軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

講義の改善後

緊張する。これほど緊張したのは、フィディック学院で最初に講義をした時以来かもしれない。

深呼吸を一度して、長めに息を吐く。少しだけ落ち着いた気がした。

「……それでは、行きます」

「うむ」

後ろに立つオーウェンに一言伝えてから、講義室の扉を開けた。

講義室に入ると、人数はまた少しだけ減っているように感じた。特に、初等部と中等部の生徒は見当たらない。だが、今はそれを悲しんでいる時ではない。講義内容を改善した結果を先に確認すべきだ。

講義室の中を進み、皆の顔を見回して口を開く。

「それでは、魔法陣の基礎概論の二回目を始めましょう。今回は、前回の失敗を踏まえて、より簡単で分かりやすい魔法陣で説明をしようと思います。前回の講義と少し被る部分がありますが、それは復習と思って聞いてください」

そう前置きして、講義を始めた。

火球、水球の魔法陣を並べて描き、どこが詠唱のどの部分か等を簡単に説明していく。オーウェンの協力のお陰で詠唱の各小節を忠実に魔法陣で再現出来たと思う。皆にはメモを取るように言い、まずは魔法陣を順番に描いて覚えてもらう作業とした。

生徒が自分達で考えて魔法陣を構成するといった作業は省き、まずは初級の魔術を魔法陣にしたものを一部学ぶばかりである。

あまり理解が進むとは思えなかったが、これが生徒達には好評だった。

「これは分かりやすいよ」

「うん、これなら出来そう」

「属性の違いが分かるね」

アイル達も楽しそうに話しながら描いた魔法陣を見せ合っている。その様子を見てホッとしていると、クラウンが挙手をして口を開いた。

「この組み合わせで魔法陣が発動して火球が出来上がるなら、連続で火球が飛ぶ魔術を魔法陣にする場合はどうなるのか」

「そちらは中級の魔術ですね。この火球を作る魔術を基にして、複数の火球を作って維持する必要があります。また、浮かぶ場所や飛ばす方向、速度などを設定していきます。そのため、魔法陣は多重に……」

クラウンの質問に無意識で丁寧に解説をしていると、再び生徒達の表情が曇る。

「え? 難しくない?」

「多重の意味が分からないかも」

「どうやって上下の魔法陣を繋げるんだろう?」

そんな声が聞こえてきて、慌てて両手を左右に振った。

「大丈夫ですよ。二重、三重の魔法陣も実際に一緒に描いて覚えてもらいますから。簡単な二重の魔法陣から始めれば魔法陣同士の連結方法も分かります」

あまりプレッシャーを与えないように優しくそう言った。すると、アイル達も笑顔で頷く。

「それなら大丈夫かも」

「確かに」

「そうだね」

フォローすると、アイル達の表情が再び柔らかくなる。それに安堵の息を吐いていると、シェンリーが笑ってこちらを見ていた。

色々と質問が相次いだものの、何とか無事に講義を乗り切ることが出来た。今回は講義後の質問も講義内容が分からずに確認してくるのではなく、習った魔法陣をどう応用するのかといったものが殆どだった。

そして、意外にもオーウェンの教え方が変わったのが良い収穫だったと思う。

「この魔法陣で水球のサイズを固定していますが、この部分を無くしてしまえば流し込む魔力の分だけ大きく出来るんですか?」

「いや、この魔法陣の場合は水球を形にするという意味も込められている。もし、大きな水球を作りたければ魔法陣はこのように……」

オーウェンはそれぞれの質問者に合わせたレベルで解説をしてくれていた。前のように最初から答えを見せて終わりではなく、内容の復習と応用の方法についても丁寧に回答している。

お陰で、講義に参加した人の満足度は大きく向上した気がする。少しだけ講義を行うことに対して自信を取り戻せたかもしれない。

上機嫌で講義室を後にして、食堂へと赴く。

「今日は何を食べたいですか?」

「食べる暇があったら研究をしたいのだが」

「少しでも食べてから行ってください。その方が研究も捗りますよ」

「そうなのか。なら、鳥肉を食べたい」

「分かりました」

オーウェンと簡単なやり取りをして食事を注文に行く。すると、少し暗い表情のハイラムの姿があった。

「……アオイ先生か」

ハイラムが私の名を呼ぶので、挨拶をして質問をする。

「こんにちは。何かあったのですか?」

そう尋ねると、ハイラムは鼻を鳴らして顎を引いた。

「さてね……アオイ先生こそ、随分とご機嫌に見えるけど? 講義は上手くいったの?」

「お陰様で、魔法陣の講義は一から見直しましたよ。恐らく、前よりかなり分かりやすくなったはずです。良かったら、また講義を聞いてもらっても……」

「……悪いけど、そんな時間がないんだよ。これでも忙しくてね」

こちらの言葉を最後まで聞くこともなく、ハイラムはお断りの言葉を口にする。それにがっかりしながら頷く。

「そうですか……今度は、本当に分かりやすく出来たと思うのですが……」

「それは良かったね。それじゃあ」

ハイラムは取り付く島もないといった様子で私の言葉を軽く流してしまった。立ち去って行くハイラムの後ろ姿を見送り、思わず溜め息を吐いてしまう。

「……中々、難しいものですね」

そう呟きつつ、ハイラムの表情が気になる。あんなに暗い雰囲気のハイラムは見たことが無かったからだ。