軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オーウェンのもとへ

オーウェン・ミラーズ。純粋なエルフで年齢は百三十歳を超えている。本来はエルフの王国で精霊魔術を学ぶところだが、オーウェンは王国を離れて一人で魔法陣を研究し続けていた。結果、エルフ特有の魔術であり、世界最高レベルの精霊魔術と同等以上の効果を発揮するに至った。

何千年……下手をしたら何万年と続く精霊魔術を超えるような魔法陣を、オーウェンはたった一人で開発してみせたのだ。後半の研究は私も手伝ったとは思うが、それでも魔法陣を実用段階にまで持っていったのはオーウェン一人の力である。

つまり、この世界で一番の魔法陣の使い手はオーウェンなのだ。

「……ちょっと久しぶりですね。元気にしているでしょうか」

飛翔魔術で街道の上を飛行しながら呟く。眼下には馬車や人々の往来する街道が見える。最近は治安が良くなったのか、街道を行き交う人が増えた気がした。

とはいえ、オーウェンが住むのは人里離れた辺鄙な森の中だ。恐らく、以前と同様に行商人が来る辺境の小さな村に偶に顔を出すだけで、殆ど人と関わり合いにならずに過ごしていることだろう。

「研究熱心なのは良いですが、食事を忘れて研究していることもありますからね。少々心配です」

苦笑交じりにそんなこと言いながら、オーウェンの住む深い森の上まで移動し、場所を確認した。木々が並ぶばかりの森林の中からオーウェンの家の位置を探すのは中々骨が折れる作業だ。景色がずっと変わらない為、目印などもつけることは出来ない。

そう思って森を上から見回していたのだが、違和感に気が付いた。

「え?」

森の中に、明らかに人工の建築物があるのだ。大きさはそれほどでもないが、背の高い木々よりも一回りほど大きい塔だ。まったく装飾や彫像なども見当たらない、無骨なまでにシンプルな塔。高さは三十メートル以上あるだろうか。

「……あの見た目は、オーウェンらしい気がしますね」

なんとなく製作者の顔が脳裏に浮かび、苦笑してしまう。

すぐに塔の下へ移動し、地上から見上げてみた。周りは少し開けており、離れた場所に小川が流れているのが分かる。確かにオーウェンの住んでいた家の近くだ。家を壊して塔を建設したのだろうか。

「あ、これが入口でしょうか」

塔を観察していると、白い塔の壁の一部が銀色の両開き扉になっていた。こちらも一切の装飾が無い。まるで鉄板を半円状に切ったような無骨さだ。

なんとなく、扉をノックしてみる。すると、扉は内側から開かれた。

「……え?」

現れたのは、腰の高さほどの人形だった。素材は金属のようだが、ゴーレムだろうか。ずんぐりむっくりしたデザインは少し可愛らしい。

「アオイです。オーウェンはいますか?」

ゴーレムに尋ねてみると、ゴーレムは一度首を傾げてから一歩後方へ下がった。塔の中に身を引いたゴーレムを見て、中に入れということかと思い、足を踏みいれる。

そして、再び驚いた。

床は石のタイルが敷き詰められており、壁面には内側に金属板が貼られていた。壁側には棚が並んでおり、そこには様々な道具が陳列されている。奥には扉が一つだけあり、他には何もない。まさに、オーウェンの実験室といった部屋だった。

「……建物は変わっても中身は全く変わってませんね」

下手をしたら塔になって階層が増えたのに、実験室と研究室しか無い可能性もある。いや、後は素材部屋や倉庫か。

奥の扉の方へ移動し、もう一度ノックをしてみた。しかし、今度は反応が全く返ってこなかった。勝手に開けて良いものかどうか考えていると、先ほどのゴーレムがトコトコと歩いてくる。そして、ささっと扉を開けてこちらの顔を見た。

「入って良いのですか?」

尋ねてみるが、特に返事はない。まぁ、恐らく大丈夫なのだろう。そう思って更に奥へと足を踏み出した。扉を抜けると、正面には別の扉があり、右手を見ると階段があった。

「そこに実験室があるから、多分奥は倉庫ですね」

そんなことを言いながら、階段を登ってみた。二階に上がると、また広い部屋へとたどり着く。そこにもオーウェンはいなかったので、どんどん奥へと移動した。

「一階が実験室と倉庫。二階が研究室と書斎でしょうか。じゃあ、三階が寝室ですね」

二階を軽く見て回ってオーウェンがいなかったことから、奥の階段を使って三階へと移動することにした。三階に上がるとすぐに扉があり、ノックをして様子を見る。すると、すぐに応答があった。

「アオイか」

扉が内側から開けられてすぐにオーウェンが顔を出し、私の名を呼ぶ。それに驚いて口を開く。

「……よく分かりましたね」

そう呟くと、オーウェンは無表情で頷いた。いつもの白いローブではなく、動きやすいように作務衣に似た作業着を着ている。見慣れないが、この服も自分で考案したのだろうか。微妙に似合っていて面白い。

「うむ。ゴーレムにはアオイ以外入れないように命令してあるからな」

「わ、私以外?」

「こんな場所を訪ねて来る者はアオイ以外にいないからな」

「あ、そういえばそうですね……確かに」

オーウェンの言葉に納得して答える。全く変わらないオーウェンの様子に、思わず苦笑してしまったのだった。