軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初等部で講義をしたい

子供達にはスペイサイドやストラス、エライザから念入りに「アオイ先生は普通の人間です」と伝えてもらい、解放した。だが、解放されると同時に走って逃げる様子を見る限り、あまり意味は無かったように思える。

これは前途多難だ。

そう思いながらも、一応やることは決めていた。

「今日、初等部で講義をしますか?」

三人に尋ねると、スペイサイドが手を挙げた。

「私が、午前中に講義をしますが……」

不審そうにこちらを見るスペイサイド。それに頷き、提案する。

「参加させてください」

「ダメです」

一瞬で断られてしまった。どうしたものかとスペイサイドを睨んでいると、スペイサイドは溜め息を吐いて首を左右に振る。

「言い換えましょう。無理です……残念ながら、今の状況ではアオイ先生が講義室に足を踏み入れるだけで講義を中止にせざるを得ないでしょう。それは困ります」

「それは流石に……」

スペイサイドの言葉に異議を申し立てようとしたが、それにストラスとエライザも同意を示した。

「そうだな」

「間違いないです!」

二人の言葉に肩を落とし、静かに傷つく。おかしい。私は講義で怒鳴ることもないし、生徒相手に暴力で黙らせるようなことも……いや、多少はあっただろうか。理不尽な暴力は……まぁ、一人手違いで殴ってしまった生徒もいただろうか。

自分の過去の過ちを思い返していると、ストラスが腕を組んで唸った。

「……よし。俺が手を貸してやろう」

と、ストラスが助力を申し出てくれた。どうやら、良い案が浮かんだらしい。

「本当ですか? それは助かります」

地獄に仏とはこのことか。そんな気持ちで喜んでストラスに礼を言った。

「だ、大丈夫でしょうか……」

「初等部の生徒達が揃って自主退学などということにならないと良いのですがね……」

後ろで何か言っている人たちがいたが、それは気にしないことにした。

だが、ストラスの提案に乗って早々、もの凄く後悔した。

「……これは、どういうことでしょうか」

「安全措置だ」

一応確認をしてみたのだが、ストラスはこちらを振り向かずに答えた。私から苦情があると予想していたのかもしれない。

場所は演習場であり、講義は屋外での魔術を使った実践的なものだ。それに問題は無い。問題があるとしたら、演習場の中心にあるこの檻だろう。

成人した大人が五人はゆっくり入れそうな檻だ。その檻の中にちょこんと置かれた木の椅子があり、そこに私は座している。そして、檻のすぐ外にはストラスの背中があり、そのずっと向こう側には生徒達が青い顔をして並んでいる。

どういうことだろうか。普通の講義風景ではないように思えるのだが。

そう思ってジッとストラスの背中を睨んでいたのだが、ストラスは全くこちらを振り返ることなく子供達に講義スタートを伝えた。

「それでは、初級の風の魔術の講義を行う。今日は特別に上級教員のアオイ先生に見てもらいながらの講義となるが、あまり気にしないでいつも通りにやってくれ」

ストラスがそう言って講義を始めようとすると、生徒達の中から疑問の声が上がる。

「あの、だ、大丈夫ですか?」

「アオイ先生が檻に入ってるのって、もしかして……」

そんな声に、ストラスは自分の胸を片手で叩いて答えた。

「安心しろ。俺がいる」

ストラスが力強くそう断言すると、子供達は驚きと興奮したような歓声が聞こえてきた。

「……アオイ先生は普通の人間だから大丈夫だ、と言えば良いのではないでしょうか」

後ろから声を掛けるが、ストラスは無視して子供達の講義を始めてしまう。こんなことでは、下手をしたら更に変な噂が流れてしまう気がする。

そう思って溜め息交じりに講義を眺めていたのだが、中々面白い講義をしていた。以前霧を作ってストラスの講義の手伝いをしたことがあったが、それを再現しているのだろう。ストラスは木の枝を燃やして煙を起こし、煙を巻き込むことによって風を可視化して分かりやすく講義を進めている。

「このように、風の魔術は有用性がある魔術だ。応用すれば、声を遠くに届けたりすることも可能となる」

そう言って、風の魔術で生徒達の何人かの耳元に声を届けると、楽しそうな笑い声が上がった。

私も、こんな風に楽しく初等部の子供達に教えてみたい。そう思ったが、中々難しそうである。なにせ、時々こちらを見てくる生徒に微笑んでみても、凄い勢いでそっぽを向かれてしまうからだ。

少し悲しい気持ちになりながら講義を眺めていると、ストラスが軽く咳払いをして、初めてこちらに顔を向けた。

「……アオイ先生。せっかくだから、上級教員として何か面白い風の魔術を見せてくれないか?」

「え?」

突然話題を振られて、思わず目を瞬かせる。子供達もざわざわと隣同士で話しているではないか。

いや、しかし、それでも逃げてはいない。ストラスが面白い魔術を、と言ったのも生徒が怖がらないように配慮してのことだろう。そうだ。もしかしたら、楽しい魔術を使うところを見せて、子供達の持つ恐怖心を緩和しようという方法なのかもしれない。

「……やります」

私は意を決して腰を上げ、ストラスにそう言った。