作品タイトル不明
勝負あり
ロイルの入札額を聞き、思わず肩を落としてしまった。
それに、ワイドが鼻を鳴らして指摘をしてくる。
「それよ、それ。そんな風に感情を見せるものじゃないわ」
「相手が勝ち誇っちゃうだけでしょう?」
二人からそう言われて、頷く。
「はい、申し訳ありません……しかし、どちらにしても負けは負けですから」
本当に残念である。オークションに負けたこともそうだが、あの希少な魔術具は実際に手に取って研究をしてみたかった。せめて、ロイルに使ってもらってどのように効果を発揮するかだけでも見ることは出来ないだろうか。
そう思って司会の男の横に置かれた魔術具を見やる。
「はい! そちらの方!」
その時、司会の男がこちらを指し示してそう言った。
「え? いえ、私はもう……」
返事をしようと思った時、背後から野太い声が響き渡る。
「金貨、一万五千枚よ!」
驚いて振り返ると、ワイドがロイルを睨みながら入札していた。これにはロイルだけでなく私も驚く。
「ワイドさん?」
魔術具を競り落とすつもりだろうか。そう思ったのだが、タキーがこちらにウィンクをして微笑んだ。
「今回は貸してあげるわよ。ただし、二人の貯金の金貨三千枚までね。アオイちゃんなら魔獣を捕まえてまた稼いでくれるでしょ?」
タキーがそう言うと、ワイドは力強い笑みを浮かべた。
「あ、ありがとうございます」
予想外の助っ人に感謝の言葉を述べる。しかし、無情にもロイルの入札は止まらない。
「一万六千枚!」
「うわ、最悪!」
「何なの、あいつ!」
ロイルが再度入札をすると、ワイド達は憤慨して文句を言った。遠目からでもそれが分かったのか、ロイルは歯を見せて笑う。
ワイド達の持つ三千枚を全額借りても足りない。これは、かなり健闘はしたと思うが、ロイルは更にうわ手だったということだろうか。
仕方がないと溜め息を吐く。その時、シェンリーが心配そうにこちらへ来た。
「あ、あの……私も、金貨一枚なら出せます」
その言葉を聞き、思わず耳を疑った。まだ学生でありながら、そんな大金を?
そうか。あまりにも大人しいからすっかり忘れていたが、シェンリーは立派な貴族令嬢だったのだ。
しかし、私は首を左右に振る。
「いえ、シェンリーさん。お気持ちだけ受け取っておきます。生徒からお金を借りるわけにはいきませんから」
そう告げると、コートが苦笑して頷いた。
「今、私も同じことを言おうとしていました。金貨五十枚までなら出せましたが……」
「い、いえ、それを受け取るわけにはいきません……というか、何故そんな大金を持ち歩いているのかが気になりますが」
二人にそう言って遠慮の意思を伝える。すると、エライザとストラスがこちらに顔を向けた。
「わ、私も金貨五枚なら……!」
「同僚が金を貸すだけなら良いだろう。とはいえ、金貨十枚程度しか手持ちはないが……」
「お気持ちだけ受け取っておきます。どちらにせよ、金貨千枚くらいは追加しないと勝負できないでしょう」
そんな会話をしている内に、オークションの司会は会場を見回して口を開いた。
「……さぁ! 金貨一万六千枚! これ以上はありませんか!?」
この言葉に、会場中が静まり返り、こちらを見ているような気配を感じた。
大いに盛り上がったオークションだったが、やはり噂のロイルと戦うのは厳しかったようである。実際、ロイルはどれだけ資金の余裕があるのかも不明だ。こうなってみると、先日の上級貴族との入札合戦も貴族側が早めに引いたのかもしれない。
今後もオークションで魔術具を手に入れるという手段は使え無さそうだ。
溜め息混じりに行き詰っている魔術研究について考えていると、誰かの声がした。
「二万だ」
「……は?」
新たな入札である。これを受けて、司会は間の抜けた声を発した。
「聞こえなかったか? 金貨、二万枚である」
改めて、男の声でそう言われる。これには司会も背筋を伸ばして声を張り上げた。
「へ、へ、陛下の入札です! 金貨二万枚! 金貨二万枚が出ました!」
これに、オークション会場は歓声ではなく騒然とした雰囲気になる。三階の中央を見ると、椅子に座ったまま笑みを浮かべるミドルトンの姿があった。いつの間に来たのか、隣にはレアと多くの女性陣も同席しているようだった。
「ミドルトンさんもあの魔術具が欲しいのでしょうか……それにしても、これだけ大騒ぎになるというのは、二万枚の金貨とはそれだけ大金ということでしょうね」
そう呟くと、ワイドとタキーが立ち上がってこちらを見た。
「違うわよ!」
「基本的に、王や公爵家の当主はオークションには参加しないの!」
「え? 出てはいけないということですか?」
二人の言葉に聞き返す。しかし、どうやら違うらしい。
「そうじゃなくて、国庫をある程度自由に使える国王や、王族として王国の予算を一部受け取ることが出来る公爵家の当主が参加したら興冷めでしょう?」
「そもそも相手が争う気もなくしちゃうから、オークションとしても成立しないのよ!」
二人から説明を受けて、成程と納得する。確かに、そんな背景があるならミドルトンの入札は会場の度肝を抜いたはずだ。
そして、それはロイルにしても同じはずである。
気になってそちらを見てみると、ロイルは苦虫を嚙み潰したような表情でミドルトンを睨んでいた。一国の王を睨むロイルに、護衛の女たちの方が顔色を変えているくらいだ。
「……ほ、他にありませんか?」
心なしか司会の声も小さくなってしまっている。静まり返った会場に、先ほどまでの熱気は無い。これは流石にオークションも終了か。
そう思ったその時、再び声が響き渡った。
「二万二千枚だ!」
まさかのロイルの入札である。
「に、二万二千! 金貨、二万二千枚での入札です!」
司会も驚きつつオークションを進行する。会場は徐々に熱を取り戻してきた。
「二万五千だ」
だが、再びミドルトンが入札すると、驚愕に支配される。
桁違いだ。明らかにミドルトンの方が余裕がある。それはロイルも感じているのか、怒りを滲ませた表情で睨んでいる。
「に、二万五千!! さぁ、金貨二万五千枚だ! 入札はありませんか!?」
可哀想に、司会は引き攣った表情で声を張った。
「三万! 三万枚だ、くそったれ!」
しかし、すぐに怒鳴り声でロイルの入札が入った。無礼だと処刑されてもおかしくない罵声入りだったが、司会は歓声をもって迎え入れる。
「おお! 金貨三万枚! 三万枚です!」
「四万よ。金貨四万枚」
司会が他に入札はないか。そう言おうとした矢先、今度は落ち着いた女性の声が響いた。
声のした方向を見やると、そこには苦笑するミドルトンの隣に座ってロイルを鋭く睨みつけるレアの姿があった。その周りではどこかの貴族の婦人らしき女性達が拍手をして笑っている。
レアの参戦は会場に大きな衝撃を与えた。
「四万枚……!? き、金貨四万枚です! ま、魔術具一つなのですが、間違いではありませんよね?」
司会も思わず不安になるような状況だ。
「ほ、他にありませんか? 金貨四万枚です! 入札は!?」
気を取り直して、司会が会場を見回しながら告げる。
ロイルは、もう入札はしてこなかった。
司会も十数秒ほど確認の声を掛けていたが、ついに片手を挙げて宣言する。
「金貨四万枚! 金貨四万枚で落札です!」
こうして、オークションはまさかのレアによる落札で決着となった。