作品タイトル不明
楽しい魔術?
「それでは、まずは檻から出してもらって……」
そう告げると、ストラスが首を左右に振る。
「いや、申し訳ないが、そのまま魔術を使ってくれ。その方が、子供たちが怖がらない」
「……分かりました」
ストラスの言い分は分かるのだが、納得し難い。とはいえ、この講義はストラスが教員として受け持っているものだ。
仕方なく、檻の中から魔術を使うことにした。
さて、子供達が喜ぶ風の魔術とは何だろうか。火ならば花火みたいな見栄えの良い物もある。氷でも札幌雪祭りを真似したら楽しそうだ。土も同様である。
しかし、風は基本的には目に見えない。さて、どうしたら面白いだろうか。
そんなことを考えて、暫く身を寄せ合ってこちらを見る子供達を眺めていたが、ふと良いことを思いついた。
「……それでは、いきます」
思い浮かんだのはアトラクションだ。強い風を地面の下から受け、楽しそうに室内でスカイダイビング体験をしている光景である。やったことはないが、皆笑っていたから楽しいに違いない。
そう判断した私は、子供たちの足元に風の塊を設置した。上昇気流の元のようなものである。周囲から風を集め、逃がす先を空へと限定する。アトラクションの施設をイメージし、そっと周囲を筒状の透明な壁で囲んだ為、子供たちが変な方向に投げ出されるようなことも無い。
完璧な再現度だ。自分でも大満足の出来である。
風は予定通り子供達の体を軽々と持ち上げて空中に浮かばせている。子供たちは楽しそうに大きな声を出しながら見えない筒の中を上へ下への大騒ぎだ。
「お、おい! アオイ!?」
「どうしました?」
ストラスもやりたいのだろうか。興奮した様子で私の名を呼び、振り向いた。
「怖がらせてどうする!?」
「え? 楽しいアトラクションですよ? 慣れたら風を受けて自由に高さを調節できるようになります。飛翔の魔術の練習にも良いかもしれませんね」
そう答えて微笑むと、ストラスは天を仰いで自らの手で顔を覆った。見たことも無いストラスのリアクションを見て、流石に魔術の使い方を間違えただろうかと思い直す。
そう思って子供たちの方を見ると、確かに喜びの声というよりは断末魔に近いかもしれない。
「うわぁああん!」
「怖いよぉおお!」
そんな声も確かに聞こえた。どうやら選択を間違えてしまったようだ。
「すぐに魔術の使い方を変更しましょう。集団飛翔魔術に変更です」
慌てて、私は子供達全員を包み込むようにして風を制御した。すると、ふわりと見えない風船に包まれたように子供達が空中に浮かび上がる。ゆっくりと落下してくる子供達を見て、ストラスが足早に近づいて行った。
「皆、大丈夫だったか?」
ストラスが声を掛けると、震えていた子供たちの涙腺が一気に崩壊する。涙を流しながらストラスにしがみ付き、嗚咽の声を漏らす子供達。
これは、完全に失敗してしまった気がする。
「……あ、あの……」
ストラスにそっと声を掛けたが、ストラスはこちらを無言で振り返り、静かに首を左右に振った。
今この場で挽回する機会は無い。そう言われた気がして、仕方なく椅子に座り直し、檻の中で口を閉ざす。
「すまなかったな、皆。さぁ、今日の講義は終わりだ。校舎へ戻りなさい」
ストラスが声を掛けると、一人、また一人と校舎へと戻って行く生徒達。その様子はとても楽しいアトラクションを体験した後とは思えない。
全ての生徒達が出て行った後で、黙って生徒を見送ったストラスの背中を気まずい気持ちで見つめる。
「……アオイ」
「はい、申し訳ありませんでした」
名を呼ばれて、すぐに謝罪する。すると、ストラスは振り向いて微笑んだ。滅多に見れないストラスの微笑だが、その目を見ると何故か震えそうになるほど恐ろしかった。
「……アオイ」
「は、はい……」
自然と背筋が伸びる。緊張して待っていると、ストラスは檻の前まで歩いてきて、もう一度口を開いた。
「…………アオイ?」
「ご、ごめんなさい」
名を呼ばれているだけなのに、すぐに謝罪の言葉が口から出る。それにストラスは首を左右に振り、静かに右手の人差し指を立てて口を開く。
「後一回だ。次が最後の機会だと思えよ?」
「あ、ありがとうございます……誠心誠意頑張ります」
「絶対に、失敗するなよ?」
「しょ、承知しております」
そう返事をすると、ストラスは無言で檻を解除してくれた。檻が無くなると「帰るぞ」とだけ言って校舎に向かっていったが、その背中は明らかに怒りのオーラを放っており、とてもではないがそれ以上話しかけることは出来なかった。