作品タイトル不明
再び王都へ
なんだかんだで十分な資金が用意できたと思う。
そう思って、ウィンターバレーにあるオークションハウスへと足を延ばした。
「あらー、アオイちゃん!」
「調子はどうかしらー!?」
支配人と副支配人はいつものテンションでカウンター越しに挨拶をしてくる。慣れてくると面白いと感じるから不思議だ。
「お陰様で、かなり高値でドラゴンが落札されました」
そう答えると、二人は呆れたような顔で溜め息を吐かれた。
「……アオイちゃん、毎週ドラゴンを狩ってるんじゃない?」
「乱獲するとドラゴンの価値が落ちちゃいそうねー」
その言葉を聞き、確かにと頷く。
「気を付けます」
返事をすると、二人は苦笑して似たような仕草で手を振った。
「冗談よー!」
「それで、いくらになったの? 高かったでしょう?」
落札額を聞かれて、すぐに口を開く。
「金貨一万枚です」
「げぇ!? 一万枚ぃいっ!?」
「嘘でしょ、何それ!?」
二人は予想以上のリアクションで驚いた。
「ロイルさんとダルモアさんという方が競り合いになって……」
「あらー」
「あの二人が……そりゃ面白いオークションになったわね」
二人の名前を出すとすぐに納得してもらえた。
「そういえば、さっき、げぇっ! なんて声出しちゃったわ」
「おじさんなのがバレるわよ、あんた」
「うるさいわね。ギリギリ女のあんたに言われたく無いわ」
落ち着いたのか、二人は変なやり取りをしてからこちらに顔を向ける。
「それで、一万三千枚もの金貨で、魔術具を一個? 勿体無くない?」
「いえ、元々魔術具を購入したくて準備したお金なので」
「わー、思い切りが良いわー」
「とりあえず、前に準備した金貨三千枚の手形は王都のオークションハウスでそのまま使えるから、頑張って落札してきてね」
と、二人は笑って言った。二人に笑顔で送り出されそうになり、申し訳ない気持ちで口を開く。
「……すみません。実は、そのことで折り入ってお願いがあってきたのですが……」
そう告げると。二人は顔を見合わせた。
いざ、月末となり、王都のオークションへと向かう日が来た。前日移動という形で王都入りし、一泊してから朝からオークションハウスに向かって準備する手筈である。
空は快晴で風も無い。飛行するには丁度良いコンディションだった。深呼吸をして、学院の方向へ振り返る。学院の敷地のすぐ外にある広場には大きな馬車二台が置かれてあるが、馬はいない。しかし、馬の代わりに少し個性的な面々が並んでいた。
「……しかし、思ったよりも大所帯になったな」
「なんか、旅行みたいで面白いですよねぇ!」
当初の協力者であるストラスとエライザがそう言って周りを見ると、その言葉に不服そうなロックスが文句を言う。
「調べれば、ロイル・ウェット・サルートは相当な危険人物という。こういう時こそ、地位や権力が身を守るのだ」
ロックスが鼻を鳴らしてそう言うと、コートが苦笑する。
「……他国での地位だとあんまり効果が無さそうだけれど、確かロイルはコート・ハイランド連合国の出身だったはずですからね。ほんの少しでもお役に立てたら良いですが」
コートは遠慮がちにそう言い、隣に立っていたシェンリーが冷や汗を流す。
「……わ、私は、いざという時はアオイ先生の盾になってでも守る気持ちです……や、やっぱり、あまりお役に立てないでしょうか……」
「大丈夫ですよ! 私も似たようなものですから!」
不安そうなシェンリーにエライザが笑いながらそんなことを言った。そんな学院の皆を横目に、口を尖らせるウィンターバレーのオークションハウス支配人と副支配人。
「……なぁーんで私らまで……」
「本当よ! 明日はうちだってオークションやるんだからね! せめて、このおじさん一人にしてよね!」
「誰がおじさんよ、誰が!?」
「アンタしかいないじゃない、おじさんって!」
朝から賑やかな二人がギャンギャンと文句を言い合う。ストラスの提案で呼ばれた二人だったが、まさか本当に二人とも付いてきてくれるとは思わなかった。
こんな風変りな二人だが、どうやら王国内のオークションハウスでは顔が利くらしく、二人を連れていけば王都のオークションハウスの支配人にも会うことが出来るとのことだ。確かに、オークションハウス側にも多少の話は通しておいた方が安心だろう。
「……ちなみに、ワシは何でじゃろうなぁ」
最後に、グレンが何とも言えない表情でそう呟いた。遠い目で青い空を見上げる様子は学院長らしい知的さを感じさせる。
「グレン学長はこの中で最も高い地位にいらっしゃる方ですし、他国の貴族であっても敬意を払うフィディック学院の長という肩書をお持ちですから」
「おお、思っていたよりヨイショされたぞい。しかし、役に立つかは不明じゃが……」
と、グレンは困ったように笑う。
それにしても、ロックスとストラスの協力があったとはいえ、これほどの人達が自分のオークション参加の為に集まってくれるとは、感無量である。
「……皆さま、本当にありがとうございます。絶対に、魔術具は落札してみせますので」
協力してくれる皆の為にも、貴重な魔術具は必ず落札する。そう決意して、皆に頭を下げた。
「金貨一万枚以上だ。国宝級のものが出品されても落とせるはずだ」
「頑張りましょう!」
「王都に着いたら父上にも声をかけておく」
「いや、陛下まで出てきてもらうのはやり過ぎじゃ……」
「これだけ凄い人たちが一緒なんだから、大丈夫ですよね……!」
「私は口利きだけだからねー!?」
「この前出した金貨三千枚でもう貯金も無いのよ!」
「……わしも、金銭面では力になれんが、陰ながら応援するぞい」
皆の言葉を聞き、胸にグッとくるものを感じた。皆の優しさに深く感謝し、魔術具を解明した暁にはそれぞれに自作の魔術具をプレゼントしようと決める。
願わくば、私の発想外の魔術具が出品されますように。
「……それでは、出発しましょう」