作品タイトル不明
初等部
朝日に照らされた学院内の大通り。生徒たちが楽しそうに校舎へと向かう。いつ見ても良い光景だ。
風がふわりと自分の髪を引っ張る気配を感じる。朝の涼しさと木々の香りを含んだ空気だ。今日は爽やかな朝だと嬉しい気持ちになった。
その時、大きな声で騒ぐ一団を発見して立ち止まる。高い声で騒ぐ集団は他の生徒達からの視線にも気付かず、通りの端っこで木に向かって声を出していた。
「おい、早くってば!」
「木の上だもん」
「届かないよ!」
そんなやり取りをする声に耳を傾けながら、集団の方へ向かう。人数は六、七人くらいか。
どうやら、木を前に集まっているのは初等部の子達のようである。年齢は十歳前後だろうか。中には八歳くらいの子もいそうだ。
「どうしたのですか?」
後ろから声をかけると、一番端っこにいた背の低い獣耳の少年が振り向き、私の顔を見て絶叫した。
「う、うわぁあああっ!」
その絶叫にビクリと肩を跳ねさせて、他の子達も振り向きながら一歩離れる。
そして、私の顔を見て絶叫した。
「で、出たぁああっ!」
「ひぃっ!?」
「逃げるぞ……っ!」
真ん中の一番背の高い犬耳を生やした少年が指示を出すと、子供達は散り散りになって走り出す。全力疾走で悲鳴を上げながら逃げていく子供達の背を呆然と見送っていると、大通りを通っていた生徒達から何とも言えない視線を向けられた。
遠くでロックスが笑っている姿も見えたので、後で問い詰めよう。
そんなことを思いながら、子供達が見ていた木の方に視線を向ける。枝の先を見上げていた気がしたのだが、何があるのだろう。
大きな木の枝を目で追っていくと、かなり上の方に小さな影を見つけた。
猫だ。
「……まさか、猫を下ろそうと? 自分で下りれると思いますが……」
そう呟きつつ、飛翔の魔術を使ってそちらへ向かってみる。枝葉が多い木なので、枝の外側から飛び、木の上から確認しようと思ったのだ。
すると、予想通り、こちらの姿に驚いた猫が慌てて枝から飛び降りていった。
子供達が下で待ち構えていたから降りることが出来なかったのでは?
そんなことを考えつつ、地面に下りる。
「やった! 逃げろー!」
「逃げてー!」
と、その時、大通りの奥からあの子供達が叫んだ。どうやら木から飛び降りた猫に言っているのだろうが、私が何をしたというのか。
「……とりあえず、話を聞いてみましょうか」
考えても分からないので、本人達に聞いてみよう。
そう思って、早速あの子供達を捕まえようと飛翔の魔術を発動したまま追い掛ける。
「わ、わわわっ!?」
「と、飛んでくる!?」
「に、逃げろー!」
子供達はそんな叫び声を上げ、再び散り散りになって逃げ出した。
「逃がしません」
あまりバラバラになってしまうと時間が掛かってしまう。一人一人を捕まえるにも時間が大事だ。そう思い、疑似精霊魔術を発動する。正面の方向に逃げた三人には私自身が、そして左右に逃げた残りの子供達には四体の疑似精霊が向かった。
「う、うわぁああ!」
「なんか来たぁああ!」
と、まるでお化けでも見たかのようなリアクションで学院内を走り回る子供達。気が付けば学院内では至る所から悲鳴や怒鳴り声のようなものが聞こえてきていた。子供達だけの叫び声ではない。なにか、騒ぎになっているような気がして気になった。
「ぎゃあああ!」
「つ、捕まったぁああ!」
悲鳴を上げる子供三人を空中に浮かしたまま、周りの様子を確認してみる。すると、遠くからこちらに向かって走って来る人影が目に入った。
「あ、アオイ先生ー!」
「何をしてるんだ、おい!」
現れたのはエライザとストラスだった。二人は血相を変えてこちらに向かってきた。
「どうしました?」
尋ねると、二人は目を見開いて口をぱくぱくと動かす。
「ど、どうしたじゃありませんよ!?」
「なんなんだ、この騒ぎは……!」
そう言われて、空中に浮かぶ子供達を指差す。
「何故かは分かりませんが、この子達が揃って私の顔を見て逃げ出したので理由を聞こうかと思って……」
本当に他意は無く気になっただけである。だが、正直に答えたのに二人の表情に変化はなかった。
「こんなことしてるから逃げられるんですよ」
「悪いが、怖がられても仕方がないぞ」
二人は全くフォローしてくれなかった。いや、確かに随分と大騒ぎになってしまったが、これは不可抗力である。
「そもそも、この子達と会話をしたこともありません。しかし、何故か私を見て叫びながら逃げられたのです。気になるでしょう?」
そう釈明するが、二人は目を細めて疑いの視線を向けてくる。その時、校舎の方から更に別の人物がこちらに向かってきた。
青い髪の教員。スペイサイドだ。スペイサイドは少し苛立たしげに近付いてきて、腰に手を当てて口を開く。
「……アオイ先生。学院内でそんなことをしているから、初等部で恐怖の大王などと呼ばれているんですよ」
「え?」
初めて聞いた呼び名に、私は思わず目を瞬かせたのだった。