軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法陣の講義内容を決めたい2

食堂の人にお願いをして長椅子を借り、オーウェンをそこに寝かせた。食堂の端に場所を取った為、特に人の目があるわけでもない。暫くして食事が出来たのを確認し、テーブルに並べる。スープに前菜、魚料理とパンといったオーソドックスなものだ。

そうこうしている内に、出来立ての料理の香りに釣られてオーウェンの鼻が動く。いくら眠くとも抗えない空腹というものもあるだろう。徐々に覚醒してきたオーウェンは上体を起こし、周りを見て考え始めた。

「……私は、研究中だったはずだ」

「食事をとっていないようだったので、食事にしましょう」

起きたばかりの低い声で呟くオーウェンに食事を勧めてみる。すると、オーウェンはテーブルの料理を確認して、次に私を見た。

「……私は研究室にいたはずだが、ここは何処だ?」

「ここは学院内の食堂ですね。料理が美味しいですよ」

「……そうか」

質問に答えると私の対応に満足したのか、オーウェンは小さく返事をして椅子に座りなおした。まだ湯気が立つ温かい料理を見て、軽く頷く。

「良い香りだ」

「この学院は各国の貴族の子女が通うような学院ですから、料理人も素晴らしい腕の方が働いていますね」

「お前は食べないのか」

「お昼までは少し早いので、後で食べます」

「そうか」

そんなやり取りをして、オーウェンはスプーンを手に取ってスープに手を伸ばした。クリーム色のスープは恐らく野菜を甘く煮たものだろう。香り付けのハーブまで添えられており、とてもではないが学食と呼べるレベルの料理ではない。

「……む、美味いな」

「私もそのスープ好きなんですよ。美味しいですよね」

料理がお気に召したらしく、オーウェンは次々に料理を口に運び出した。しばらくその様子を眺めていると、さっさと食事を終わらせてオーウェンがこちらを見る。

「ふむ、良い環境だな」

「学院の生活が?」

「そうだ」

端的に答えて、オーウェンは腕を組んで唸る。

「……講義をしなくて良いなら最高なのだが」

「講義をしなかったら何でここにいるのか分からないでしょう?」

「……残念だ」

そう言って、オーウェンは短く息を吐いた。どうやら食事がかなりお気に召したらしい。オーウェンの頭の中には魔術のことしか無いと思っていたが、食事が気に入って移住を検討したことが少し面白かった。

そんなことをしていると、食堂にまた新たな人物が現れる。長身の薄緑色の頭を見て、瞬時にヤバいと感じて立ち上がる。しかし、もう遅かった。

「あ! 見つけた、噂の人!」

そう言って、クラウン・ウィンザーがオーウェンを指差す。食堂で会うことなど滅多にないというのに、何故こんなタイミングで現れてしまったのか。

「ふむ、誰だね」

オーウェンが椅子に座ったままそう尋ねてきたので、溜め息交じりに紹介する。

「メイプルリーフ聖皇国の宮廷魔術師であり、今はフィディック学院の来賓として魔術研究や講義の手伝いをしてくれているクラウンさんです」

「ほう、メイプルリーフの……それは少々興味があるな」

「あ、癒しの魔術師ではありませんよ」

「なら、興味は無い」

「酷い!?」

簡単に紹介をしていたところ、それを聞いていたクラウンが両手で自らの顔を挟むような仕草をして文句を言った。それに一礼して謝罪する。

「すみません。オーウェンはこのように思ったことをそのまま口にする性格で……悪気は無いのです」

「ま、まぁ、別にそれは良いとして……このアオイ殿に魔術を伝授したという世界最高の魔術師の一人、オーウェン氏! 是非とも、魔術について語り合いたいと思っていた!」

クラウンは凹むことなく笑顔でそう言うと、オーウェンの顔を見る。それに、オーウェンは目を細めた。

「ふむ、クラウンとやら……魔術をどれだけ理解している?」

「ど、どれだけ? それは、なんと答えて良いやら……ただ、私は魔術の全てを、魔導の深淵を覗きたいと思っている!」

力強くそう宣言するクラウンに、オーウェンは腕を組んで深く頷いた。

「ふむ、見所がある。魔術は奥深く、先は果てしない……しかし、研究するだけの価値がある。時に、魔法陣というものに対して、知見は?」

「魔法陣! それなら今まさに研究中で……」

予想通り、魔術バカと魔術バカが合わさって大変なことになってしまった。ここは食堂だというのに、二人は周りのことなど一切気にせずに魔術談義に花を咲かせてしまう。今はまだ食事をしている人が少ないので良いが、すぐに昼食の時間になり、人で溢れかえるだろう。

「……仕方ありません。二人とも移動しますよ。講義の内容を早く決めたいと思っていたのに、本当にもう……」

ある意味で最悪の邪魔が入ってしまったことを嘆きつつ、白熱した議論をする二人の背中を押して食堂を後にする。遊びに夢中になっている子供のようである。