作品タイトル不明
魔術具対決6
闇の魔術で作った黒い壁が徐々にロックスに迫る。
その状況は絶望的なものに見え、シェンリー達が悲痛な声を上げた。
「ロックス先輩! 降参してください!」
口々に降参するように言われて、流石にロックスの耳にも届いているはずだった。しかし、ロックスは意地でも降参はしないようである。こうなったら、ロックスは絶対に降参しないだろう。
どうしようもないと判断したら、最悪あの結界を破壊する。そう思って勝負の行方を見守った。
ロックスは再び炎の球を幾つも作り出し、黒い壁に向かって次々に発射する。だが、全て呑みこまれていく。これが広い空間であれば全方位から攻撃をすることも出来ただろうが、この結界内ではそれも出来ない。
どうしたものか。
うまくまとまらない思考でグルグルと考え込んでいると、ロックスの動きに変化が起きた。
魔術具を地面に押し当てて、何かしようとしているのだ。
「……何でしょう?」
何をする気なのかと注視する。すると、ロックスのいる地面が赤く色を変えていくのが目に入った。
「あ、あの小僧に魔術具を何個渡している!? また違う魔術だぞ!?」
不意に、ロイルが異議を申し立ててきた。それを放置して、ロックスの行動を見守る。地面はみるみる間に赤く染まっていき、それはやがて黒い壁の向こう側にまで広がっていった。そして、決定的な変化は訪れる。
ロイルの護衛の女が、魔術を解除して結界の端の方まで逃げるように移動していく。
一方、ロックスの方にも大きな変化が起きていた。額から無数の汗を流し、苦痛に呻いていたのだ。
「あ、足から煙が出てますよ!?」
「……まさか、地面を溶かしたのですか?」
ロックスの行動に驚愕し、状態を分析する。それにラングスは眉根を寄せた。
「なるほど。確かに、熱せられた地面は魔術によるものでもなく、さらに闇の魔術に向かっていくものでもない。ただ、自分を守る他の魔術を使えない状況だと、相手と自らを傷つけ合う危険な戦い方になる」
ラングスがそう評した通り、ロックスは自傷行為さながらの魔術の使い方で攻撃をしたのだ。それに、熱は明らかにロックスの足元の方が強い。
歯を食い縛りながら、ロックスは更に魔術具を使って攻撃を重ねる。先ほどよりも大きな炎の球を幾つも作り、敵に向けて放った。女は慌てて闇の魔術を使用して壁を作るが、炎の球はどれも壁に呑みこまれることはなかった。
全て、黒い壁の手前に落ちたのだ。炎の球は熱せられた石畳を更に真っ赤に染めるほど熱し、女の周囲を灼熱世界へと変貌させる。
たまらず、女が闇の魔術を解除して降参を訴え、自ら結界のロープを解いて外へと転がり出した。
「癒しの風!」
結界が解除されたのを確認するやいなや、即座に魔術を行使して二人の傷を癒す。同時に、地面の温度を冷やす為に土の魔術で表面を新たな石で覆っておいた。
「ロックス君!」
エライザが泣きそうな顔で走っていき、何とか立っているロックスの身体を支える。
ここにきて、予想外の魔術が出てきてしまった。あまりの状況に思わずロイルを睨むと、ロイルは冷めた表情で口を開く。
「本来ならこの魔術で怪我も無く無力化できるはずだったのだがな。勝手に無茶な反撃をしたのはそっちだろう? こちらが恨まれるのは筋違いだ。それより……」
言いながら歩いていき、ロイルは地面に手を突いて荒い呼吸を繰り返す護衛の女のすぐ隣に立った。手を貸すのかと思ったが、そのまま無造作に顔面を蹴りつけてしまった。まさかの行動に反応が遅れてしまう。
「この、馬鹿が……! 簡単に降参しやがって……その魔術具がいくらかかったか分かっているのか!? 死んでも死守するという気概はないのか、貴様……!」
怒鳴りつけるロイルだったが、女は蹴られた部分を両手で押さえて呻くばかりだ。答えられる状況ではない。街の中の広場で行われているのだ。周囲の人々からも騒然とした空気が伝わってくる。
「見ていて面白い状況ではないな」
ストラスがそう言って止めに行くが、他の護衛達が壁のように立ちふさがった。
「……何故止める? あれが正しいとでも思っているのか?」
ストラスが怒りを抑えきれずにそう尋ねる。しかし、女たちは無言で立つばかりである。その後ろではロイルが再び足を振り上げる姿があった。
「石の檻」
呟き、魔術を発動した。すぐさまロイルは石の檻に閉じ込められて行動が制限される。これに、ロイルの護衛達はそれぞれが持つ魔術具を私に向けてきた。
一触即発の空気となり、場は静まり返る。
その時、檻の中にいるロイルが口を開いた。
「……手を出したな? 対決の場以外で手を出すのは反則だろう? ならば、今の勝負は無効としてもらおう」
と、ロイルは笑みを浮かべてそんなことを言ってきた。
「……ふむ。檻に入れただけで手を出したというほどではないのではないかのう?」
流石に傍若無人が過ぎると判断したのか。状況を見守って来たグレンであっても反論をする。それにロイルは肩を竦めて馬鹿にしたように笑う。
「いいや、一般人に上級教員が魔術を使ったんだ。それだけでも十分過ぎるくらいだが、今は正々堂々とルールを決めて行っていた試合の最中だ。それを考えれば反則も良いところだろう? 無効にするのがこの対決分だけにしてやる俺の優しさに感謝するんだな」
ロイルがそう言って笑いだすと、ウィンターバレーの住民達の方が口々に文句を言いだした。
「汚いぞ!」
「無茶苦茶だ!」
そんな声が聞こえてくるが、ロイルは一切気にせず笑い続けた。そして、笑顔のまま観衆を振り返る。
「今、俺を批判した奴らの顔は覚えておくぞ! 忘れるなよ? 国も無視できない大商会に睨まれるってことを!」
怒鳴りつけるようにそう叫ぶ。これに、明らかに観衆達はトーンダウンした。自信に満ちた様子のロイルに、力を持たない一般市民は恐怖心を持ったのだろう。
「……分かりました。それでは、こちらからも一つ、ルール変更を申し出ます」
そう告げると、ロイルは嫌そうな顔でこちらを振り返った。
「これまでの勝負は全てなかったことにして構いません。その代わり、私とロイルさんとの勝負一回で決着をつけましょう。魔術具の数はそちらにお任せします」
「……随分と自信があるようだな。ならば、魔術具は予定通り二つだ。勝負は結界内に入ってから外で合図を出してもらい、開始とする。勝負に勝った方が全ての魔術具を手にする。分かったな」
「ええ、構いません」
あっさりとロイルは一発勝負を認めてルールを設定した。内容には特に文句も無い。
石の檻を解除すると、ロイルは何かの準備に護衛の女たちを集めて話し始めた。それを横目に、こちらも誰ともなく輪を描くようにして皆で集まる。
「……魔術具対決、楽しみにしていたのに……」
「あ、クラウンさん。やりたかったのですか?」
いの一番にクラウンががっかりした様子でそう呟く。
「皆、色んな魔術具を使えて良いなぁ……」
「後で魔術具を色々紹介しますよ」
「使っても良いのかな?」
「はい、もちろんです」
そんなやり取りを得て、クラウンはすぐに上機嫌になって送り出してくれた。
ある意味オーウェンと同じくらい分かりやすい男だと思って笑っていると、ロックスやストラスが真剣な顔で口を開いた。
「……あの野郎が何をするか」
「警戒した方が良い」
二人のその言葉に、シェンリーも不安そうに目を潤ませる。
「アオイ先生……」
「大丈夫ですよ」
皆を安心させようと笑顔で答える。
「本気でやりますから」