたのか。それとも、素直な感想なのか。まぁ、悪気はないのだろう。気を取り直して、メンバーを確認した。私とオーウェンはもちろん、ブッシュミルズ皇国での案内をしてくれるフェルター。魔法陣に興味があるというグレン、エライザ、シェンリー。そして、エライザの保護者であるストラス。そして、何故か参加することになったロックスとハイラムの九人だ。馬車が八人乗りなので、一人は御者席である。
「結構な人数になりましたね。ロックス君とハイラム君はなぜ同行するのでしょうか」
そう尋ねると、ロックスがフェルターを指差して答える。
「まだ、ブッシュミルズ皇国には行ったことが無いからな。それに、古代の魔法陣というものにも興味がある」
ロックスはドヤ顔でそんなことを言ったが、他国の王族が一緒だと魔法陣を見せてもらえない可能性もありそうだが、どうだろうか。
ロックスの回答に少し不安になっていると、今度はハイラムが私を見て答えた。
「ただでさえ時間が無いのに、まさかアオイ先生が何週間も学院からいなくなるなんて思わなかったからね。僕は早急に癒しの魔術を覚える必要があるから、合間を見つけて教えてもらうつもりだよ」
「なるほど」
こちらの理由は至極分かりやすかった。どちらも自らの地位や立場を考えての行動だろうが、状況は違うようだ。ハイラムの方がより厳しい状況にあると認識しており、必死に癒しの魔術を覚えようとしている。
「それなら、みっちり教える時間を用意しましょう。私の癒しの魔術はどう治療するか、多くの知識が必要になりますからね」
「……まぁ、仕方ないね」
少し人体について学び始めているハイラムは、私の言葉の意味を噛み締めるように答えた。なにせ、人体の構造から臓器等の各器官の働き、種類なども学んでいる最中である。その状態で、どのように傷を治していくかも学ぶのはとても大変だ。
更に、今は魔法陣についても学んでいる。どんなに早くても癒しの魔術をマスターできるのに二年はかかるだろうが、表面上の傷を治すだけならばもっと早く覚えることが出来るだろう。
せっかくこれだけ頑張っているのだから、できるだけ早く成長を実感させてあげたいところである。
そんなことを考えつつ、荷物を馬車に運び込む皆の手伝いをする。バスのように大きな馬車を準備したつもりだったが、それでも荷物が多くていっぱいになってしまった。これで二日以上かかるなら少し辛いかもしれない。
そう思っていると、ロックスが咳ばらいをして片手を上げた。
「少し小さいが、もう一台馬車を用意しよう。二台なら余裕があるだろうし」
「え? それは助かりますが……」
「そうか。なら、すぐに準備してくる」
「あ、ちょっと……」
声を掛けようとしたが、ロックスは即座に行動を開始してしまった。走り去っていくロックスを見送っていると、ハイラムが呆れたような顔で歩いてくる。
「……まさかとは思うけど、王家の紋章が入った馬車とか持ってこないよね?」
「そうなると、色々と複雑になりそうですよね」
「まぁ、流石に……」
そんな会話をしていたのだが、一時間後、二人揃って唖然とすることになる。
「うわぁ、綺麗な馬車ですね」
「すごく綺麗です!」
シェンリーとエライザが喜びの声を上げる中、ロックスは見事な馬車に乗って現れた。白を基調とした大きな馬車で、装飾には金と銀が使われていた。馬も白馬の為、まさに王族が乗るに相応しい美しさである。
そして、壁面には大きく王家の紋章が刻まれていた。どこから見ても、これがヴァーテッド王国の王家の馬車であると知れるだろう。
「……素晴らしい馬車ですね」
「ああ、俺の馬車だ。気にせず使ってくれ」
ロックスから笑顔でそう言われて、否定できなくなる。本当なら受け取り拒否したいところだが、厚意を無駄にするのは申し訳ない。
「……これで行くわけ? 大丈夫?」
「ど、どうにかなると思います」
「信じてないじゃないか」
心配そうにハイラムに尋ねられたが、最終的にはロックスの用意してくれた馬車も使うことになった。やはり、多少の危険はあっても生徒からの厚意は無駄には出来ないのだ。