作品タイトル不明
魔法陣の講義内容を決めたい3
食堂から出て近くにある中庭へと移動して、手身近な場所にあったテーブルと長椅子を発見する。
「はい、こちらへどうぞ」
案内すると、二人は話しながらそちらへ移動し、そのまま対面して長椅子に腰かけた。
「つまり、魔法陣の形は平面には限らないということで……」
「二重、三重に重なって立体に?」
「いや、球形でも形になる。だからこそ、魔法陣は難しい」
「おお! 確かに、理論上はそれも……」
大盛り上がりの二人。とても楽しそうだが、それではこちらの用事が終わらない。私は軽く咳払いをして二人の議論に水を差してみた。
「おほん! あの、二人とも……」
「属性は統一しなくてはならないと思って……」
「いや、そうとも限らない。やり方次第で同時に何属性も効果を発揮する魔法陣が……」
「な、なんと……!?」
駄目だった。こちらの声など聞こえていないのか、二人はまったく反応を示すことなく議論を続けている。深く溜め息を吐き、仕方なく近くの椅子に座った。もう少し待たなければ駄目だろうか?
そう思ったが、二人の会話を聞いてあることに気が付く。この二人の会話は、まさに私が新しい講義でしようとしていること、そのままなのだ。
今、クラウンは魔法陣の研究を独自に始め、少しながら形になってきている。つまり、魔法陣の基礎を終えた辺りと考えれば良いだろうか。
ならば、今のクラウンが実際に行き詰っているところ、理解し難いと感じている部分を覚えておいた方が良い。
そう考え直し、二人の議論に意識を集中する。
「……まずは、平面のシンプルな魔法陣を学び、次に属性ごとの魔法陣の基礎を学ぶ。そして、二重、三重の魔法陣……これは、最初は単一の属性で分かりやすいものから始めて……」
二人の議論を聞きながら自分なりに分かりやすく説明する為にメモを取ってみた。講義の参考になると思って二人の会話を聞き始めたが、予想以上に良い議論である。
多重に層を重ねる魔法陣は、直感的に理解できるものと思っていた。だが、クラウンは上下の繋がり、相互作用について難しいと感じている。これは、平面の魔法陣で複雑かつ大型のものをまだ理解していないから感じる難解さだろう。複雑な魔法陣を理解することと多重層の魔法陣を理解することには幾つか共通項がある。それらを理解すれば、より立体的な魔法陣へと昇華させることが出来るはずだ。
更に二人の議論を聞いていると、魔法陣の構成だけでなく、どうやって魔力を変化させるかという基本的な部分に話が及んでいた。
これも、詠唱による一般的な魔術の弊害だろう。恐らく、最初に魔術を作成した本人は詠唱の小節それぞれにどんな意味があり、どのような効果を発揮して魔術が完成しているか理解している。しかし、詠唱だけを習って何となくのイメージで魔術を発動している者は、本当の意味での魔術の理解には至っていないのだ。
「つまり、学院で教えている魔術を分解して、小節それぞれの意味を教えつつ、それを魔法陣に反映して教えていけば……」
そう呟き、成程と独り頷く。二人の会話を聞きながら魔法陣の実技的な部分の講義の参考にしようと思っていたのだが、どうやら魔法陣概論の基礎や応用にもそのまま使えそうなだけでなく、現在行っている魔術概論の講義内容にも反映させることが出来そうだと気が付いた。
「魔術概論でもう少し詠唱魔術の詠唱について教えて……魔法陣概論ではその詠唱を魔法陣に落とし込む、と……これは、方向性が定まってきたかもしれませんね」
気が付けば、熱心に議論を重ねる二人の会話を聞きながら、自分も熱心に新たな講義の内容やカリキュラムを作成しており、ふと空を見上げると完全に昼を回っていた。ハッとして立ち上がり、食堂の方へ行くが人の姿はない。空いた食器が片付けられていく光景を見る限り、どうやら昼食の時間は過ぎてしまったようだ。
「……もしかして、二時間以上経ってしまったのでしょうか」
何かに夢中になって昼食を抜いてしまったらしい。それに気が付いて、まるで自分がオーウェンに似てきたような錯覚に陥り、少し凹む。
「……二人とも、そろそろ議論を止めましょう」
二人の下へ戻ってそう声を掛けると、今度は声が耳にまで届いた。
「む、そういえばそれなりに時間が経った気がするな」
「まだまだ話したりないのだが……」
似たような方向にズレた二人を見て溜め息を吐きつつ、メモを見せて口を開く。
「今度、魔法陣基礎概論と魔法陣の実技講座を行う予定にしています。クラウンさんにとっても良い講義内容になると思いますので、是非ご参加ください」
「おお! それは良い内容だ!」
予想通り、クラウンは激しく食いついた。一方、オーウェンは眉を上げて不思議そうに首を傾げる。
「講義内容が決まっていないと言っていなかったか?」
「二人が議論している間に大体決まりました。後は内容を整理するだけなので、それは手伝ってくださいね?」
「む、承知した」
腰に手を当てて念押しすると、オーウェンは神妙な顔で頷いたのだった。