作品タイトル不明
ハイラムという人物
ハイラム・パッチ・メイプルリーフ。メイプルリーフ聖皇国の第三王子であり、ある意味メイプルリーフ聖皇国の王家を代表してフィディック学院に入学したといえる。それほど魔術の才があり、実際にフィディック学院内でも上位の実力者であるという。
更に付け加えるなら、王家の血筋でありながらとてもフランクで人懐こい性格をしている。見た目も童顔で可愛らしいせいか、高等部の女子たちを中心にしたファンクラブのようなものまであるらしい。ちなみに、コートも爽やかで話しやすい性格の為か、中等部の女子を中心としたファンクラブのようなものがあるようだ。
そんなハイラムだが、最近はどうも暗い雰囲気の時があり、あれだけ周りに集まっていた女子生徒を寄せ付けないこともあるとのこと。
これは、何かあったのかもしれない。
ハイラムに是非とも魔法陣の講義をもう一度受けてもらいたいと思ったが、今はハイラムの元気がないことが気になる。
「ありがとうございます。一度、ハイラム君と話をしてみましょう」
「はーい」
「頑張ってください!」
情報提供してくれたアイル達に礼を言い、改めてハイラムを探すことにした。フィディック学院の敷地は広く、講義を受講していないのならどこにいるのか見当も付かない。
そう思っていたのだが、ハイラムは余程目立つらしく、すぐに目撃情報を得ることが出来た。
「ハイラム先輩なら噴水のある広場にいましたよ」
「ありがとうございます」
三人組の女子生徒に声を掛けたら知っている人がいた。情報提供にお礼を言って踵を返そうとすると、何故か呼び止められてしまう。振り向くと、情報提供してくれた女子生徒が眉根を寄せて口を開く。
「あの……ハイラム先輩に何かあったんですか?」
心配そうにそう言われて、軽く首を左右に振って否定しておいた。
「いえ、少し元気がなさそうだったなと思っただけですよ」
そう答えると、女子生徒は短く息を吐いて真剣な顔で口を開く。
「……最近、ハイラム先輩が重い雰囲気で黙っちゃう時があって、皆もどう声を掛けたら良いか分からなくて……」
不安そうにそう言う女子生徒に頷き、教員としてきちんと対応する。
「安心してください。ハイラム君が悩んでいるようなら相談に乗りますし、元気になれるように頑張りますよ」
女子生徒にそう告げてから、改めて気持ちを引き締めてハイラムを探すことにした。最初は少し気になるくらいだったが、他の生徒たちも心配しているとなると予想より深刻な可能性がある。
「まぁ、ハイラム君は虐められたりはしないでしょうが……」
大国の王族であり魔術師としても高い実力を持つ。そのうえ、飄々とした性格で社交性も高い。虐めに
あう可能性は少ないだろう。
そう思ってハイラムの姿を探していると、予想外の光景を見ることになった。確かにハイラムの姿は噴水前にあった。だが、その左右を挟むようにロックスとフェルターも立っていたのだ。
まさか、あの二人が虐めを? 驚きつつも急いでその場へ駆けつける。
「何を話しているのですか?」
そう声を掛けてみると、一番にロックスが振り向いた。
「え?」
生返事をしながらこちらを振り向いたロックスの手は、ハイラムの着た服の襟に掛けられていた。今にも襟首を掴んで小柄なハイラムを持ち上げそうな状態である。
自然と、自分の目が鋭く細まったのを感じた。
「……虐めをしていたら許しませんよ」
低い声でそう告げると、ロックスは慌ててハイラムの襟から手を離す。
「ち、違うぞ!? なぁ、フェルター!?」
ロックスが助けを求めるようにそう口にすると、フェルターは黙って大きく頷いた。ハイラムは無言で視線を逸らしたまま動かない。
ハイラムからフェルター、ロックスへと視線を移し、口を開く。
「では、今の行動は何でしょう? 何故、ハイラム君の襟を掴んでいたのですか?」
聞き返すと、ロックスは不機嫌そうに深く息を吐き、答えた。
「……ハイラムに、新しい講義の重要性を説いていた。自分が難しくて覚えることが出来ないと言うなら、せめて優秀な自国の生徒を派遣して学ばせろとな……別に我が国の利になることじゃない。どちらかといえばライバルとなる大国に助言をしているというのに、ハイラムは全く聞こうとしない」
ロックスがそう言うと、ハイラムは半眼で舌打ちをする。
「余計なお世話だよね。まるで魔法陣を覚えないと国が衰退するみたいに言ってるけどさ。正直、過大評価だと思うけど? だって、魔法陣がそんなに優秀なら寂れることなんてなかったはずでしょ? どう? 反論できる?」
ハイラムがそう反論すると、ロックスは苛々した様子で自分の頭を掻きむしった。
「あぁ! 苛々する! 目の前でアオイの魔法陣を見てみろ! どう考えても有用だろうが!」
「多少優れているのは認めるけど、詠唱魔術でもどうにか出来るんでしょ?
じゃあ、詠唱魔術で良いんじゃない?」
珍しく、ハイラムは怒ったような顔でロックスの意見に異を唱える。それは、いつもの飄々としたハイラムの姿からは掛け離れた姿だと感じた。