作品タイトル不明
初等部での評判
スペイサイドから恐ろしい話を聞き、私は目を見開いて空中に浮かせたままだった子供達を見た。
「う、うわぁああ!?」
「た、食べられるーっ!」
確かに、子供たちは私の顔を見てあり得ないくらい怯えてしまっている。夜の森の中で野生の虎に遭遇したくらいの怖がり方だが、これは変な噂が流れている可能性もあるだろう。
「……今日の講義は午後からなので、午前中は初等部の調査に向かいます」
そう告げると、スペイサイドが深い溜め息を吐いて首を左右に振る。
「……それは止めてほしいのですが」
「何故でしょう?」
理由を問うと、スペイサイドは空中に浮かんだままの子供達を指差して答えた。
「アオイ先生がいらっしゃると、講義にならないからです」
「…………むむ」
何も言い返せなかった。確かに、これだけ怯えられてしまっていては顔を出すこともできそうにない。
「……分かりました。それでは、この子達に話を聞いてみましょう。まだ時間は大丈夫ですね?」
「それは……いえ、言っても聞かないでしょうから、せめて我々が同席しましょう。それならば認めます」
スペイサイドがそんなことを言うと、ストラスとエライザもそれぞれ反応を示した。
「それなら、確かに……」
「え? 私もですか? その、子供たちが可哀想になってしまいそうで……」
二人の反応に異議を申し立てたいところだが、確かに、子供たちの極端な反応を見る限り文句も言えない。
「……ちょうど他の子達も確保されたみたいですね。移動しましょう」
「え?」
疑似精霊たちが戻って来る気配を感じて顔を上げると、皆も揃ってそちらに目を向けた。空中をふわふわと浮かびながら疑似精霊たちが戻ってくるが、その背後には土の檻が浮いている。その檻の中には子供が一人ずつ閉じ込められていた。
「……アオイ先生。この捕まえ方はどうかと……」
ドン引きした様子のスペイサイド達から白い目を向けられたが、それには謝るしかない。
「疑似精霊には細かい命令をしていなかったので、檻が効率的と判断したようです……すぐに解除しましょう」
そう言って檻を破壊し、子供達を全員空中に浮かべた。
「おい、泣いている子もいるぞ」
「怖がらせてはいけません。急いで連れて行きましょう」
「いや、それをお前が言うのか」
ストラスとそんな会話をしながら、とりあえず場所を変えることにした。中には笑っている生徒もいるので大丈夫だろう。顔は覚えたので後で事情聴取することも出来る。
そんなことを考えつつ、我々は校舎から離れた演習場へ移動した。
ここは広くて高い壁もあり、多少騒いでも問題が無いような場所にある。そちらにも生徒が何人かいたが、子供を連れてきた私たちの姿を見てそっとその場を離れていた。
ここならば問題ないと判断して、子供達を地面へと降ろす。
「逃げたらまた捕まえますよ?」
「ひ、ヒィイイッ!」
「怖いよーっ!」
気を付けるように言っただけなのに、子供たちは皆で団子のようにくっ付き合って絶叫した。駄目だ。こんな状態では会話もままならない。
どうしたものかと悩んでいると、ストラスが溜め息を吐いて口を開いた。
「ほら、俺たちがいて良かっただろう?」
「代わりに質問してくれるのですか」
「ああ、エライザがな」
と、ストラスは偉そうにエライザを指名した。それにエライザも目を丸くして驚く。
「わ、私ですか!?」
驚くエライザだったが、その人選に関しては私も納得である。
「確かに、エライザさんが一番適任でしょう。スペイサイドさんもストラスさんも怖がられると思いますし……」
そう口にしたところ、スペイサイドとストラスは心外そうに揃って眉根を寄せた。
「誰が怖がられるって?」
「私たちは初等部専用の講義も行っていますよ」
「え?」
二人の言葉が信じられずに聞き返すと、スペイサイドが肩を竦めて子供達の方へ移動した。
「皆さん。何もしませんから、少し質問に答えてくれますか?」
スペイサイドが微笑を浮かべて尋ねると、子供たちは涙目で顔を見合わせた。さぁ、絶叫するぞ。そう思って眺めていたのだが、女の子が恐る恐るこちらを見ながらスペイサイドに対して口を開いた。
「……な、何もしないんですか? 本当ですか?」
女の子がそう尋ねると、スペイサイドの奥でストラスが腕を組んで深く頷く。
「大丈夫だ。俺たちが守ってやるから、安心して話すと良い」
「ほ、本当?」
「食べられない……?」
何故か、ストラスの仏頂面で言われた言葉を子供たちは素直に受け取った。どういうことだ。どう考えても私よりストラスの方が怖がられて然るべきである。
この世の理不尽を嘆いていると、子供たちが落ち着いたと判断したのか、スペイサイドがエライザの方に顔を向けた。
「それでは、質問係のエライザ先生。後はお願いします」
「なんですか、その係は……」