軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都のオークション前夜

「うっそでしょう!?」

「なんなのこの速さ!?」

片方の馬車からそんな声が何度も聞こえてきて、苦笑しながら振り返る。

生徒達だけが乗った馬車は私が飛行させており、ストラスとエライザ、支配人たちを乗せた馬車はグレンが飛行させている。最近ではグレンもかなりの腕前になってきており、飛行速度や正確な操縦についても及第点となっていた。

「おお、あの二人の声は集中力を削るのう」

グレンは困ったようにそう言いつつ、順調に馬車を飛行させている。

「……乗る馬車を誤った。煩過ぎる」

ストラスが馬車の窓から顔出してそう呟くと、支配人たちは思い切り顔をストラスの方へ寄せて怒鳴った。

「あーんたが私らを呼んだんでしょ!?」

「っていうか、この空飛ぶ魔術って伝説になっているような魔術でしょう!? この魔術が使えるような魔術具があったら金貨十万枚でも売れるわよ!?」

大声で喚く二人に、ストラスは頭痛を堪えるように頭に手を当てて溜め息を吐く。

それなりの速度が出せるようになったとはいえ、グレンの飛行速度に合わせると王都に着くのは夕方となる。申し訳ないが、ストラスには残りの数時間を我慢してもらうしかないだろう。そんなこと考えていると、グレンが苦笑しつつ呟いた。

「アオイ君の魔術具はどれも高く売れそうじゃな……わしも一つ二つ貰えんかのう?」

「……売ろうとしていませんか?」

「ギクッ」

漫画みたいな擬音を出し、グレンの顔が固まる。冗談かと思ったが、グレンは本当にお金がないのかもしれない。

「……学院はあれだけ盛況に見えるのに、運営は厳しいのですか?」

そう尋ねると、グレンは乾いた笑い声を上げた。

「い、いやいや、そんなことはないぞい? ただ、色々と出費が多くてのう」

そう言われて、ふと思い当たる節があった。

「……もしかして、私が色々と設備を壊してしまっているから……」

口にして、あながち間違いではなさそうな気がしてきた。冷や汗を流しながらグレンを見ていると、苦笑が返ってくる。

「まぁ、多少は教員や生徒が壊してしまった設備の修繕もあるが、他にも色々あるのじゃよ。そもそも、貴族以外の者も通えるように魔術学院としてはかなり安くしておるからのう。アオイ君が思ってるよりも収入は少ないのじゃよ」

グレンはそう言って笑ったが、何か事情があるようにも感じた。しかし、そこに立ち入って良いのかは分からない。

悩んでいると、シェンリーが窓から顔を出して声をあげた。

「あれ、王都じゃないですか?」

言われて顔を上げると、確かに巨大な城塞都市が見える。中央には王城もしっかりと存在した。

「はい、王都ですね。思ったより早く着いて良かったです」

シェンリーの問いかけに頷いて答える。すると、もう片方の馬車から支配人と副支配人が身を乗り出して叫んだ。

「思ったより早く着いたって言った!?」

「とんでもなく早く着いたわよ! どうなってんのよ!? この前私らが王都に来た時は滞在時間も入れて往復一ヶ月よ!?」

「私たちの時間を返して!」

「そうよ! なんだったのよ、私たちの一ヶ月は!?」

「知るか!」

ギャアギャアと騒ぎ出した支配人達に、ストラスが怒鳴る。ストラスが珍しく声を大にして怒っている為、ロックス達も窓から顔を出して見ていた。

そうこうしている内に、もう王都のすぐ真上にまで来てしまったので、グレンに声を掛ける。

「そこの城門前に降りましょう。前回もドラゴンを連れて降りたので、あまり驚かれないと思います」

「Oh……比較対象が当てにならん気がするぞい……」

グレンはなんとも言えない顔でぶつぶつ言いながら、地上へと降下を始めた。遅れて私も馬車を降下させるが、すでに地上から大騒ぎになったような声が聞こえてきている。

「……二回目なのに、何故でしょう」

あまりの騒ぎに驚いて呟く。

「いや、当たり前ですよ」

「空を飛ぶ魔術は、一般的には神話とか伝説の類の話になっているので……」

コートとシェンリーにまで突っ込まれてしまった。これには少し心にダメージを受けてしまう。

「もう各国で披露していますし、エルフの方にも使える人はいるようですから……」

そう言い訳をしたのだが、再び支配人達に火をつける結果となってしまった。

ギャアギャアと馬車の窓から身を乗り出して騒ぐ支配人達に、ストラスが怒りの声をあげる。結局、王都の中に入れたのは夕方近くとなってしまった。

小さな灯りを無数に使った照明と、赤い絨毯の敷かれた広くて綺麗なロビーだ。ちょっとした調度品でも相当な値打ち物に見える。

支配人達の口利きで、王都の中でも高級に分類される宿をとることが出来たのだが、流石に大国の王都の高級宿なだけあり、豪華絢爛だ。

もちろん、各国の王城はまた別格なのだが、一般人も泊まれる宿泊施設だと考えると信じられないほどである。

「ここのミートパテは絶品よー!」

「アオイちゃん、何食べたい? 奢ってあげるわよ!」

支配人達はもう気を取り直したのか、美味しい料理を食べれると上機嫌になっていた。少し早かったので、宿の経営するレストランの準備が完了するまでロビーで待っていたのだが、少々騒がしい。

「いえいえ、ここまで同行してもらっているのですから、皆さんの御食事代くらいは私が……」

そう言って支配人達に告げると、ロックスが腕を組んで笑みを浮かべた。

「まぁ、王家支払いで俺が出してやろう。王都なら殆どの店がそれで支払える」

「それはロックス君の支払いではないので、お気持ちだけ頂戴します。大人になって、自分で働いたお金で奢ってくれる時は是非お願いしますね」

そう告げると、ロックスは何故か顔を赤くして険しい顔をした。王族的には普通だったのだろうか。怒らせてしまったなら申し訳ない。

「まぁ、学生ですからね。とはいえ、私はきちんと父の手伝いをして収入を得ているので、自分でお支払いを……」

「いえ、私が出します。私の生徒ですから」

そんなやり取りをしていると、エライザが不安そうに口を開いた。

「アオイさん、大丈夫ですか? どうも一人金貨一枚いくこともあるみたいですよ」

「え? 金貨一枚?」

これまで払ったことの無い金額だ。それが一人一枚とは、なんと高額なのか。というか、ロックスは王家支払いとやらでそんな金額を支払うつもりだったのか。やはり貴族は金銭感覚がおかしい気がする。

あまりにも高額な価格設定に驚いていると、支配人が呆れたような顔で口を開いた。

「いや、アオイちゃんってば金貨一万枚以上持ってんのよ? なーに驚いてんのよ」

「支払いが気になるなら私らが払うわよ!」

「い、いえ、お支払いいたします。そうですよね。ドラゴンのお陰でお金は十分にあるんでした」

あまりに高級なレストランに気後れしたものの、現在は十分な資金があることを思い出し、ホッとする。これなら支払いは大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせながら、レストランへと繰り出したのだった。

ちなみに、味は本当に美味しかった。支配人達が詳しく、色々と料理を紹介してくれたのだが、どれも上品で素晴らしい料理ばかりである。ただ、自身の金銭感覚が狂ってしまわないかが心配だった。