軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本気の競り合い

「金貨三百五十枚!」

「……いませんか? はい、金貨三百五十枚で落札です!」

「金貨六百枚!」

「……いませんか? はい、それでは金貨六百枚で落札!」

オークションは順調に進んでいき、あっという間に多くの商品が落札されていった。

「……皆さん、お金持ちですね」

前回も思ったことだが、改めてオークションの金額の異常さを感じて呟く。僅か数時間で日本円にして数億、数十億の金が動いたようなものだ。貴族の出ではない私からすると信じられないことである。

しかし、シェンリーやコートからは苦笑が返ってくる。

「……多分、最後の目玉商品でアオイ先生が入札したら、会場にいる皆がそう思います」

「間違いなく、アオイ先生が凄いお金持ちだと思われますよ」

二人に言われて、そう言えばと頷く。

「そうですね。ただ実際には有り金全部で挑むような参加の仕方なのですが……」

指摘に同意しつつも内情を話せば、二人は似たような顔で笑った。いや、流石に教員として頂いている給料から少しずつでも貯金をしているが、今回のオークションで自分が支払うつもりの金額からすれば微々たるものである。

少し緊張しながらそんな会話をしていると、ようやく最後の目玉商品が紹介された。

「それでは、本日最後の商品を紹介いたします!」

司会の男がそう言うと、奥から二人の女が両側から挟み込むように何かを持って前に出てきた。台の上にそれをそっと置き、二人で商品に掛けられた布を取り去る。

現れたのは、成人男性の拳ほどの大きさの丸い物体だった。銀色と白い部分とがあり、比較的綺麗であまり歴史を感じさせるものではない。見た目からどんな効果があるものかは推測できそうにないことだけは確かだ。

興味深く窺っていると、司会の男は手袋をした手でその球体を持ち上げた。

「こちらの球体! 先日のオークションでも今日の受付でも宣伝させていただいたと思いますが、とても希少な魔術具です! その効果は、なんと一時的な生命の創造!」

司会の男が笑顔で紹介した内容に、会場中がどよめく。私自身、反射的に立ち上がってテーブルの奥にある柵まで出てしまったくらいだ。

魔術具研究の第一人者であるオーウェンも持っておらず、私も含め作成することが出来ていない魔術具が幾つかある。

一つ目は、聖女や聖人のみが使える癒しの範囲魔術。これは、メイプルリーフ聖皇国でも最上級に位置付けられ、範囲内の怪我人を一斉に治療する魔術のことだ。通常の魔術による治療とは違い、壁の裏など術者に見えない場所に居る者まで、範囲内の怪我人を全て自動で癒してしまうことが出来る。

二つ目は、エルフの王国の精霊魔術。異なる世界に棲む生命体を召喚し、それが持つ力によって魔術を補助し威力を増大させるというもの。召喚者本人にしか見えないのか、それともエルフで無ければ知覚できないのか。私にはその精霊と呼ばれる存在の居場所すら分からないものだ。

三つ目は、死んだ者を生き返らせる魔術。瀕死の者を救う治療の魔術ではなく、完全に死んでしまった者を、後から生き返らせる魔術の事だ。これに関しては何の糸口も何もない。

そして四つ目は、瞬間移動や転移の魔術。こちらは、瞬時に長距離を移動する魔術であり、移動する途中過程がないのに、突然別の場所に現れるという点で、術理が全く想像出来ない状態である。

今回のオークションで出品された魔術具は、生命の創造という効果だという。

これは、先に説明した四つの魔術とはまた違うものだと思われる。異世界から別の存在を召喚する精霊魔術に近いのか、それとも失われた生命を復活させる癒しの魔術に近いのか。

いや、完全に別のものであると考えた方が正しい。生命の創造。創造ということは、新たなものを生み出すということだろう。もし本当にそれならば、それは神の御業に等しい。

同様のことを思ったのか、ロイルもテーブルにもたれ掛かるように身を乗り出して魔術具を見下ろしている。

「……あの魔術具、何とか手に入れたいですね」

席についてそう呟くと、皆がこちらを向いた。

「が、頑張りましょう!」

「ロイルがどれくらいの資金を準備しているか、ですね」

「とりあえず、ありったけの金を掛けるしかないだろう」

同じ席に座る三人が真剣な顔で口々にそう言った。

そうこうしている内に、ついに司会がオークションを始めようと口を開く。

「さぁ、それでは入札を開始しましょう! この希少性は魔術具に詳しい方ならすぐ分かるものと思います! その為、金額は金貨二千枚から開始いたします!」

司会のその言葉に、会場中がざわめいた。金貨二千枚からスタートというのは異例なのかもしれない。

しかし、すぐにロイルが入札する。

「三千枚だ!」

ロイルが入札すると、一階の参加者の中から手が挙がった。

「三千五百枚!」

すぐに次の入札が入り、会場で驚きの声が上がる。ロイルと競り合うのか?という感じだろうか。

対して、ロイルは不敵な笑みを浮かべて片手を挙げる。

「四千枚!」

「四千五百枚!」

「五千枚!」

「五千五百枚!」

金貨五百枚ずつ、着実に値が上がっていく。これに釣られるように会場のボルテージも上がっている気がした。ロイルはその雰囲気に水を差すように低い声で入札を入れた。

「金貨、七千枚だ!」

ロイルのその言葉に会場は一瞬静まり返り、ロイルと競り合いを繰り広げている相手に視線が集中した。気になって私も一階の方を見てしまう。これまで真正面から競り合いをしていた相手も、どうやら金貨七千枚以上は出せないようだった。悔しそうな顔である。

「……金貨七千枚! 金貨七千枚が最高値です! 他にありませんか!?」

司会も会場の状況を軽く確認してそう告げる。

「あ、アオイ先生?」

「良いんですか?」

「おい、締め切られるぞ!」

皆にそう言われて、つい二人の競り合いに呑みこまれていたことに気が付く。

慌てて片手を挙げて、口を開いた。

「き、金貨一万枚!」

「……っ!?」

咄嗟に入札をしたのだが、司会が目を見開いて固まってしまった。一瞬の間を空けて、すぐに会場でとんでもない大歓声が沸き起こる。

「ちょ、ちょっと思い切りが良過ぎる気が……」

「アオイちゃん! 面白いわよ!」

「私たちは大好きよ、そういうの!」

エライザが呆れた顔をしたものの、ワイド達は大盛り上がりで歓声を送ってくれた。

どうやら会場の雰囲気は壊していないようで安心したが、対面にいるロイルの顔は苦み走ったものとなっていた。

「……一万一千!」

ロイルが怒鳴るように更に金額を上乗せしてくる。この行動に、皆が期待に満ちた目でこちらを見ているような気がした。

「困りましたね。もう残りが少ないです……一万一千五百枚」

余裕が無かった為、五百枚だけ上乗せした。すると、ロイルは明らかに勝ち誇ったような顔になって口を開く。

「一万二千枚だ!」

きっちり五百枚上乗せされてしまった。こうなったら、残り全て賭けて勝負するしかない。

「……最後の勝負です。一万三千枚でお願いします!」

祈るような気持ちでそう宣言した。一気に千枚上乗せである。これに会場中がどよめいたが、ロイルの笑みは崩れなかった。

「……アオイちゃん。オークション初心者の悪いところが出ちゃったわねー」

ふと、後ろからそう言われて振り向く。

そこには、これまでの態度が嘘のように真剣なワイドとタキーの姿があった。

「こっちの予算が完全にロイルに透けちゃってるわ。今みたいな時は、一万千枚に対して笑顔で、すぐに上限額まで乗せちゃった方が良かったわよ?」

「そうよー。そうしたら、相手はアオイちゃんがそれで素寒貧なんて思わないだろうから、もしかしたら諦めてくれたかもしれないわ」

二人にそう言われて、確かにと思う。しかし、もはや取り返しはつかない。

「……では、今回の競り合いは……」

そう呟くと同時に、ロイルが片手を挙げて入札した。

「金貨、一万四千枚だ!」