軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハイラムの事情

いつもと違うハイラムの様子に違和感を感じ、会話に割り込ませてもらう。

「……ハイラム君は魔法陣を学んでも無駄だと思うんですね」

そう呟くと、ハイラムとロックスが揃って振り返った。ロックスは怒ったように目じりを吊り上げ、ハイラムは少し罪悪感を感じているのか、不安そうに眉を八の字にしている。

その顔を順番に眺めて、落ち着いて答える。

「確かに、詠唱する魔術を高いレベルで使いこなす魔術師にとって、今更初級魔術相当の魔法陣を覚えるのは面倒でしょう。ただ、魔法陣には多くの利点があります。学んでいけば、初級、中級、上級、特級の魔法陣を使いこなせるようになりますし、予め準備をしていれば詠唱する必要がなくなります。つまり、瞬時に様々な魔術を発動することが出来るようになるのです」

魔法陣の最大の利点を言葉にして伝える。これには流石に反論は出来ないだろう。教員達であっても特級魔術を五小節以下の詠唱で発動することは出来ない筈だ。つまり、それだけのアドバンテージが魔法陣にはある。

そう思っての発言だったが、ハイラムの表情は変わらなかった。

「……僕は、別に世界一の魔術師になろうなんて思ってないからね。それに、どうせ後半年以内には国に帰らないといけないし」

疲れたようにそう言って、ハイラムはこちらに背を向ける。その態度にロックスが歯を剥き出しにして怒りの表情を形作ったが、言葉は発さなかった。反対に、これまで黙っていたフェルターが口を開く。

「……何が気に入らない? 何に対して、そんなに怒っている?」

フェルターが落ち着いた声でそう尋ねると、ハイラムは足を止めた。一瞬の沈黙。フェルターの問いかけはシンプルだったが、ハイラムには無視できないだけの重みがあったようだ。

無理に聞き出すのもどうかと思って悩んでいると、ハイラムはこちらに横顔を見せて自嘲気味に笑う。

「……メイプルリーフ聖皇国には癒しの魔術があるんだよ。それは、他の国でも真似できない優れた魔術で、我が国の威信のようなもの、なんだろうね。それが、僕には向いていないだけさ」

ハイラムは曖昧な物言いをして、どこかへ歩き去っていく。その言い残した言葉に、ロックスが首を捻った。

「何を言ってんだ、あいつ?」

ロックスがそう口にすると、フェルターが腕を組んで唸る。

「……癒しの魔術が苦手、ということじゃないか?」

「ああ、そういうことか」

二人はそれだけで何か分かったようだが、私はまだ理解できていない。

「どういうことでしょう? 癒しの魔術が苦手だと、どんな問題が?」

そう尋ねると、ロックスが肩を竦めた。

「メイプルリーフ聖皇国の大半が癒しの魔術を学んでいる。そんな環境だから、王家の者は殆どが癒しの魔術を使えるはずだ」

「つまり、王族なのに癒しの魔術が上手にできなくて悩んでいる、ということですか?」

こちらからの質問に、ロックスは頭を片手で掻きながら頷く。

「元々、ハイラムは王位継承権が一位じゃないからな。癒しの魔術が不得意なら、まず王位の座を争うことはないだろう。そうなると、ハイラムはどうなるか。魔術師としては優秀だ。大事な国境を守る辺境都市の領主となるか。それとも宮廷魔術師の一人になるか……まぁ、自分の行く末がフラフラしていて定まらないから荒れてるんじゃないか?」

と、ロックスは簡単に説明してくれた。なるほど。国王になりたかったのか。それとも、他にしたいことがあるのに、別の進路を提示でもされたのか。

「……なんにしても、ハイラム君の悩みは癒しの魔術が上手くなれば解決するかもしれませんね」

「……癒しの魔術を教えることが出来るのか?」

誰にともなく呟いたのだが、フェルターが私の言葉を聞いて反応を示した。しかし、それに自信を持って答えることができない。

「……癒しの魔術は、まだ分からない部分が多くあります。私の場合は傷や骨折などの原因が明確な外的外傷を治すことに特化しています。それは、人体の構造を理解して、どうすれば怪我が治るか把握しているから可能なことです。しかし、メイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術は相手がどんな状態なのか分からなくても治療が可能です。病気についても一定の効果がありますし、複数人をまとめて治療することが出来ます」

「アオイも複数人の治療は出来るんじゃなかったか」

「私の場合は目に見える人のみで、なおかつ怪我の状況を確認してからの魔術行使となります。使い方も効果も違いますね。まぁ、以前少し研究をしたので、私なりには多少使えるようになったと思っていますが……」

そう言って溜め息を吐くと、フェルターはこちらを見て口を開いた。

「それなら、研究した癒しの魔術をハイラムに伝えてみたらどうだ? ハイラムがどの段階で伸び悩んでいるのか分からないが、今はどんな手掛かりでも良いから欲しいという状態だろうからな」

フェルターがそう口にすると、ロックスが成程と頷いた。

「ああ、だから魔法陣の講義に出てきたのか。癒しの魔術に役立つかもと思ったんだな」

「そういうことでしたか……」

ロックスの言葉に返事をしつつ、ハイラムの為の特別講義を考えるべきかと頭を働かせたのだった。