作品タイトル不明
魔法陣の講義内容を決めたい
オーウェンが学院に来て初めての週末。引っ越しも終わり、オーウェンは研究に打ち込んでいた。そろそろ良いだろうと思い、研究室を訪ねる。
しかし、扉をノックしても反応が無かった。まさか、また寝ずに研究して研究室で眠りに落ちてしまっているのだろうか。
「……失礼します」
許可は得てないが、扉を開けて中に入ってみることにした。幸いにもカギは掛かっていない。
「オーウェン?」
名を呼びながら研究室の奥に行ってみると、素材倉庫のところに立つ人影を発見した。あの長い白髪はオーウェンに違いない。
「素材を探していたのですか」
そう言って隣に移動してみるが、オーウェンは動かなかった。横から顔を確認すると、目を閉じて静かに呼吸をしていると分かった。
「え? 寝てる?」
驚きである。オーウェンは小さな素材倉庫の壁に肩からもたれかかるような恰好で立ったまま寝ていたのだ。どれだけ不眠不休で働けばこんな状態で熟睡できるというのか。
「残業後の満員電車じゃないんですから……」
呆れて文句を言う。聞こえていないのは承知の上だが、我慢出来なかった。仕方なく、オーウェンの体を風の魔術でふわりと浮かせ、そのまま研究室の外へと運ぶ。
「この様子だと、食事も昨日からしていないでしょうね」
溜め息交じりにそう呟くと、オーウェンを浮かせたまま学院の食堂へと移動した。誰も来ないような中庭の奥だが、流石に校舎にまで移動すると人の姿もちらほらと見えてくる。
「あ、アオイ先生……?」
「あの人、死んでるんじゃない……?」
「……まさか、アオイ先生が……」
不穏な言葉も聞こえてきたが、今はとりあえずオーウェンのメンテナンスが先決だ。本当に、私がいない間一人でよく生き延びたものである。変な修羅場を潜るのは勘弁してほしいところだ。
そんなことを思いながら学院内の食堂に到着すると、午前中なのに何人か人の姿があった。そんな中、青い髪の青年と白髪交じりの灰色の長髪の中年男性の二人がテーブルを挟んで向かい合って座り、飲み物を飲んでいる光景があった。一人はスペイサイドだが、もう一人は少し珍しい人物である。
「スペイサイド先生と、フォア先生?」
二人で何をしているのかと声を掛けると、二人は会話を止めて揃ってこちらに振り返る。
「アオイ先生、朝から食堂に来られるのは珍しいですね……え? そちらの方は……」
スペイサイドが私の顔を見た後に空中に浮かぶオーウェンの姿に気が付き、絶句する。なにか事件を目撃したような顔になっているが、濡れ衣だ。
「今度、私の講義を手伝ってくれることになったエルフのオーウェン・ミラーズです。私の師匠でもあります」
そう告げると、スペイサイドは目を見開いて口を何度か開閉させた。言葉が出ないスペイサイドに対して、フォアは冷静である。目を細めて私とオーウェンを順番に見ると、首を左右に振って短く息を吐いた。
「……ふむ。アオイ先生の師匠となれば、相当な魔術師だろう。そんな人物が、何故このような恰好で空中を漂っているのか」
低い声でそう尋ねられ、苦笑交じりに答える。
「オーウェンはとても優秀な魔術師ですが、研究熱心過ぎるところがありまして……昨日から寝ずに研究をしていたようです。この様子だと食事もしていないだろうと思い、無理やりにでも何か食べさせようと思って連れてきました」
正直にそう答えると、フォアは深く頷いて眠るオーウェンの顔を見た。
「……なるほど。確かに、私も研究に進捗があった時などは寝食を忘れて没頭することがある。オーウェン殿の気持ちは理解できるな」
「そ、そうですね。私も、気が付けば朝から夜まで研究していたなんてことはありますし……」
フォアがオーウェンの行動を肯定するような発言をすると、スペイサイドも慌てて同調する姿勢をみせた。それにフォアは顎を引いて答える。
「うむ。魔術師たる者、より高みを目指す為には寝食を忘れるくらい集中する必要もあるだろう。オーウェン殿が目覚めたら、是非とも魔術について語り合ってみたいものだ」
「ああ、それは喜ぶかもしれませんね。伝えておきましょう」
「頼む」
それだけやり取りをすると、フォアは立ち上がって食堂を後にした。スペイサイドも飲み物を飲み終わっていたのか、すぐに立ち上がった。
「お二人で談笑を?」
気になって尋ねると、スペイサイドは軽く頷いて答えた。
「フォア氏とは時折、講義の後で話をさせていただいています。フォア氏の講義はとても興味深いものなのですが、週に一度しか機会がありません。フォア氏の講義を聞き、その後はよく食堂で魔術について質問をさせてもらっています」
「なるほど。勉強会のようなものですね」
「まぁ、私が色々と教えてもらっていると言った方が正しいですが……今度は、オーウェン殿にも魔術について話をしてもらいたいですね」
そう言うと、スペイサイドは軽く会釈をして去って行った。