作品タイトル不明
オーウェンの教え
「……三階が倉庫なのですね。では、一階の奥が寝室でしたか?」
三階に入ってみると、中は貴重な鉱石や魔獣の素材で山積みになっていた為、私は部屋の中を見回しながらそう尋ねた。しかし、オーウェンは小さく首を左右に振る。
「いや、一階の奥が倉庫だ。三階は生活空間にしていたのだが、一階の倉庫がいっぱいになってしまったからな。仕方なく、生活空間にも素材や道具を保管しているだけだ」
「……倉庫にしか見えませんが?」
オーウェンの言葉にそう返事をしつつ、改めて室内を見回した。確かに、物で溢れかえっているがテーブルや椅子、ソファーなどもあるようだ。テーブルの上にも下にも物が置かれている為、家具として認識出来なかった。
どうやら、手前の素材の山の奥にベッドなどもあるらしい。
「寝室だ。奥に台所と風呂場もあるぞ」
オーウェンは私の視線を追うように部屋を見回しながらそんなことを口走った。とてもではないが信じられない。そして、奥にあるという台所や風呂場を確認する勇気もない。
「……ちょっと本題に入る前にやることが出来ました」
「何だ?」
首を傾げるオーウェンの目を見て、真剣な顔で告げる。
「掃除です。断捨離も含めます」
「掃除か」
「はい」
有無を言わさぬ圧を込めて返事をすると、オーウェンは静かに頷いたのだった。
およそ半日。気が付けば日も暮れていた。お陰で、オーウェンの塔は見違えるほど綺麗になった。
「……あんなに捨てなくても良かったのではないだろうか」
「断捨離が大事なんです。ちゃんと最終判断はお任せしたでしょう?」
「捨てろと言っているようにしか聞こえなかったが……」
珍しく拗ねたような表情でぶつぶつと呟くオーウェン。それに苦笑しつつ、綺麗になった塔の中を確認する。断捨離したお陰で整理整頓しやすくなった為、倉庫内も物を探しやすくなったはずだ。特に寝室や台所が大きく変わった。最初は気が付かなかったが、寝室兼リビングとしても使えるほど広い部屋だ。ちなみに魔獣の牙や骨でいっぱいだった台所もちゃんと料理が出来るようになった。
「大満足ですね」
「……うむ」
久しぶりにスッキリした気持ちになった。オーウェンは少し悲しそうだが、住みやすくなったから良いだろう。ただ、このままではすぐに元の状態に戻りかねない。
「塔の裏側に倉庫を作ってあげますから、塔の中は綺麗にしておいてくださいね」
「む……そうか。倉庫か。その手があったな。よし、大きな物を作ろう」
屋外倉庫を提案した途端、オーウェンは前向きな姿勢をみせた。むしろ、何故倉庫がいっぱいになった段階で気が付かなかったのか。どうせ、研究で頭の中がいっぱいになっていたのだろうが、天才とはこういったものだろうか。
急に上機嫌になったオーウェンを苦笑しながら見ていると、オーウェンは不意に何かを思い出したようにこちらを見た。
「そういえば、何の用事で戻ってきたのだ。学院で学ぶことがなくなったか?」
そう言われて、私も本題を忘れていたことを思い出した。
「ああ、そうでした。ちょっと学院でしたいことがあるんです」
「したいこと?」
首を傾げつつ、オーウェンはソファーに腰を下ろした。どうやら、話を聞く姿勢になったらしい。こちらもオーウェンに合わせて反対側にあるソファーに座った。
そして、本題を切り出す。
「学院で新しく、魔法陣の講義を始めようと思っています。ただ、フィディック学院でも魔法陣に関する講義は一切行われておりません。予備知識も何もない状態で、どうやって教えていこうかと思いまして……」
「ふむ……生徒に魔法陣を教えることが自分の知識向上に繋がるのか?」
「そうですね……通常の魔術の講義はもう幾つかしていますが、他の教員や生徒から多くの学びを得ていると思います。自分が講義をすることで、改めて考えさせられることもありますし」
そう答えると、オーウェンは顎を引いて沈黙した。数秒ほど考えて、小さく頷く。
「……なるほど。生徒に教える為に、再度魔術の構成から分解して言葉にする故か? そういう考え方はしたことがなかったな。それで、魔法陣を生徒に教えて、より魔法陣の知識を深めようということか」
「そうですね。後は、生徒達に教えて別視点からの考えを得たいという部分もあります。各国の魔術知識が揃っていますから、自分では思いつかない案も出てくると思っています」
そこまで言うと、オーウェンは腕を組んで何度か頷いた。
「……分かった。それで、生徒達に教える為の講義の内容を一緒に考えてほしい、ということだな?」
オーウェンはそう言って顔を上げた。だが、それに首を左右に振る。
「いいえ、違います。出来たら、一緒に学院で生徒に教えて欲しいのです」
「…………は?」