軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法陣を分かりやすく?

新しい講義の承認どころか、学院の長から早く実施しろと懇願されてしまった。学院や生徒の為というよりは学長の知識欲の為、という感じなのが気になるところだ。

当初の予定とは違うが、とりあえず新しい講義が実現出来そうなので良しとすべきか。

そんなことを思いつつ、目の前で繰り広げられている白熱した議論に意識を向けた。

「しかし、グレン学長! いち早く理解した人の為にも、同時進行で実習の講義も実施した方が……!」

「いやいや! まずは基礎! そして、その基礎知識を補強する為の解説や概論をきちんとせねばならんのじゃぞい!」

「で、でも! やっぱり実際に見たいじゃないですか……!」

「ぐ、ぐぬぬぬ……確かに! よし、ならば毎日違う講義をしてもらえば良いのじゃ! そうすれば全て解決じゃぞい!」

「うわぁ、それは名案ですね!」

と、勝手に新しい講義の話が一人歩きしていることに気がつき、私は慌てて手を挙げて口を開いた。

「それだと殆ど生徒のいない講義ばかりになってしまいます。まずは概論と基礎の二つだけです。概論では魔法陣の在り方、概念と考え方を教えます。基礎ではもう少し実際に作ることを想定して、魔法陣の構成や種類などですね」

そう告げると、二人は眉根を寄せてこちらを見る。

「えぇ、それだと実習まで何年もかかっちゃいます……」

「せめて三ヶ月に一つずつ新しい講義を始めてくれんじゃろうか……」

二人は似たような表情と態度でそんなことを言った。本当に祖父と孫娘みたいだ。息も表情もぴったり同じである。

二人が魔法陣に対してとても興味を持ってくれていることは理解できるし、それは本当に嬉しいことだ。しかし、だからといって二人の言う通りにしたら大変なことになるのは目に見えている。

「基礎なら最低でも二十回は講義に出てもらいます。概論も同様です。そこまでやれば魔法陣の基礎が身に付くと思います。そうしてようやく簡単な実習を行うことが出来ます」

「むむむ……」

「ぐぐぐ……」

二人は両手で握りこぶしを作って唸る。それに苦笑しつつ、話を続けた。

「中途半端な知識で魔法陣を作れるようになれば、必ず事故につながります。怪我人どころか死者も出るかもしれません。それはお二人も望むところではないでしょう?」

「はっ」

「ぐっ」

二人は苦虫を嚙み潰したような顔で息を呑んだ。そして、揃って項垂れる。

「分かりました……」

「……仕方ないのう。それじゃあ、半年後に次の講義で我慢しようかのう」

「分かっていないような……」

グレンの返事を聞いて一抹の不安を覚えたが、とりあえず納得はしてくれたようだった。二人が大人しくなったのを確認して、今度こそ建設的な話に戻ろうと口を開く。

「それでは、魔法陣概論と魔法陣基礎理論の講義内容についてですが……」

三人で議論を重ねて、その内容を持ち帰って講義内容を決定することとなった。

しかし、魔法陣を一から教えるとなると不安も大きい。何十時間も講義を受けた結果、全く身に付かなかったなんてことになったら生徒達に申し訳ない。何としても基礎的な魔法陣は作れるようになる講義を考えなくてはいけないのだ。

「……試しに優秀な高等部の生徒に協力してもらいましょうか。そうすれば、魔法陣を教えるコツが掴めるかもしれません」

「ん? アオイか」

ぶつぶつ言いながら歩いていると、ストラスが正面から歩いてきて私の名を呼んだ。立ち止まり、顔を上げる。すると、ストラスが目を瞬かせて私の顔をマジマジと見る。

「……どうした? 酷い顔だぞ」

「失礼ですよ」

「そういう意味じゃない。顔色が悪いって意味だ」

ストラスは私の返事に呆れたような顔で言い直した。それに頷き、自分の悩みを伝える。

「……少し悩んでいるんです。新しい講義の許可は出たのですが、どうやって魔法陣を生徒達に分かりやすく教えるのか。この学院で習う魔術とは根本的に違う考え方ですから、通常の魔術と一緒に学ぶのはかなり難しい気がしています。もしかしたら、生徒達が混乱してしまうかも……」

正直に思っていることを吐露すると、ストラスは腕を組んで顎を引く。

「以前、俺が懸念したことだな。確かに、同時並行で詠唱魔術と魔法陣を学ぶのはかなり大変だろう。アオイはどうやって学んだんだ? アオイは詠唱魔術も魔法陣も両方とも覚えているんだろう?」

そう言われて、私は過去を振り返った。

思い出したのは、この世界で目覚めたばかりのことだ。私に魔術を教えたのは、オーウェンだった。

「……そうですよ。そもそも、私も魔法陣を自分で開発したのではなく、教えてもらったんです。それなら、最初に教えてくれた先生に聞くのが正解かもしれません」

「なに?」

首を傾げるストラスに、私は笑顔で頷いた。

「ありがとうございます。お陰で解決の糸口が掴めた気がします」