作品タイトル不明
オークションハウスの改造
クリークに多少の騒ぎは気にしなくて良いと言われて、なんとドラゴンを飛ばして移動することとなった。むしろ、最も騒ぎになりそうな運搬方法だが、クリークは良い宣伝になるからと強行するつもりのようだ。
「衛兵には説明をしておきました。責任は私が取るのでお気になさらず運搬をお願いいたします」
クリークにそう言われて、仕方ないとドラゴンを檻ごと空へ飛ばす。ドラゴンの姿が現れてからずっと騒がしかった街道が更に大きな声に包まれた。
「では、我々も一緒に飛んで移動します」
それだけ伝えて、クリークも一緒に飛行する。衛兵には伝えたということだったので、そのまま城壁を上から飛び越えていく形だ。
案の定、城壁を超えて王都の上空に差し掛かった途端、物凄い騒ぎとなった。地上からは悲鳴や絶叫が響き渡る。
「……これは、下手をしたら大問題ではありませんか?」
「いえ、私はきちんとドラゴンをオークションハウスまで運ぶと伝えております。ご安心ください」
「空から、とは言ってなかったり……」
「方法については聞かれなかったので、失念しておりました」
「……あんたも中々のタマだな」
「いえいえ、重度の小心者ですよ」
飄々とした態度のクリークはそんな風に質問や自身への評価を受け流し、恐らく初めてであろう筈の飛行魔術を楽しんだ。そうこうしている内にオークションハウスの上空に辿り着き、クリークの指示のもと城壁側の道路へと降り立つ。
檻のサイズがギリギリだったが、何とかオークションハウスの壁を壊さずに降り立つことが出来た。周囲にはそれなりに人がいたが、城門付近の広場よりも遥かに少ない。
「こちらから搬入しましょう。ただ、檻のままでは恐らく中に入れないかと思いますが……」
クリークはそう言ってこちらを見た。
「それでは、一度ドラゴンに寝てもらいましょう。一時的ですが、中に運ぶ間くらいは持つと思います」
応えつつ、魔術を使う。調整が難しく苦手な魔術だが、仕方ない。
「 睡眠失考(ヒプノシス) 」
ドラゴンの周囲の酸素を減らし、微弱な電気の魔術で体を麻痺させていく。脳の思考力を低下させると同時に体の力を強制的に抜くように仕向けて睡眠を誘発させる手法だ。化学的な考え方だが、意外にもエルフの魔術から着眼点を得たオーウェンの開発した魔術だ。
魔術の効果を受けて、ドラゴンは次第に低い体勢になり、体を丸めて眠り始めた。
「……お見事です」
控えめにクリークが感嘆の声を上げる。
「そんな魔術も使えるのか……」
「私はもう驚きませんよ?」
ストラスとエライザも若干驚いていたようだが、そこまでの反応ではない。
そうこうしている内にクリークがオークションハウスのスタッフに声を掛けて両開きの扉を開けていた。巨人が入れそうな大きな扉だったが、確かにドラゴンの檻はそのままでは入れ無さそうである。
「檻を開けて中に入れますが、良いですか?」
「可能なら口を閉じさせるなど拘束もしてもらえると助かります」
「分かりました」
檻から出すと聞いて少し警戒心を覗かせたクリークだったが、すぐに石の魔術で口や爪などを隠すと安心した。
「中に入ります。我々が先導しますので、お気をつけてお進みください」
「はい」
そうして、滞りなくオークションハウスの会場へドラゴンを運ぶことが出来た。なんと、会場は歌劇の舞台のように豪華絢爛であり、広さは明らかにそれ以上のものだった。見事な装飾の施された壁面や天井、そしてそれに負けないような派手な赤い布が椅子やカーテンに使われている。地面は石造りのようだが、綺麗に磨き上げられている。まるで宮殿の中のような景色だ。
今立っているのはどうやらスタッフ側の場所のようで、もし参加する時はあの椅子のどれかに座るのだろう。
周囲を軽く見回すと、商品を置くための豪華な台座やテーブルがあった。それ以外は床と同じく綺麗に磨かれた石の地面だ。広さはかなりのもので、剣道の試合場三つ分より更に広いと思われる。
これならば、一番端の一部を檻にしてしまっても大丈夫だろう。
「もう少ししたら起きてしまうかもしれません。一番奥に置いて、檻を設置しますね」
そう言ってドラゴンを奥まで移動させ、会場の形に合わせて改めて檻を作成した。奥が少し鋭角になっている為、檻の形は三角だ。檻が動かないように地面に刺さった状態で檻を作りあげることにする。ドラゴンは無事、眠った状態のままで新しい檻に入れられることとなった。
その様子を確認してから、クリークは満足そうに頷く。
「これは、今度のオークションが楽しみですね。ドラゴンを生きたまま一体ですから、高値になることは間違いありません」
クリークの言葉を聞き、思わず気になっていたことを尋ねた。
「その、ドラゴンは落札されたらどのような扱いを受けるのでしょう?」
その疑問にクリークは眠ったままのドラゴンを眺めて唸る。
「お客様次第ではありますが、生きたまま運ばれてきたドラゴンの希少価値を考えると、殺してしまうようなことは無いでしょう。もし、運ぶ算段が付けば魔獣対策になるので領地のすぐ外で飼う領主もおられるかもしれません。そういったことを実際にされた方もいると聞いておりますので」
「……ドラゴンを飼う、ですか。かなりの量の食事が必要かと思いますが」
「一日牛一頭というところでしょうか。ドラゴンを競り落とすことが出来るような領主であれば、まったく問題はないでしょう。それよりも問題なのはドラゴンを生きたまま運ぶことです」
クリークがそう言って苦笑する姿を見て、頭の中でスケジュールを確認する。
「そうですね……ウィンターバレーと同程度の距離まででしたら、私がお運びいたします。恐らく一日掛からず着くでしょうから」
「ウィンターバレーまで一日ですか! それは素晴らしい! 大富豪とは時間を金で買うものです。一日で離れた領地まで戻れると知れば、少し落札価格も上がるかもしれません。それについても口上で言わせてもらいたいですね」
「はい、お願いします」
そこまで話したところで、ストラスが頷きつつ前に出てきた。
「とりあえず、出品手続きはこれで終わりで良いな? 後は、実際に参加して必要なものを競り落とすだけだ」
「はい、ありがとうございます」
ストラスに一礼しながら感謝の言葉を述べる。すると、エライザが胸を張って人差し指を立てた。
「オークションの先輩からのアドバイスですが、友人か誰かに参加してもらって代理で最初の入札価格を指定すると、それ以上の価格になるから安心ですよ! 後、入札争いになったらそこでもちょっとだけ上値で入札すると競争が過熱してもっと大金になったり……!」
自信満々にオークションの裏技らしき知識を披露するエライザ。だが、すぐにクリークが苦笑混じりに否定する。
「それらの行為はオークションのルールから逸脱しておりますので、あまり口にしない方がよろしいかと……」
「え!? ダメだったんですか!?」
「我が国で開催されているオークションでは、全てルール違反に該当するかと思われます」
エライザの裏技はルール違反だったらしい。それを横で聞いていたストラスも呆れたような顔でエライザを見る。
「そもそも、間違えて自分で自分の出品したものを競り落としたらどうするつもりだ? 落札者は一割から二割程度、オークションハウスへ手数料を払わないといけないんだから、間違いなく損をするぞ」
そんなストラスの指摘に、エライザは再び胸を張った。
「そんなミスはしません! これくらいは上がるだろうな、という予測はしっかりしてから少しでも高値になるように入札を……あ、でもルール違反なんだった……!」
衝撃の事実に、エライザは自らの頭を両手で挟むようにして掴み、天を仰いだ。
「……とりあえず、真っ当にオークションへ参加します」