軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハイラムに教える

翌日、ハイラムを探してみると前日同様、何かに悩んでいるような、苛立っているような雰囲気だった。中庭の噴水近くの長椅子に腰かけるハイラムは今日も独りである。いつも女子生徒に囲まれて楽しそうにしている印象のハイラムが、別人のようだ。

昨日のロックスやフェルター達と話して、ハイラムの変化を明確に感じられるようになった気がする。やはり、皆の予想通りの状況なのかもしれない。

「おはようございます。ハイラム君」

何となく緊張しながら、ハイラムに声を掛けてみる。すると、ハイラムは座ったまま顔を上げてこちらを見た。その表情はとても冷めたものだったが、すぐにいつもの親し気な表情に切り替える。

「……やぁ、アオイ先生。どうしたの?」

僅かな間に普段通りの自分を演じれるという点は流石はハイラムといったところだが、それでも隠せない影のようなものを感じた。

それだけ悩んでいるということかもしれないと思い、真剣にハイラムの目を見つめる。

「少しお話があります。隣に座っても良いですか?」

「……え?」

何故か、ハイラムは少し警戒したような表情で椅子に座ったまま仰け反った。そして、若干頬を引き攣らせて笑う。

「は、はは……アオイ先生に話があるなんて言われると、ちょっと怖いね」

そう言いつつ、ハイラムはそっと椅子の端に座り直した。どこか慣れた様子で椅子の空いた場所に片手を置いて首を傾げる。

「それじゃ、どうぞ」

「……失礼します」

何故か既に主導権を奪われてしまっている気になるが、それは気にしてはいけない。返事をしてからハイラムの隣に腰かけ、ハイラムと同様に噴水を眺める。

さぁ、ハイラムの悩みについて確認して、魔法陣の有用性を説こうか。そう思ったのだが、先にハイラムが口を開いて出鼻を挫かれた。

「こうしてアオイ先生と並んで椅子に座る日が来るとは思わなかったね。どう? 少しは緊張したりするのかな? 一応、王族の僕としては緊張してもらえると嬉しいけどね」

と、ハイラムに言われて浅く頷く。

「どうでしょう。緊張というのは良く分かりませんが、確かにこうして隣同士で座ると変な感じはしますね」

とりあえず、ハイラムの質問には答えておこうと思ってそう言ったのだが、吹き出すように笑われてしまった。

「変な感じって……ははは! 分かってはいたけど、アオイ先生にかかったら王族も上級貴族も形無しだよね。まぁ、そういう教員がいるのも面白いかもね」

ハイラムは楽しそうに笑ってそんな感想を口にする。

「本来、教員と生徒という関係である以上、親や家柄というものは無関係であるべきだと思っています。生徒達は地位に関係なく様々な知識や経験が足りておらず、それぞれが懸命に考えながら試行錯誤している最中です。そこで親や家柄を見て妙な配慮や遠慮をしていると歪んだ教育になるのではないでしょうか」

ハイラムの言葉に、何となく教員としての自尊心が反応してしまい、自分でも思わぬほど熱く語ってしまった。これにはハイラムも目を丸くする。

「……えっと、誰にでも平等に教育をすべき、という意味かな? まぁ、そんなことが出来るのはアオイ先生くらいだよ。だから、どんどんアオイ先生を慕う生徒が増えていくのかもね」

自嘲気味に笑い、ハイラムはそんなことを口にした。そして、二人で無言で噴水を眺める。

はて……私は何をしにここにきたのだったか。

思わずそんなことを考えてしまった。

「……それで、アオイ先生の話って?」

そう尋ねられて、ハッとなる。

「いけません。またハイラム君のペースに飲まれるところでした」

「え? 僕のせいかな?」

そんなやり取りをしてから、軽く咳払いをして昨日準備した魔法陣をお披露目する。五枚の紙に別けて描かれた魔法陣を空中に浮かせると、ハイラムが目を細めて顎を引く。

「これは、何かの魔法陣?」

少し低い声でそう聞かれて、深く頷いて答える。

「はい。これは魔法陣の基礎を学んだ後に教える予定の応用編になります。魔法陣が五つあるのは、多重魔法陣という積層式の魔法陣だからですね」

そう言いながら、魔法陣の上部から下部まで繋がる部分を指で説明する。まだ基礎の講義を一日受けただけのハイラムには全く理解できないだろう。

「……それで、何の魔術かな?」

少し面倒臭そうにハイラムが尋ねてきた。それに、私は魔法陣を見たまま答える。

「私なりに考案した、癒しの魔術の魔法陣です」

「……は?」

ハイラムは驚愕に目を見開き、間の抜けた声で生返事をした。

固まるハイラムの顔を横目に見て、五枚の魔法陣を重ねて手元へ移動させる。

「……魔法陣の利点は、必要な魔力量さえあれば誰にでも使えるという点です。どの属性の魔術を研究するか。どんな魔術を研究するかという考え方はありますが、得意な属性というものは存在しません。逆に言えば、どんな人でも好きな魔術を研究し、行使することが可能になるのです」

そう告げると、ハイラムは呆然としたまま五枚の魔法陣を見つめていた。